動物の直接観察が難しい場所は、水圏や大気圏に留まりません。地中にも、我々の目の届かない世界は広がっています。ウミガメ類も普段は水中で生活しているが、砂浜で卵を産み、孵化した幼体は砂中を移動して、地表に脱出してきます。この孵化から脱出までの行動については意外とわかっていません。地表面に脱出するのは主に夜で、同じ産卵巣内のきょうだい個体と同調的に行動していることは報告されていましたが、そもそもきょうだい個体と同調的に孵化しているのか、孵化から地表面までの移動はいつどのようにおこなわれているのかは不明でした。
そこで、本研究では録音機を産卵巣(野外の自然巣および室内の実験室に移植したもの)に仕掛け、アオウミガメ幼体の孵化・脱出時の録音をおこないました。鯨類・海牛類などの研究でよく用いられている受動的音響観測の地中版です。対象は鳴音・エコーロケーションパルスではなく、ウミガメが砂中で動く時の活動音です(ウミガメも鳴くという話はあるが、それはまた別のおはなし)。
データをもとに、いつ活動音が発生していたかを調べると、脱出直前の夜~朝に多くの活動音が見られるという当然の結果がみられた一方で、①巣内のすべての個体が孵化する前から、砂中での活動が生じている、②脱出の約20時間前に加えて、45時間前、85時間前付近の夜間にも活動性の上昇がみられ、温度を一定環境にした室内でも夜間に活動性の上昇がみられる という興味深い結果が得られました。これらの結果から、①孵化は数時間以内のような短時間で一斉に生じるわけではなく、ある程度の時間幅を持って生じている可能性があること、②砂中での活動性には、日周的なリズムがみられ、これは温度のみに依存しているわけではない可能性があること がわかりました。
これまで、淡水性のカメ類やヘビ類において、温度や光環境が一定であっても胚の代謝が日周的なリズムを持つことが報告されていましたが、ウミガメ類でも同様である可能性があります。どのようにしてその日周的な活動リズムが形成されるのか、今後も調査を進めていきたいと思います。
※バイオロギング研究会会報No. 179に掲載された解説記事を編集・再掲したものです。
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Nishizawa H, Hashimoto Y, Rusli MU, Ichikawa K, Joseph J (2021) Sensing underground activity: Diel digging activity pattern during nest escape by sea turtle hatchlings. Animal Behaviour 177: 1–8