『恋人』
さて、エッセイもこれで六回目。最後と思うと、何だか感慨深いものだな。最後だし、キバナもそうしていたから、最後は俺の話でもしようと思う。キバナは一番よく聞かれる質問に答えていたな。だから、俺もチャンピオンをやっていた時から今までで一番聞かれた質問に答えようと思う。
俺が一番聞かれた質問は、公私問わず「恋人はいますか?」という質問だと思う。答えはYESだ。俺には付き合っている恋人がいる。五年くらい付き合ってるんだがお互い仕事が忙しかったりバトルに夢中になったりで、デートをするとか恋人らしいことをする余裕がなかったんだ。周りにも別に言い回ることでもないだろうってことで、俺に恋人がいるって知ってる人は少ない。でも、最近になって漸くまとまった休日が取れるようになって、二人で色んなことをして過ごせるようになったんだぜ。今はそれが凄く楽しいな。
なんで今まで黙っていたかって言うと、恋人の方が公表するのを嫌がったのが一番だな。だけどこの前、恋人がいることだけは公言したいと言う俺の願いをついに聞き入れてくれた。まあ、その言葉を引き出すために限界ギリギリまで呑ませてしまったんだが。その場にいた友人に証人も頼んでいるから、そんなのは無効だとか言わないでくれ。名前は出さないように気を付ける。これならギリギリ公表してないってことになるだろ?
次によく聞かれる質問が「どんな人を恋人にしたいか」とか「タイプは?」とかだな。これは俺にはもう既に恋人がいるので、恋人のことを書いておこうか。
俺の恋人は可愛い人で、よく周りに気を使える人なんだ。例えば、ホームパーティーなんかをすると全員が楽しんでいるか常に気を配るタイプの人だ。客人に出す皿の一枚一枚にも拘りを持ってもてなして、楽しい時間を全員で過ごせるように全力を出す。パーティーの準備をしている恋人は本当に可愛い。ゲストのことを考えながら、ああでもない、こうでもないと頭を悩ませている姿は楽しげで、それを見ているだけで俺は嬉しくなる。ただ、気遣い上手なのは結構なんだが、俺に対してはもう少し小出しにして欲しかったりもする。恋人は俺がそういう気遣いに対して鈍いと言うが、少し違うんだ。本当は分かっている。他でもない、君が楽しそうにやっていることなんだから分からないはずがないんだ。ただ、毎回あまりにも怒涛の勢いでもてなされるから、それを一つ一つ指摘したり、感謝の言葉を出せるタイミングが分からなくなったりするだけで。もう少しだけ、俺に時間を与えてほしい。そうしたら、もうちょっと上手く出来るはずなんだ。それでも駄目だったら大いに詰ってくれて構わないから。
料理も上手だ。ただ、俺の味付けの好みを十年くらい前から更新していない部分があるのが困りものだけど。俺が甘みの強いきのみや野菜が好きだったのはもう随分前なんだ。今は渋口カレーも辛口カレーも好きだと何度伝えても、恋人の作るカレーは大体甘口だ。時々すっぱくちカレーになるのは喧嘩をした時だけ。俺が酸味の強い料理が苦手だって言うのはきちんと知っているんだぜ。恋人の作った料理はカレー以外ももちろん美味しい。特に手間のかかる料理をするのが好きだ。特にアップルパイやスペアリブのワイン煮込みが俺は好きかな。ホワイトソースから作ったシチューは絶品だ。恋人の料理は見た目にも華やかで楽しい。何時でも食べたいと言っているんだが、仕事が忙しくて休日にしか作ってくれない。毎日食べたいからもう少しパッと出来るものを作ってくれと言ったら、凄い剣幕で怒られた。それで久々に大喧嘩してしまったな。反省してる。
後は、流行りものに敏感だな。デートで行きたいところを聞いてみたら、スマホロトムに聞いてもないのに新しく出来たって言う話題の店の名前と場所がつらつら出てくるんだよ。イッシュのカフェの支店がシュートシティの何処に出来たとか、美味いアローラ料理の店が駅に入ったとか、あのカントー系ファッションのブティックの評判が良いとか。どこでそんな情報仕入れてくるんだって毎回感心してしまう。それで外れがないからすごい。どうやって情報を精査できてるのか是非とも教えてほしい。たまには俺がスマートに恋人好みの美味い店に連れていきたいと思ってるんだ。
俺の恋人は見映えする。本人はカッコいいと言われたいらしいんだが、俺は恋人をカッコいいと思うことは少ないかな。美しいとか、綺麗だとはよく思うんだが。あとは表情が可愛い。ふにゃふにゃ笑うところなんか特に。背が高くて、何でもサラッと着こなしてしまうのは凄いと思う。本当に、何でも似合うんだぜ。これは無理だろうって思うようなビビットな色使いの服もバッチリ決める。手足が長すぎてワンサイズ大きなものを着ることも多い。そうすると袖とかウェストがダボついたりするんだよな。余った空間から伸びる腕や脚が無防備に見えて、ふとした時にグッと来たりするんだ。……こうやって書くと何か変な意味に取られてしまうかな。別に良いか。変な意味も込みってことにしておこう。
ファッションには強いこだわりがあるようなんだが、俺はそういうのに疎くて上手に褒められないでいる。それが悔しい。ちょっと恥ずかしい話、俺は恋人のことを誰より一番上手に褒められる人間でありたいと思ってる。だから、恋人のSNSアカウントのコメントをこっそり見ながら誉め言葉のレパートリーを収集中だ。いつかは自分の言葉で、真っ先に恋人の美しさを讃えられるようになりたいものだな。
普段は気丈な人なんだが、時々怖がりだ。自分の理解出来ないものに対して酷く怯える傾向にあるんじゃないかと思う。これは最近気付いたんだが、特にサイコ系の創作物が苦手だ。スプラッタもホラーもサスペンスも平気なのに、サイコ要素があると駄目らしい。その真っ当さが健気で可愛い。でも、怖がっていても俺を頼りにしてくれないところは少し寂しいな。これは俺の問題ではなくて、恋人の気質の話だ。恋人はマイナスの感情をあまり人に見せたがらない人だから。それが俺であっても、というのは少し考えものだけどな。でも、恋人を尊重したいので俺はじっと恋人に頼られるのを待っている。きっとこれを読んでくれていると思うから書いておくが、次からは素直に俺を頼ってくれ。そうしてくれると、俺は嬉しい。
ポケモンバトルだって強い。バトルスタイルは綿密な作戦を練り上げて挑んでくる安定型。それなら冷静に指示を出すタイプかと言えば、そうじゃない。普段は微塵も見せない激情をぶつけて俺を煽ってくる。俺を相手にだぞ。俺に、一歩も引かない闘志をぶつけてきてくれるんだ。恋人とのバトルのあの瞬間はかけがえのないものだ。俺の人生の一番美しい瞬間は、恋人とのバトルをしている時だと断言できる。恋人と出会ってからはずっとそうだ。人生で一番美しいものを、恋人はずっと変わらずに俺に見せ続けてくれている。
俺はポケモンバトルしかない男だ。今までもこれからもバトルを何より優先するし、バトルに人生を捧げている。だから、同じくらいにバトルに真摯に向き合ってくれる人でないと一緒にいられない。その点、俺の恋人は素晴らしい。俺と同じ熱量でバトルに挑んできてくれる唯一の存在だ。俺がそういう風にしかなれないと分かってくれて、それで良いと言ってくれる。俺の在り方は正しいと断言してくれる。許してくれる。俺がどれだけそれに救われているか、きっとまだ伝えきれていない。一生かけて、伝えていきたい。
俺の恋人は、俺を魅了するのが上手い人間だ。俺には創作物を純粋に楽しめる程の感受性がない。特に舞台、映画なんかの生身の人間が演じる類のものを、俺は上手に消費出来ない。どう言ったらいいのだろう、没入できないと言った方が良いのかな。例えば観劇していても、俺は「こういう演出もあるのか」とか「あの見せ方は違うんじゃないか」とか「このパフォーマンスはこうアレンジしてみたらどうだろう」とか考えてしまう。展開されるストーリーよりも、役者の立ち振る舞いを見てしまう。自分のパフォーマンスに取り入れられるものがないかと思ってしまう。チャンピオンとして長くスタジアムに立ち続けていた弊害、職業病みたいなものだ。そういうどうしようもない俺を変えてしまうのが恋人だ。恋人は、人間が演じるドラマに一喜一憂できて、それを純粋に楽しめる人だ。恋人は楽しむことに全力を出す。ただ自分が楽しいだけでは終わらない。横で白けた俺を巻き込んで、楽しくさせてしまうのだ。不思議だろう。映画なんかを見ている時、俺がストーリーと全然関係ないことを考えていると、恋人はそれに気付いてそっと手を握ってくれる。そしてそのまま、自分の感情が揺さぶられるたびに強く握ったり、離したりして教えてくれる。時々思わず息を呑んだり、声を上げて笑ったり。そうやって楽しめばいいのだと、言葉でなく教えてくれる。俺もそれに合わせてたり、真似をしていると俺も少しずつ作品の世界に入っていける。気が付くと、ちゃんと楽しめるようになる。恋人に手を引かれるようにして、俺は今まで自分の知らなかった楽しいものをいくつも教えてもらった。恋人には教えてもらうことばかりなんだ。
時々、恋人と出会っていなかったら俺の人生はどうなっていただろうと考えることがある。きっと何も出来ないつまらない人間になっていただろうな。好きなポケモンバトルにも倦んでしまっていたかも知れない。恋人とすることはどんなことでも楽しいと思える。それは俺が恋人に魅了されているからだろう。俺は、恋人の存在なくして自分の人生を語ることが出来ない。俺の人生が豊かで幸せなものだと言うなら、それは恋人がくれたもので彩られているからだ。恋人の与えてくれた愛を知ってしまったらもう失えないし、手放せない。俺は恋人に依存しているんだろうな。悪いとは思っているんだ。でもな、半分くらいは恋人の責任でもあると思うぜ。世話好きで、温かい人。ずるい人だ。でも愛しい人なんだ。
今回の写真は、出会った頃の恋人の写真だ。実名を出すなと言われている以上、現在の写真を出すのもNGだろうしな。でも見覚えのある人もいるかもしれない。なにせ、一目見れば忘れられないほど綺麗な色の瞳をしているから。可愛いだろう。この子が今じゃ俺より背が高くなるんだから驚きだよな。自己申告では2m近いらしいぜ。
随分長々と語ってしまったな。俺の恋人がどんな人か、どれだけ素敵な人か伝えられただろうか。恋人の良いところはもっと他にもいっぱいあるんだが、またの機会に取っておこう。今回恋人がいると宣言できたから、これからは少しずつ色んなところで恋人の話が出来たら良いな。あまり書きすぎても怒られそうだしな。
これで六回の連載はおしまいだ。正直に言えばもう終わってしまうんだなと少し寂しく思うぜ。でも、キバナもそう書いていたが俺は自分の書きたいことを全部書いたから満足だな。ここまで欠かさずに読んでくれていた人にはありがとう。今後俺に聞きたいことがある人はバトルタワーに来てくれ。マスターボール級まで昇り詰めた時に「GP」を読んだと言ってくれたら、特別にどんな質問にもお答えするぜ。それじゃあ、みんな!バトルタワーで会おう!
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