近年、騒音が動物に与える影響についての関心が高まっています。特に、音は水中での透過性が高いため、水中騒音の海洋動物への影響について関心が持たれてきました。しかし、陸上(砂浜)で産卵・孵化するウミガメ類にとっては、陸上(砂浜)での騒音が問題になる可能性もあります。そこで、今回は、アオウミガメが孵化後、砂中を移動するときに、騒音がどのような影響をもたらすのかについて調べました。
室内に実験用のチャンバーを設置し、3区分(何も音を聞かせない対照区、自然環境レベルのホワイトノイズ騒音を聞かせる実験区、大きなホワイトノイズ騒音を聞かせる実験区)の音環境での実験をおこないました。チャンバーの中央をガラス板で仕切り、片側にアオウミガメの卵20個を入れ、砂を入れて擬似的な産卵巣を作りました。反対側には赤外線カメラを設置し、孵化した幼体が砂中から脱出するまで記録します。また、砂中に録音機のマイクを設置し、音からも行動を計測できるようにしました(参考)。なお、「自然環境レベル」は対照区+13dB程度(砂浜での通常の波音レベル程度)、「大きな騒音」は対照区+25dB程度とし、騒音30分+無音2時間30分のサイクルを繰り返すこととしました。
幼体から発せられたと考えられる音も録音されていましたが、その回数は大変少なく、生態・行動上の意味を議論することはできませんでした。また、脱出までにかかった時間に3区分で有意な違いはありませんでした。しかし、「大きな騒音」曝露時に活動が顕著に増加することがわかりました。さらに、「大きな騒音」曝露後には活動が低下することもわかりました。これは、捕食者に巣を掘り返されたときの逃避や、近くの幼体との同調的な行動をおこなうために音が重要な刺激となっている可能性があることを示す一方で、人為的に継続的な騒音が発生する場合には砂中で幼体が無駄にエネルギーを消費してしまう可能性を示しているといえます。これまであまり考えられてこなかった砂浜周辺での騒音の動物への影響についても、今後考えていく必要があるかもしれません。
詳細は...
Maeda Y, Nishizawa H, Kondo S, Ijichi T, Ichikawa K (2024) Effect of noise on sand digging and emergence activities in green turtle (Chelonia mydas) hatchlings. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 570: 151974