カーボンナノチューブ薄膜の複屈折特性

Birefringence properties of carbon nanotube membrane


単一カイラリティのカーボンナノチューブだけでできた薄膜は、フォトニクスや熱光学への応用が期待されています。ナノチューブ自体の光学異方性から、薄膜も異方的だと考えられます。しかし、異方的な複素屈折率スペクトルは報告されておらず、ナノチューブを使ったデバイスの光学設計を妨げる要因の一つでした。今回、我々は、偏光および角度分解反射測定系を構築し、ナノチューブ薄膜の異方的な複素屈折率スペクトルを実験的に決定しました。ナノチューブ薄膜は一軸性の複屈折物質で、表面垂直方向は垂直励起子に支配されていることがわかりました。本研究により、ナノチューブ薄膜を用いた、多様なフォトニック・デバイスや熱光学デバイスのより正確な設計が可能となります。


H. Wu, T. Nishihara*, A. Takakura, K.  Matsuda, T. Tanaka, H. Kataura, Y. Miyauchi*, Carbon 2023
http://dx.doi.org/10.1016/j.carbon.2023.118720


[関連文献]

西原大志*, 自作簡易エリプソ分光による熱ふく射物性計測, 熱物性2023, 37, 100–104. 

カーボンナノチューブのカイラリティ分布におけるアノマリー

Anomaly in chirality distribution of carbon nanotubes


カーボンナノチューブには炭素配置が異なる種が無数に存在し(カイラリティ)、ナノチューブの物理特性を決める要因の一つとなっています。カイラリティが揃ったナノチューブを合成するためには、その成長機構を理解することが重要です。これまで、ナノチューブの成長と、触媒に接するチューブ端の炭素原子の配置に相関があることが理論的に予測されていましたが、それに関する十分な統計データが少なく、きちんとは検証されていませんでした。今回、我々は、迅速なカイラリティ決めが可能な広帯域レイリー分光法を開発し、413本のナノチューブのカイラリティ分布を統計的に検証しました。カイラリティ分布をカイラル角で整理し、ランダムな成長を考えた場合と比較すると、カイラル角が約20ºに明確なアノマリーを伴う増加を示しました。この結果は、アームチェア型端の配置に依存した成長速度を考えることで、上手く説明できることを明らかにしました。

 

T. Nishihara*, A. Takakura, K. Matsui, K. Itami, Y. Miyauchi*. Nano Lett. 2022, https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.2c01473

単一カイラリティ CNT薄膜の広帯域複素屈折率スペクトル

Broadband complex refractive index spectra of single-chirality carbon nanotube membrane


単一カイラリティのカーボンナノチューブだけでできた薄膜は、特定の波長で強く光と相互作用するため、フォトニックデバイスや熱光学デバイスなど幅広い応用が期待されています。しかし、その様な薄膜の広帯域複素光スペクトルはほとんど報告されておらず、ナノチューブを材料とした光学素子の開発を妨げる一因となっていました。今回、我々は単一カイラリティ ナノチューブ薄膜を作成し、膜厚測定と透過、反射率測定から、その広帯域複素屈折率スペクトルを実験的に決めました。光と強く相互作用する波長での屈折率は、ハンドブックなどに記載されている値の約2倍に達するなど、カイラリティ混合種とは大きく異なる複素屈折率スペクトルが得られました。また、5種類の薄膜を光学測定することで、任意のカイラリティ薄膜の複素屈折率スペクトルを予測する経験式を導出しました。この式を用いれば、カーボンナノチューブを用いたフォトニックデバイスの設計が可能となります。

 

T. Nishihara*†, A. Takakura†, M. Shimasaki, K. Matsuda, T. Tanaka, H. Kataura, Y. Miyauchi*. Nanophotonics 2022, 11, 1011–1020.

[関連文献]
西原大志*, 宮内雄平, カーボンナノチューブ薄膜の複素屈折率測定 〜波長選択放射•吸収膜応用に向けて〜,  伝熱, 2022, 61 (No. 255), 34-39.

カーボンナノチューブの熱励起子放射
Thermal exciton radiation of carbon nanotubes

熱放射は最も基本的な発光現象の一つです。熱放射の研究は、100年以上前に量子力学の誕生のきっかけとなり、現在でも様々な応用を目指して盛んに研究されています。しかし、カーボンナノチューブ を代表とする1次元構造物質では、実験的な難しさから、熱放射特性の詳細は不明でした。今回、我々は1000から2000Kに加熱した半導体型単層カーボンナノチューブ から、狭帯域近赤外熱放射を観測しました。金属型チューブとの比較や温度依存性から、半導体型ナノチューブの熱放射は熱生成された励起子の帰結であることを明らかにしました。この結果は、1次元半導体では2000Kでも量子相関が支配的であること、さらに、カーボンナノチューブは卓越した熱光変換機能を有することを示しています。

T. Nishihara, A. Takakura, Y. Miyauchi*, K. Itami*, Nature Commun., 2018, 9, 3144.

[関連論文]
S. Konabe*, T. Nishihara, Y. Miyauchi, Opt. Lett., 2021, 46, 3021-3024.

カーボンナノチューブの引張強度のカイラリティ依存性
Chirality dependence of tensile strengths of single-walled carbon nanotubes

単層カーボンナノチューブは軽量かつ引っ張りに強いという特徴を持っており、輸送機器や巨大建築物の構造材料として期待されています。しかし、これまで報告されているナノチューブの引張強度値は試料ごとにばらついており、どのようナノチューブが引っ張りに強いかは不明でした。今回、我々はカイラリティ構造を決定した16本の単層カーボンナノチューブの引張試験に成功し、直径が小さい近アームチェア型ナノチューブが引っ張りに強いことを明らかしました。引張強度は炭素–炭素結合の向きに強く依存しており、実験から見出した経験式を使うことで、構造材料として合成すべきナノチューブの指針を得ることができました。

A. Takakura†, K. Beppu†, T. Nishihara†, A. Fukui, T. Kozeki, T. Namazu*, Y. Miyauchi*, K. Itami*, Nature Commun. 2019, 10, 3040.


Polarized Raman spectroscopy on topological semimetal Co3Sn2S2
K. Tanaka, T. Nishihara, A. Takakura, Y. Segawa, K. Matsuda, Y. Miyauchi*, J. Raman Spectrosc, 2023, 54, 93–100.

Top Downloaded Article in 2023

Directional exciton-energy transport in a lateral heteromonolayer of WSe2−MoSe2
M. Shimasaki, T. Nishihara, K. Matsuda, T. Endo, Y. Takaguchi, Z. Liu, Y. Miyata*, Y. Miyauchi*, ACS Nano, 2022, 16, 8205–8212. 

[関連文献]
M. Shimasaki, T. Nishihara, N. Wada, Z. Liu, K. Matsuda, Y. Miyata*, Y. Miyauchi* ,  Appl. Phys. Express, 2023, 16, 012010. 

M. Shimasaki, T. Endo, K. Watanabe, T. Taniguchi, K. Matsuda, T. Nishihara, Y. Miyata*, Y. Miyauchi*, Jpn. J. Appl. Phys., 2023, 62, 112022.