ドラマ『家族

ブンコウ・イシカワ

 



   車が行き交う国道。

 走る車の車内、運転席に昌雄(50歳)助手席に和美(46歳)、後部座席に、

 涼子(19歳)と大輔(15歳)が、乗っている。

 

和美 「家に着いたら出かけるって、あなた、今何時だと思ってるのよ」

涼子 「まだ、七時じゃない」

和美 「着いたら八時過ぎるわよ。ねぇ、お父さん」

昌雄 「こんな夜更けに、どこへ行くつもりだ」

涼子 「夜更けって、ちょっとそこまでよ。友達と約束してんのよ。すぐ帰ってくるわよ」

和美 「メールで断りなさいよ。明日にすればいいじゃない、明日も休みなんだから」

涼子 「もう、だから」

和美 「メールしなさいよ」

大輔 「充電切れてるんだよ、携帯の」

涼子 「あんたはうるさいの。わかったわよ、家へ帰ったら連絡するわよ」

和美 「今日は断るのよ」

涼子 「わかったって。だから法事なんか行きたくなかったのよ」

和美 「無理について来なさいとは言っていないでしょ。あなたが一人で留守番はイヤだからって、

 ついて来たんじゃない」

涼子 「だから、わかったわよ」

 

   走る車、やがてスピードが落ちる。

   車は町中に入っていく。

   ウインカー繰り返される。

   静かに、不安な音楽が始まる。

   住宅街に入る。

   

 昌雄 「ようやく家に到着だ」

 

   車がゆっくり進む。

   明りが付いた家が立ち並ぶ。

 

昌雄 「あれ、おかしいな……」

涼子 「どうしたの?」

昌雄 「家の明かりが点いている……」

和美 「出かける時、消し忘れたのかしら。でももう出かける時、明るかったわよね」

 

   車、止まる。

 

大輔 「車庫に車が止まっているよ。誰か来てるんじゃない?」

昌雄 「誰が?」

大輔 「さぁ……」

昌雄 「誰もこの家の鍵なんか持ってない。あんな車も見たことがない……」

涼子 「泥棒?」

昌雄 「あんなにも明かりをあかあかと点けてか?」

涼子 「私たちが帰って来ないと思ってんのよ」

和美 「警察に」

昌雄 「まぁ待て、ここで降りて家の中の様子を見てくる」

和美 「気を付けてよ!」

昌雄 「ああ」

大輔 「俺もいっしょに行こうか?」

昌雄 「大丈夫だ、庭の方から様子を見てくるだけだから」

和美 「とにかく中を見たら、すぐに戻って来てよ」

昌雄 「ああ……」

 

   車のドアが静かに開閉し、昌雄かがんで出て行く。

   しばらくして戻って来て、車に乗り込む。

 

和美、涼子、大輔 「どうだった?」

昌雄 「それが……」

和美 「何?」

昌雄 「家族が住んでるんだ、それも普通に」

和美 「普通にってどう言うこと、家族って誰?」

昌雄 「知らない家族だ……」

大輔 「家に勝手に住んでいるってこと?」

昌雄 「わけが、わけが分からん」

 

   一軒の住宅。

   音楽高鳴る。

 

タイトル「家族」

 

   音楽終わる。

 

涼子 「家を、家を間違えてるんじゃない?」

昌雄 「ま、間違えるって、どこと?」

和美 「この辺は、よく似た住宅街が続いているし、夜だから……」

昌雄 「家を間違えるなんて、いくらなんでも、そんな……」

和美 「ずっと運転してきて、お父さん、疲れてるから……」

大輔 「しかし、あそこは……」

涼子 「私たちの家だよね……」

和美 「確かに、そうだけど……」

大輔 「あ、そこの電信柱に住所が載ってる」

昌雄 「近づいて見てみよう」

   

   車を進める。

 

和美 「どう?」

昌雄 「住所は合ってる……。やはりあそこは、俺たちの家だ!」

和美 「じゃあ私たちの家が、他人に乗っ取られたってこと?たった二日、家を留守にしただけで」

大輔 「どんな様子だった、その家族?」

昌雄 「カーテンの隙間から中を見ただけだが、三十代位の若い夫婦と小さい子供が、赤ん坊もいたな、

 普通に、普通にくつろいでいた」

大輔 「家具とかどうだったの?ウチのやつなの?」

昌雄 「そこまではしっかり見えなかったが、いつものウチの雰囲気だった」

涼子 「表札はどうなの?私たちの家のまま?」

昌雄 「表札は見ていない。車を近づけて見てみよう」

 

   車をバックさせ、止まる。

 

昌雄 「藤村か、表札も変えられている。とにかく」

和美 「とにかく?」

昌雄 「近くの交番に行こう」

 

   エンジンを吹かす。

   交番の駐車場に車を止める。


   交番内。

   デスクに座る警官。

   その前に昌雄ら四人が経っている

 

警官 「自分の家に他人が住んでいる」

昌雄 「はい」

警官 「どうして?」

昌雄 「どうしてって、こっちが、こっちが聞きたいですよ」

警官 「昨日、家族揃って田舎の法事に出かけて」

昌雄 「はい」

警官 「帰ってきたら、家に他人が住んでた」

昌雄 「家族でです、我がもの顔で」

 

   大きな地図帳をゆっくりとめくる音、続く。

 

警官 「今、地図で確認するけど、場所間違えてるんじゃないの?近くに似た住宅街あるし、夜だから……。     

 住所に間違いない?」

昌雄 「はい」

警官 「その家、ローン残っているの?」

昌雄 「え、ええ残っていますよ。それが?」

警官 「いや、で、その家に住んでる人は、何て言っているの?」

昌雄 「会ってませんよ!」

警官 「何で?」

昌雄 「何でって、会えますか?そんな人の留守に勝手に住み込んじゃう連中に!会えるわけがない」

警官 「普通に暮らしてるって言ったよね?怪しいところもなく」

昌雄 「怪しいですよ、人の家に勝手に住んでいるんだから!」

和美 「だから泥棒です!空き巣です!捕まえて下さい!」

警官 「犯罪者なら逮捕するが……。家族で普通に暮らしているんだよね」

昌雄 「普通にしてるからって……」

警官 「空き巣なら普通は、普通にそのまま、そこで暮らしたりしないよね」

和美 「私たちがすぐに帰って来ないと思っているんです」

警官 「本当に家、間違えてない?さっきも言ったけど、あの辺、同じような住宅街続いているでしょ……。 

 ああ、あった、地図。この住宅の、この……ここ、この真ん中の家?」

昌雄 「うん……、えっと……ああ、は、はい」

警官 「名前の記載がないな……」

昌雄 「どうして?」

警官 「何でかな?引っ越してきたばかり」

昌雄 「あの家は、私たちがずっと、五年以上住んでいる家です!」

和美 「いっしょに、いっしょに来て下さい。あの家に行けば、わかるんです。家を乗っ取られたんです、

 私たち!」

警官 「ちょっと待ってよ、今、その地区の、巡回の調査票を捜して来るから……」

 

 警官立ち上がり、書棚を開け書類を捜す。

 

警官 「書類を出すのに時間がかかるんで、その間に、免許証、用意してもらえますか?住所確認したいん

 で」

昌雄 「はい」

 

   昌雄、財布を出して免許証を捜す。

 

警官 「用意出来ました?」

昌雄 「おかしいな、見つからない……。おい、お母さん、免許証持っていないか?」

和美 「私の?私のって……」

警官 「車を運転して来られましたよね?運転されてた方、免許証を見せて下さい」

 

   和美、ハンドバッグを開け、免許証を捜す。

 

和美 「私の、免許証も見つからなくて……」

昌雄 「どうやら、車に置いてきたようです」

警官 「それでは」

昌雄 「あのー」

警官 「はい?」

昌雄 「また出直して来ます。おい、みんな行くぞ!」

 

   去る、四人。

   車に乗り込む昌雄と和美、車内を捜す。

   外から二人を見てる涼子と大輔。

   

涼子 「車の中にも、見つからないの?」

大輔 「(交番を見て)交番から様子、見に来るかも」

昌雄 「一旦ここを離れよう。免許証が見つからないと運転出来なくなる。二人も乗って!」

 

 乗り込み動き出す車。

 

涼子 「どこにもないの?どうして二人とも肝心な時に、免許証持ってないのよ」

和美 「あ、あった。バッグの別のポケットに入っていた。いつ、入れ替えたのかしら?」

昌雄 「胸ポケット?あ、免許証、内ポケットの、こんなところにあった。どうして財布から出して、ここに

 入れたんだろう?」

大輔 「じゃあ、交番に戻る?」

涼子 「なんか、あのお巡り、やる気イマイチだったわよね」

大輔 「俺たちの方を疑ってる感じだった」

和美 「すぐに家に向かってくれればいいのに」

昌雄 「あんな警官もいるさ。今夜はもう遅い。もう明日にしよう。明日、本署の方へ行けば、もっと真剣に

 取り合ってくれるだろう」

和美 「今夜、泊まるとこ、どうするのよ?」

昌雄 「どうするって」

和美 「家には、今夜、帰れないんだし」

昌雄 「この、車で眠ればいいだろう、十分広い」

涼子 「ウソ!暑くて眠れないわよ」

昌雄 「もう今さら、ホテルとか大変だ。もう車も十分冷えてる、夜だから暑さも大したことない」

涼子 「もう、顔も洗えないのよ」

昌雄 「明日には、明日には、何とかする。今夜は我慢しろ」

和美 「明日には、きっと家に帰れるわよ」

涼子 「そうだといいんだけど」

大輔 「腹減った」

昌雄 「コンビニで、何か買うか」

涼子 「また食べるの、こんな夜更けに……。あ、そう、携帯の充電器、買ってよ」

 

   車、しばらく走り、

 コンビニで止まる。

   夜の街の雑踏音、やがて消える。

   音楽、始まる。

   車の中で、弁当を食べながら話す四人。  

 

大輔 「結局、みんな弁当食べてるじゃん」

和美 「夕飯が早かったから」  

涼子 「私が法事なんかについて行かずに、家に残ってたら、こんなことにはならなかったんじゃないの?」

和美 「法事なんかって……」

昌雄 「一人で家に残ってたら、もっと危険だ。いっしょに来てよかったんだよ」

涼子 「危険って、赤ちゃんもいる家族でしょ。そんな大したことないわよ。きっと、子供を抱えてさ迷って

 来て、泊まるとこもなくて、それで留守の家があったから、勝手に住んじゃったのよ」

昌雄「他人の家に平気で住める奴なんて、正常じゃない」

涼子「私の部屋って、どうなってるんだろう?」

大輔「服とか、勝手に着てるんじゃないの、パジャマとか」

涼子「うそ!」

和美「やめなさいよ」

涼子「あんたの部屋も荒らされてるかもよ」

大輔「やばい!」

和美「何がやばいのよ?」

大輔「いや……」

昌雄「通帳や印鑑、それに家の権利書……」

和美「少しだけど宝石もあるわ、貴金属や現金も……」

涼子「みんな持って行かれるかも」

昌雄「今夜、家の前で見張っていたほうが、よさそうだな」

和美「行きましょうよ」

昌雄「ああ」

 

   車、発進する。

   音楽、止まる。

   車、しばらく行って止まる。

 

昌雄 「家の電気が消えてる……」

大輔 「でも駐車場には、まだ車があるよ」

涼子 「家で寝たのよ、クーラーがんがんにつけて」

昌雄 「わがもの顔で、人のベッドで寝てるのか、図々しい」

大輔 「見てくる?」

昌雄 「いや明日にしよう、今さらどうにもならん。みんな、少し眠れ」

和美 「お父さんは?」

昌雄 「ここでしばらく見張っている。ここなら一晩、車を駐めておいても、そう通行の邪魔にはならんだろ 

 う」

和美 「私が見張っているわよ、お父さん、運転で疲れているんだし」

昌雄 「眠れそうにない」

大輔 「みんなそうだよ」

涼子 「朝になったら、どうするのよ?」

昌雄 「まだあの家にいるようなら、隣にわけを話して、110番する」

和美 「お隣さんが証言してくれたら、お巡りさんもすぐに動いてくれるわよね」

昌雄 「とにかく、眠れる者は眠れ」

涼子 「あ、そう言えば、携帯の充電器!」

昌雄 「あ、コンビニで買い忘れた」

涼子 「もう!買ってって言ったじゃん。ちょっとあんた、こっちに足をやらないでよ!」

大輔 「何だよ、携帯が見れないからって、イラつくなよ」

涼子 「もう!」

和美 「こんな時にケンカしないでよ。そう言えば、あなた、友達にメール……」

涼子 「もういいわよ!」

 

   エンジンを止める。

   静寂。

   やがて雀の鳴き声。

   朝の住宅街の雑踏。

   車内。

 

涼子 「お父さん、起きて!」

昌雄 「うん?ああ……」

涼子 「見て、洗濯を干してる!」

和美「(目を覚まして)どうしたの?」

涼子 「家の庭で、女が洗濯物を干してるの」

昌雄 「今、何時だ?」

和美 「8時過ぎよ」

昌雄 「すっかり眠ってしまった」

涼子 「まるで自分の家みたいにしてる!」

昌雄 「とにかく、近所を回ってみる」

和美 「私もいっしょに行くわ」

昌雄 「ああ」

 

   車のドア開閉。

   不安な音楽、始まる。

 

大輔 「(目を覚まして)どうしたの?」

涼子 「起きた?お父さんたち今、近所を回っているのよ」

大輔 「洗濯干してんじゃん、あの女、自分の家みたいに」

涼子 「うん、そうだから。あれ、近所の人、出て来ない……。お父さんたち、他の家へ向かうみたい」

大輔 「近所の人が騒ぎ立ててくれなきゃ、あいつらの存在を許しちゃうぞ!」

涼子 「警察も呼べないよ」

大輔 「あれ、また近所の人、出て来ない。次の家にも行って……、ああ、おやじたち、戻ってくるよ」

涼子 「何か、おかしいな……」

 

   近づいてくる二つの足音。

   車のドアが開閉し、乗り込んでくる二人。

 

涼子 「どうしたのよ?近所の人に証言してもらって、警察呼ぶんじゃなかったの?」

昌雄 「近所も入れ替わっている……」

涼子 「はあ?」

和美 「お隣さんも、どこも表札が違っていて、知らない人たちなのよ」

大輔 「どう言うこと?」

昌雄 「わからん、どうなったんだ、俺たちの住んでたところは……」

涼子 「あれ?」

和美 「どうしたの?」

涼子 「バスが、幼稚園バスが」

和美 「幼稚園バスが、家のそばに止まった」

涼子 「出て来たわ。あの女が子供を連れて」

大輔 「ずっと住んでるんだ、あの家に。そうじゃなきゃ幼稚園バスが向えに来ないだろ」

昌雄 「聞いてくる!」

和美 「え?」

昌雄 「直接、あの女に聞いてくる!」

和美 「何て聞くの?乱暴なことにならないでよ。待って、私もいっしょに行くわ」

大輔 「俺も行く」

涼子 「私も行くわ」

昌雄 「急ごう!あの女が家に戻ってしまう」

 

   車のドアがいくつか開閉する。

   走っていく複数の足音。

   音楽、止まる。

   幼稚園バスが発車する。

 

昌雄 「(息荒く)あのー、ちょっと聞きたいんだけど……」

女 「え、はい?」

昌雄 「あのー、ちょっとね……、あのー」

女 「な、何ですか?」

和美 「すみません。つかぬ事をお伺いしますが、あの、ここには、いつからお住まいで?」

女 「はぁ、いつからって、一年くらい前からですけど、それが……」

和美 「私たち、ここに住んでいた者ですけど」

女 「以前ここに住まわれてた方ですか……。それで、何か?」

昌雄 「以前って、あの……」

涼子 「一年も前からって、それ本当?」

昌雄 「二日前まで、私たちが住んでたんだ……」

女 「何を言ってるですか?もう主人も出勤していないし、家に赤ちゃんもいますから、私……」

 

   去る。

 

和美 「あ、待って下さい!」

昌雄 「私たちの家なんだ、ここは。まだローンも残っている。ここは、私たちの家だ」

女 「何なんですか、あなたたち、変ですよ。変なこと言うと警察を呼びます!」

和美 「あ、待って!」

 

   家のドアが閉まる。

 

涼子 「警察を呼んでもらえばいいんじゃないの。そうすれば、はっきりするわ」

大輔 「何か、俺たちの方が不利みたい」

昌雄 「とにかく……」

和美 「とにかく?」

昌雄「車に戻ろう」

 

   車のドアが閉まる。

   車内の静寂。

 

和美 「お父さん」

昌雄 「何だ?」

和美 「会社休むって、電話しなくていいの?」

昌雄 「あ、忘れてた……。涼子や大輔は、学校に連絡しなくてもいいのか?ああ、夏休みか……。あ、ダメだ、充電切れて

   る。携帯貸してくれ……」

和美 「私のも充電切れ」

涼子 「だから充電器、早く買ってって言ったのよ」

大輔 「俺のもダメだよ」

和美 「コンビニに行けば、公衆電話があるかも……」

昌雄 「会社の電話番号がわからない、携帯が見れないと……。とにかく、まずコンビニ行って充電器を買って、それからだ

   な……」

大輔 「朝ご飯は?」

涼子 「またコンビニ弁当?」

昌雄 「どこかファミレスとかあれば、コンビニに寄った後に……」

 

   エンジンをかけ、発車する。

   車しばらく走り、音消える。

   レストラン内、雑踏。

   店内に音楽が流れている。

 

和美 「どう、携帯の充電?」

昌雄 「乾電池式だからな、なかなか充電できない。早く会社に電話したいんだが……」

 

   料理を運んでくる台車の音。

 

ウエイトレス 「お待たせしました」

 

   料理をテーブルに置く。

 

大輔 「あー腹へった。いただきます」

涼子 「いただきます」

 

   しばらく、黙って食べる。

   以下、食べながら。

 

大輔 「家の中がチラッと見えたんだけどさ、俺たちのいた時とは様子が違ってたよ」

昌雄 「様子?」

大輔 「おもちゃとかあって、どう見ても、最近住み着いたみたいじゃなかった。やっぱり、ずっと住んでるって感じだった」

和美 「でも……」

涼子 「一年前から、あの家族、あそこに住んでるって言ってたわよね」

涼子 「自信がなくなってきた」

和美 「自信って……」

涼子 「あそこ、本当に、私達の家なの?あそこは、本当に私達の町なの?」

大輔  「全部、入れ替わっちゃったのか……」

昌雄 「わけがわからん、あっちが正しくて、こっちが間違ってる……。一体どうなったんだ?」

 

  間。

 

涼子 「タイムスリップしちゃったんじゃないの、私たち……」

昌雄 「タイムスリップ?」

涼子 「だから時間があれよ、飛んじゃうやつ。よく映画であるじゃない」

和美 「まさか……」

昌雄 「そんな馬鹿な……」

涼子 「どこかで何年か飛んじゃって、それで、あの家が空き家になって、それで、あの家族が住むようになった……」

昌雄 「今日は、何年、何日だ?」

涼子 「携帯で、確認できない?」

昌雄 「うん、まだ……」

涼子 「あそこに新聞があるわ、持って来る」

 

   席を立ち、新聞を取って来る。

   新聞を受け取り、開く音。

 

昌雄 「合ってるな、今日の年月日」

  

  店内の雑音、しばらく。

 

大輔 「パラレルワールドってこともある」

昌雄 「パラレルワールド……」

大輔 「要するに、別の世界に来ちゃったってこと」

和美 「別の世界って?」

大輔 「要するに、この次元には、同時にいくつかの世界が存在していて、俺たちが何かの拍子に別の世界にワープして、

   その世界は初めから、俺たちが存在していなかった世界で」

和美 「何言ってるの?」

大輔 「つまり、俺たちがいない世界ってのが別にあって、そこへ俺たちが来ちゃったってこと、わかる?」

涼子 「そんな世界、本当にあるの?ゲームの世界じゃないんだから。あんた、ゲームばっかりやってるから」

大輔 「自分だってタイムスリップを持ち出したろ、これだってあり得るよ」

和美 「そんな奇妙な話ばかり……」

昌雄 「いや、パラレルワールド、そんな説があるってこと、聞いたことある」

涼子 「じゃあそれがあり得るとして、私たちが元からいない世界に来ちゃったことは」

大輔 「俺たちの存在を証明するものが何もないってことだよ、戸籍とかさ」

昌雄 「すると……、キャッシュカードとかも使えないわけか」

大輔 「現金しか使えないってことだよ」

涼子 「大丈夫、お金?」

昌雄 「現金って言っても、俺の持ち合わせは一万ちょっとくらいだ。お母さんは?」

和美 「私は二万くらいよ」

涼子 「私だって五、六千円くらいしか持っていないんだから、もしそうならこれから、それで暮らさなきゃならないって

   ことよ」

大輔 「俺、十万くらい持ってるよ」

和美 「何で、あなたそんなに持ってるのよ?」

大輔 「全財産持ち歩く主義なんだよ」

和美 「そんな大金、どうしてあるのよ?」

大輔 「だから貯めたんだよ。いいじゃないか、今は、無いよりいいだろう」

和美  「そうだけど……」

涼子 「身分を保証するものが何もなければ、仕事につくことも出来ないし、家も借りれない……」

和美 「不安なこと言わないでよ」

昌雄 「もし俺が今、会社に電話しても」

涼子 「そんな人はいないって言われるわよ」

昌雄 「会社に電話してみるか」

和美 「携帯、充電できた?」

昌雄 「長電話は無理かも知れないが、アドレス帳は見れるようだ……。入り口に公衆電話があるから、そこからかけてみ

   る……」

 

  立ち上がり去る足音。

  雑踏、しばらく。

  戻って来る足音。

 

和美 「連絡ついた?」

昌雄 「ああ、体調が悪いから今日休むと伝えておいた」

大輔 「と言うことは」

昌雄 「俺のことを知っていた。ここは俺たちがいない世界ではないってことだ」

大輔 「パラレルワールドでもないってことか」

和美 「当たり前よ、そんな訳のわからないことが起こるわけないわよ」

昌雄「しかし、わけのわからないことが、実際、起こっているんだがな……」

 

   近づく足音。

 

ウエイトレス 「こちら、お下げしてよろしいですか?」

和美 「あ、お願いします」

  

食器の音。

 

大輔 「ドッキリだったりして」

涼子 「え?」

大輔 「テレビのドッキリ番組……」

涼子 「二日もかけてやらないでしょ。すぐに種明かしするわよ」

昌雄 「何が、何が起こったんだ……」

和美 「お父さん……」

昌雄 「何かが、俺たちの身の上に起こった……。何か奇妙なことが起こったんだ。どこかで、どこかで俺たちの日常が

   おかしくなった……」

大輔 「どこかって……」

涼子 「どこか……」

 

   店内の雑踏。

 

昌雄 「戻ってみるか?」

和美 「戻る?」

昌雄 「帰って来た道をもう一度。何かに気づくかも知れない……」

 

   店内の音楽、消える。

   飛ばす車の音、しばらく。

   車内。

 

和美 「こんなに長く、家族がいっしょにいるのって久しぶりね」

大輔 「家がなくなっちゃったからね」

和美 「それはそうだけど、昔はずっと家族、いっしょでいたわよね、何をするにも」

昌雄 「そりゃ子どもが小さかったから、当たり前だ」

和美 「そうだけど……。食卓に揃って、みんなのいただきますって聞くと、いつも家族の幸せを感じたわ。でも最近はそう

   言うことも少なくなった」

昌雄 「子どもが大きくなれば、親となんか、そんなに、いっしょにいたくないさ」

涼子 「別にいっしょにいたいとか、いたくないとか、そういうことじゃなくて、いろいろ忙しいのよ、これでも……」

和美 「あの頃は、いつもいっしょで大変だったけど、楽しいことも多かったわよね」

昌雄 「こんな時に、何をノンキに思い出に浸っているんだよ」

和美 「でも、けっこう忘れちゃうのよね、子どもが小さかった頃のこと。一緒にどこかへ出かけたことや、いろいろ成長を

   見てきたんだけれど、忘れちゃうのよね。いつのまにか子どもが大きくなっていて」

昌雄 「それでいいんだよ。昔のことなんか忘れるさ。思い出を作るために家族があるんじゃない。子どもを育てるために

   家族があるんだ。いつか家族はバラバラになる、子どもが新しい家族を作るためにな……」

和美 「なんか、淋しいわね」

涼子 「子どもが家族を作るとは限らないじゃない」

昌雄 「そりゃ子どもの勝手さ。親はそうするってことだ」

和美 「いつかバラバラになるにしても、いざとなったら、一つになれるよね、今みたいに」

昌雄 「そりゃそうだ、やっぱり家族だからな」

和美 「こうやって車の中でいっしょに過ごしたことも、いつか思い出になるのかな。そして何十年もしたら、このことも

   忘れてしまうのかしら……」

昌雄 「感慨にふけるのもいいが、この問題が、解決してからにしてくれ……」

大輔 「忘れるって言えば……」

昌雄 「何だ?」

大輔 「ちょっと忘れることもあるかも知れないって言っていたよね、あの人たち……」

昌雄 「あの人たち?」

大輔 「ほら、注射受けたじゃない……」

昌雄「注射?」

 

   不安な音楽が始まる。

 

大輔 「思い出さない?そう言う俺も、さっきまで忘れていたんだけど」

涼子 「あ、思い出した!あの、検問のことね」

昌雄 「検問って?」

涼子 「ほら、帰り道で、検問にあったじゃない」

和美 「あの、ウイルスがどうのこうのと言っていた……」

大輔 「そう、お母さん、そうだよ、ウイルスだよ」

昌雄 「ウイルス……」

大輔 「思い出して来たぞ!警察の検問にあって、山奥にある研究施設から、ある種のウイルスが流出したとか言って、感染

   の予防にワクチンの注射を受けたんだ」

和美 「ああ、あの時、身分証明ってことで、免許証を出させられて……。ああ、だから免許証が別のところに入っていたの

   か……」

昌雄 「仮設テントみたいな所で、注射か……。その時受けた説明に、眠くなるとか、一時的に記憶をなくすとか混乱すると

   か……」

大輔 「お父さんも思い出した?」

昌雄 「あのワクチンの影響で、長年住んでた家を間違えたと言うのか?しかし、あの家は確かに……」

和美 「三十分くらいで記憶とか戻るって聞いて、ベッドでしばらく休んでいったわよね」

昌雄 「あの後、家に着くまでは何もおかしなことはなかった……」

大輔 「だけどみんな、あの検問のことは、すっかり忘れてたじゃん」

和美 「長く副作用のあるワクチンだったのかしら」

昌雄 「本当は強い副作用があるのに、たいしたことないって誤魔化して打ったのか……」

涼子 「今、携帯でいろいろ調べてみたけど、そんなウイルスが漏れたってこと、どこにも何のニュースにもなってないわ

   よ……」

大輔 「流出したのは、たいしたウイルスじやないとは言っていたけど、けっこう自衛隊とかも来ていて、大規模な検問だっ

   たよね……」

昌雄 「とにかく……」

和美 「とにかく?」

昌雄 「あのスタンドで、ガソリンを入れていこう」 

 

 音楽、止む。

 ウインカー音、やがて止まる車。

 いらっしゃいませと言うスタンド店員の声が響く。

 走る車、車内。

 

昌雄 「記憶をなくしてたって言っても、家のことを忘れていた訳じゃない。家の場所ははっきり覚えていたんだ。しかし

   他人が住んでた……。どう言うことだ」

涼子 「陰謀ってこともあるわ」

和美 「陰謀?」

涼子 「あのウイルスが流出したってのも、ワクチンだって打たれた注射も、全部ウソかも知れない……」

和美 「ウソって……」

涼子 「だいたい少な過ぎたと思わない、検問に会って注射を受けてた人。いくら山道でも、私たち以外、ほとんどいなかっ

   たじゃない」

昌雄 「陰謀って、いったい俺たちをどうしようと言うんだ?」

涼子 「社会からの抹殺よ」

和美「抹殺って、そんな……」

涼子 「家を奪われたら、私たち、ただウロウロとさ迷うだけよ。そしてやがて行方不明になって消えていくのよ」

昌雄 「何のために、俺たちを抹殺する?」

涼子 「私たち何かを見たのよ、または見たと思われてるのよ、国家が秘密にしてる何かを」

和美 「国家の秘密だなんて……」

大輔 「俺たちが見ちゃいけないものを見て、それでその証拠を消すために、ワクチンだと偽って、記憶をなくす注射を打っ

   たのか……」

和美 「もしそうだとしても、でもそれで証拠を消せれたなら、もういいんじゃない?」

涼子 「記憶を完全に消せるなんて思っていないのよ。一時しのぎよ。あの検問のことだって結局、私たち思い出したじゃ

   ない」

和美 「国家の秘密だなんて、私たちがいったいどこで何を見たって言うの。そんなまた映画とかマンガみたいな話、信じら

   れないわよ……」

昌雄 「だいたい、国が一般の市民に、そんなことをするだろうか……」

涼子 「国家ってのは裏の顔があって、いざとなったらけっこう怖いのよ。そう言う陰謀を企む組織があるって、特殊部隊と

   か、私、友だちから聞いたんだから、本当の話……」

和美 「ただのウワサでしょ、そんなの……」

昌雄 「その、国の組織ってのが、俺たち家族だけを陥れるために、あんな大がかりな検問を仕組み、家に他人を住まわせ、

   近所の人間も入れ替えてしまったと言うのか……」

涼子 「そう言うことも考えられるってことよ。秘密を守るためとは言え、さすがに直接には手が下せなくて、それでこんな

   手の込んだことを仕組んだのよ。私たちの家族だけだったかどうかはわからないけど……。その内、会社にも手が回っ

   て、お父さんの存在も消されるわよ。私たちだって同じ、学校にいなかったことにされるわ。それこそキャシュカード

   だって使えなくなるわよ……」

和美 「お父さん、こんな話、信じるの?」

昌雄 「信じるも信じないも、すでに信じれないことになっているんだから、可能性があれば、何だって疑ってみる……」

 

 軽快に走る車の音、しばらく。

 

昌雄 「あそこに橋が見えるな……」

  

 スピードを落とす。

 

昌雄 「この辺じゃなかったか、検問に会った場所?」

大輔 「え?ああ、そう言えば……草むらが広く続いていたよね……」

昌雄 「谷川沿いの道を来て、橋を渡ってすぐだった……。あの橋だったはずだ……」

涼子 「ずいぶんはっきりと思い出してきたわね」

大輔 「ああ、そこの空き地、そこだよ、そこ!」

 

   ウインカーを出して車止まる。

   ドアを開けて降りてくる。

   激しく蝉の声が響いている。

   草むらを歩く、いくつかの足音。

   蝉の声遠のき、不安な音楽が始まる。

 

大輔 「ここだよ、ここ一帯、間違いない……。ほら、トラックのタイヤの跡がいっぱい!」

涼子 「大きなテントを立てた跡みたいなのもあるわ……」

昌雄 「昨日の今日で、完全に撤収してしまったか……」

涼子 「怪しいでしょ」

和美 「でも、陰謀って……」

涼子 「携帯のマップで調べてるけど、この辺付近に、そう言う研究施設とか医療施設とか、そんな建物、何もないわ。どっか

   らウイルスが漏れたって言うのよ……」

和美 「国の陰謀だなんて、そんな恐いこと、今のこの日本で本当にあるの?私たちがここで検問に会って、それから四、五時

   間で家に着いたんだから、そんな短い時間で近所の人まで入れ替えたって言うの?」

昌雄 「それだけの時間があれば、出来るかもな……」

和美 「お父さん、本当に信じるの?」

昌雄 「だから、信じるも何も……」

和美 「私たちが何を見たって言うの?こんな山道で、国が秘密にしなければならない何を見たって言うの?」

涼子 「ここから離れてるけど、この山を越えた辺りに、自衛隊の演習場があるわね……、かなり広いけど。一般道も横切って

   る」

大輔 「その道を走ってて、俺たち何かを見ちゃったのかな、自衛隊の秘密兵器とか……」

和美 「もし陰謀が本当なら、国を相手じゃ手も足も出ないわ。かないっこない!」

 

 音楽、止まる。

 いっせいに鳴く蝉、やがて遠ざかる。

 

昌雄 「とにかく……」

和美 「とにかく?」

昌雄 「相手が国であれ何であれ、俺は必死で家族を守る……」

大輔 「俺だって協力するよ」

和美 「あなたはまだ……」

涼子 「私も力を貸すわ」

和美 「あなたたちに何が出来るって言うのよ……」

昌雄 「四人で力を合わせれば、何とか出来るさ。子どもたちも、もう一人前だ」

和美 「まだ一人前じゃないわよ、口は一人前だけど」

昌雄 「いざとなったら家族だから力を合わせるって言ったのは、お母さんじゃないか?」

和美 「もちろん私はお父さんに力を貸すわよ、いっしょに家族を守るわ。でも……」

涼子 「そんなことで言い合ってる時じゃないでしょ」

大輔 「それぞれが出来ることをするしかないね」

和美 「みんなが心配なのよ……」

昌雄 「国が秘密にしていることかどうかは、わからないが、何かを見たと言うのは、そんな気がする。まだ思い出せないが、

   確かに何かがあった、何かを見た……。何か大事なことをまだ忘れている」

大輔 「確かに、俺も……」

涼子 「そうね、私も……」

昌雄 「とにかく」

和美 「とにかく?」

昌雄 「先へ進もう。何かが見つかるかも知れない」

 

 エンジンをかけ、ウインカーを出して走り出す車。

 スピードを出して、しばらく走る。

 

和美 「パークがあるわね、けっこう広い……」

大輔 「建物があるよ。何か食べれる店とかないかな?」

昌雄 「寄って行くか。駐車場はあっちか……」

 

   スピード落とす。

   ウインカー音。

   低速で進む車。

 

和美 「小さいけど、レストランがあるわよ……」

大輔 「やってる?」

和美 「営業中みたいね……」

大輔 「やった!」

昌雄 「ここ、来なかったか?」

和美 「え?」

昌雄 「このレストラン……」

大輔 「ああ、向こう、祈念碑が立っているよ……」

昌雄 「あの、モニュメント……」

 

   急ブレーキを踏む。

 

昌雄 「思い出した……」

涼子 「私も……」

大輔 「僕も……」

和美 「私もよ……」

昌雄 「私の名前は、橋本昌雄」

大輔 「僕は、川田大輔」

涼子「私の名前は、志村涼子」

和美 「私は、佐藤和美」

昌雄 「私たちは……、私たちは、家族じゃなかったんだ!」

 

   車を降りた四人。

   風の音。

   はるか遠くで蝉の声。

   

昌雄 「この慰霊塔……、バス転落事故の慰霊塔、昨日はその除幕式だった……」

和美 「式典が終わって、あのレストランに、遺族がみんな集まった……」

涼子 「あのレストランの、一つのテーブルに、たまたま私たち四人、いっしょになったのよね」

昌雄 「話をしていて、一年程前に起こったあの峡谷へのバス転落事故で、四人とも家族を全員亡くし、一人だけ残った者だ

   とわかった……」

和美 「そしてあの時、お父さんが、いや、橋本さんでしたね、あなたが私たち三人を車で駅まで送ってくれることになっ

   て……」

昌雄 「いっしょに車に乗っていて、まるで家族が蘇ったように錯覚した。家族を失って一年、ずっと淋しさに耐えてきてたん

   だな。あの時、みんなもそう言っていた。私たち、本当の家族みたいだって……」

大輔 「そして、あの検問に会って……」

涼子 「あの注射のせいかな……」

昌雄 「たぶんな。記憶を無くすとか混乱するとか言っていたから」

涼子 「本当だったんだ、ウイルスが流出したって話」

昌雄 「あのワクチンの影響もあって、そしておそらく、さらに深く自分に暗示をかけてしまった……」

涼子 「催眠術みたいに?」

昌雄 「ああ、きっと、もう一度、家族を取り戻したいと言う思いが強くて……」

和美 「そして、私たちは本当の家族だと、思い込んでしまった……」

昌雄 「慰霊祭のことを忘れ、ただの法事から帰る家族になりきってしまったんだ」

 

  レストラン店内に流れる静かな音楽。

  以下、やや小声で――

 

和美 「結局、あの家は……」

昌雄 「私の一家がかって暮らしていた家だ。数年前に転勤で引っ越した……」

涼子 「自分の家だと思ってた」

大輔 「僕も……」

和美 「すべて思い込みだったのね……」

 

   料理を運んで来る足音。

 

店員 「お待たせしました」

 

   食器を並べる音、続く。

 

店員 「慰霊塔を見に来られたんですか?」

和美 「え、いや……」

店員 「この左手の坂を降りて行けば渓谷沿いに、とても景色がいいところに出ます。時間がありましたら是非ご覧下さい」

昌雄 「そうですか……」

店員 「このパークも、その観光スポットとして作られたのですけどね、今は事故の慰霊の場所のようになっちゃって……。

   あ、すみません、つい話かけちゃって。とても素敵なご家族だったものですから。どうぞ、ごゆっくり、お召し上がり

   下さい」

 

   去って行く足音。

 

大輔 「とても素敵なご家族だって……」

涼子 「そうよ、私たちは、とても素敵な家族なのよ」

和美 「そうよね……」

昌雄 「とにかく」

和美 「とにかく?」

昌雄 「食べようか」

和美 「ええ……」

大輔 「いただきます」

涼子 「いただきます」

昌雄 「お母さん……」

和美 「ええ、お父さん……、いただきます」

昌雄 「いただきます」

 

   音楽、しばらく流れて――

   終わり。