量子アニーリング


概要

最初の提案 量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解くための汎用近似解法として1998年の門脇と西森の論文において現在広く使われている形で提案・定式化された

意義と展開 多くの実用的に重要な問題が組み合わせ最適化問題として定式化できるので、その解法の研究は大きな社会的意義を持つ。また、確率分布を生成するサンプリングや量子シミュレーションへの適用の研究も進んでいる。

開発の現状 D-Wave社が量子アニーリングを実現するデバイスを開発し、Google, NASA, ロッキードマーティン, ロスアラモス国立研究所、ユーリッヒ総合研究機構などが実機を導入している。また多くの企業、大学、研究所がD-Waveのクラウドサービスを利用ている。

高速性 量子アニーリングが最適化問題を古典コンピュータより効率よく解けるのかについての一般的な理論は確立していない。様々な具体例や近似理論、特定の条件下での実験などによる研究が進んでいる。最近の論文リストはこちらこちら

基礎と応用 基礎研究と並行して実社会の課題での実証実験も活発に行われている。基礎と応用が同時進行しているのがこの分野の特徴である。2023年2月の研究会のプログラムも参照。

解説や動画
米国科学・工学・医学アカデミーによる量子コンピュータの進歩と展望(西森秀稔訳)共立出版
量子アニーリングの基礎(西森秀稔、大関真之著)共立出版
P. Hauke, H. G. Katzgraber, H. Nishimori, and W. D. Oliver, Rep. Prog. Phys. 83, 054401 (2020).
T. Albash and D. A. Lidar, Rev. Mod. Phys. 90, 015002 (2018)
E. K. Grant and T. S. Humble, Oxford Research Encyclopedia of Physics (2020)
D-WaveのEdward (Denny) Dahl 氏によるウェビナー

動作原理

量子アニーリングは、量子効果により離散変数関数(目的関数)の最小値を探す問題(組合せ最適化問題)を解く手法である。 量子アニーリングを実行するためには、まず目的関数を2値変数の関数(イジング模型)として表現し、その関数の最小値を求める問題として定式化しなければならない。その目的関数に量子効果を現す項を追加する。最初に量子項の係数を大きく取り、すべての許される解候補を同じ重みで重ね合わせた状態(下の図の左側)を実現する。そして、ゆっくりと量子項の係数を小さくしていく。このプロセスにより、容易に実現できる初期状態から出発して、自然な時間変化を経て、下の図の右側のように最適解を高い確率で実現することを目指す。 

図:横軸は2値変数の組の取るいろいろな値の組(古典状態)、縦軸の黒の曲線は目的関数の値、青の線は各配位の存在確率を表す。左の初期状態から始めて次第に変化していき、最後には右の最終状態に至る。 

関連した話題

シミュレーテッド・アニーリング 
古典的な確率的探索を用いて最適化問題を解くシミュレーテッド・アニーリングは、広く普及した汎用的な古典計算手法である。量子アニーリングとの比較に関する一般的な理論は、長時間極限での収束条件を除いては未完成である。個別のベンチマークでは、量子アニーリングを実装した実機シミュレーテッド・アニーリングより高い効率を見せる例も見つかっている。最近の例はこちら一般に、問題の構造(量子ビット間の結合)が量子アニーリング実機の構造(結合のグラフ)に適合する場合には高い効率が得られる傾向がある。