国際疼痛学会(痛みの研究のための国際連合International Association for the Study of Pain, IASP)は,2017年,「侵害受容性疼痛nociceptive pain」「神経障害性疼痛neuropathic pain」にならぶ,機構に基づく痛みの第3の分類として「nociplastic pain」を発表しました(国際疼痛学会用語サイトを開く).
これは,痛覚の変調によって,①侵害受容器を活性化しうる実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態の明らかな証拠,あるいは,②体性感覚神経系の傷害や病変が痛みを生じさせている証拠,がなく生じる(訴えられる/表出する)痛みを指しています.
2021年,日本痛み関連学会連合の用語委員会は,このnociplastic painに対して,「痛覚変調性疼痛」という日本語訳を提案し,同連合によって正式に採択されました(日本痛み関連学会連合サイトを開く).
原因を同定することのできない痛み,原因とは無関係に生じる痛み,ストレスや心理的な状態などの「心理社会的」な要因で生じる痛み,など,従来の「侵害受容」や「神経障害」では説明のできない痛みがこの痛覚変調性疼痛に分類され,今までの治療法とは異なるアプローチが必要であることがわかってきました.
この「痛覚変調性疼痛研究会」が」目指すことは,(1)病院の診療科の壁を越えて出会う「原因の同定できない痛み」について,広い医学・薬学・生物学・心理学領域の専門家で知識や情報を共有する,(2)脳の幅広い働きによってこのような痛みが生じたり,その強さが変化する仕組みについて,臨床的な立場からの情報を共有する,(3)組織の損傷を伴わずに生じる痛み様行動の機構について,非臨床的研究の立場から明らかにされたことについて情報を交換する,(4)これらを通じて,痛覚変調性疼痛の機序の痛みに苦しむ患者さんの苦痛の緩和に貢献する,そして,(5)このような痛みをわざわざ生み出して自分を苦しめる脳のはたらきと動作原理とその生物学的意義を解き明かす,の5点です.これらの領域横断的な幅の広い分野からの情報提供と議論を通じて,「痛みとはなにか?」を解き明かし,痛みで苦しむひとびとの苦痛を和らげることに貢献したいと考えています.
なお,本研究会は,2023年度東京慈恵会医科大学学外共同研究補助金の支援を受けて開催されます.
東京慈恵会医科大学・痛み脳科学センター センター長
日本痛み関連学会連合・用語委員会 委員長 加藤総夫
東京慈恵会医科大学・痛み脳科学センター
センター長:加藤総夫(総合医科学研究センター・神経科学研究部教授)
支持療法疼痛制御研究室・教授 上園保仁
ペインクリニック診療部長・教授 倉田二郎
事務局長:高橋由香里(総合医科学研究センター・神経科学研究部)
事務局:杉村弥恵(同)
事務担当:垂水崇子(同)