野田研究室
九州工業大学 情報工学部
物理情報工学科,電子物理工学コース
九州工業大学 情報工学部
物理情報工学科,電子物理工学コース
研究テーマ
当研究室では,「第一原理計算・インフォマティクスを活用した半導体物質の計算科学研究」をテーマとする研究を行います。
第一原理計算は量子力学の基本原理に従って分子構造・結晶構造の電子状態を解析する計算方法であり,現在は密度汎関数理論(Density Functional Theory:DFT)に基づく第一原理計算が学術界・産業界などで広く使われています。当研究室では,DFT計算から得られた計算データを基に,半導体物質の電子状態・結晶構造・物性の解析を行います。
近年の人工知能(Artificial Intelligence:AI)ブームに伴って築かれてつつあるデジタル社会に対応するために,数理科学・データサイエンス・AIの基礎知識やリテラシーを習得するための高等教育が注目されています。また,自然科学研究分野にAI・機械学習を取り入れた新しい研究分野が確立し(例:ケモインフォマティクス,バイオインフォマティクス,マテリアルズ・インフォマティクス),AI・機械学習の活用によって,従来の研究方法では明らかにできなかった研究成果が次々と報告されるようになりました。当研究室では,研究テーマに応じてインフォマティクス技術(機械学習,情報科学,数理科学)を応用した半導体物質の理論解析の研究(マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)研究)を進めます。
当研究室の主な研究テーマは,以下の通りです。
【DFT計算を用いた無機半導体物質の電子状態・結晶構造・物性解析】
無機系の半導体物質を対象にDFT計算を用いた理論解析を行い,電子状態(状態密度,バンド構造,電荷密度分布など)・結晶構造(最適化構造)・物性(エネルギー的安定性,バンドギャップ,誘電率など)を求めます。主な研究対象は,電子デバイス半導体(シリコン,Ⅳ族混晶半導体など),パワーデバイス半導体,誘電体,低誘電率材料,熱電材料です。
【機械学習原子間ポテンシャルの開発】
DFT計算では物質中の原子の挙動を解析できるが,厳密な電子間相互作用を計算するために膨大な計算コストが必要である。したがって,DFT計算で扱える結晶構造のサイズは最大で1〜2 [nm^3]程度(原子数:300〜400個程度)であり,複雑な欠陥構造や細かい割合の不純物濃度を持つ結晶構造を扱うことは困難である。この問題点を解決する手法として,DFT計算の全エネルギーや原子間にはたらく力を学習した機械学習モデルを用いて原子スケールシミュレーションを実行する機械学習原子間ポテンシャル(Machine Learning Interatomic Potential:MLIP)が提案されています。当研究室では,大規模な結晶構造サイズ(原子数:1万〜10万個程度)の半導体物質の原子スケールシミュレーションへの応用を目的として,機械学習原子間ポテンシャルを独自に開発する研究を進めています。
【半導体物質の安定原子配置の探索】
特定の組成式や欠陥構造を持つ結晶構造モデルを作成する時,個々の原子の配置を決定する必要がある。しかし,原子の配置に膨大な数のパターンがある場合,結晶構造モデルを決定することが困難である。この問題点を解決するために,当研究室ではDFT計算と組み合わせ最適化アルゴリズムを連携させた計算手法を実行し,目的の結晶構造モデル(例えば,エネルギー的安定性が最も低くなる原子配置)を探索する研究を行います。この安定原子配置探索の計算を,半導体物質の母構造,欠陥構造などのシミュレーションに応用します。
【半導体物質の定量的構造物性相関の研究】
ケモインフォマティクスやバイオインフォマティクスで注目された分子構造と科学的・生物学的活性の相関関係を表す定量的構造活性相関(Quantitative Structure-Activity Relationship:QSAR)に倣い,結晶構造と物性の相関関係を表す定量的構造物性相関(Quantitative Structure-Property Relationship:QSPR)の解析が注目されています。当研究室では,特定の物質群を対象にDFT計算による膨大な材料データ収集(ハイスループット計算)を実行し,収集したデータから特定の物性値を予測する機械学習モデルを構築し,QSPRを解析する研究を行います。
【その他】
発展的な研究テーマとして,独自のアーキテクチャを持つニューラルネットワーク機械学習モデルの開発や,新しい組み合わせ最適化アルゴリズムの開発などの研究も進めています。