「明日Net」はアジアを中心とする研究者と
アジアに関心のある人たちとの緩やかなネットワークです。
今年最後のセミナーが終わりました。来年もまた機会があれば続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。池本
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この3月で定年を迎えます。23歳でアジア経済研究所に研究員として入所し、42年間の研究者生活を振り返りつつ、経済学に対してずっと抱いていた疑問について改めて考えてみます。これまでに出会った「強欲な人たち」を念頭に置きながら、楽しくお話ししたいと思います。ぜひお聞きください。登録フォームからの申し込みをお願いします。
ご登録いただいた方には、登録されたメールアドレス宛てに、後日、録画のURLをお送りしますので、3月17日にご視聴いただけない方もぜひお申込みください。 (池本)
【題目】Greed is Dead:強欲は善か
【発表者】 池本 幸生 (東京大学東洋文化研究所・教授)
【司会】菅 豊(東京大学東洋文化研究所・教授)
【使用言語】日本語
【日時】 2022年3月17日(木)14時~16時
【会場】オンライン(Zoomミーティング)
【申込方法】登録フォーム ( https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZUsce6sqDIpG9MqcLjtnEjtJIjGD6YQmJU9 ) より、3月16日(水)17時までにお申し込みください。
【要旨】
経済学が想定する人間像は、「自分自身の効用を最大化する」という「経済人」である。他人の「効用」をまったく考慮しないという意味で「利己的」である。効用を「幸せ」と見なせば、「経済人」は自分自身の幸福だけを考える人間だが、「経済人」の「効用」が所得によって決まると仮定するので、金儲けだけを考える人間である。この奇妙な人間像を受けれてしまった経済学者は利己的になる傾向があるということを示す研究もある。
1980年代になると、「強欲はいいことだ」と公言する投資家が表れ、1987年の映画『ウォール街』で、「他人を苦しめる強欲な投資家」として描かれる主人公ゴードン・ゲッコーのモデルとなる。この映画監督はゲッコーを批判的に描こうとしたが、その意図に反してゲッコーに憧れ、ゲッコーにならってウォール街の世界に飛び込む若者が増えていった。1990年代になると、アメリカでは「強欲は善だ」という考え方が広まり、日本にも遅れて入ってくる。2000年代になると「メザシを食べる経営者の時代は終わった」と言う経営者が現れた。強欲な経営者にとって自分自身の利益になるのであれば、平気で嘘をつくし、法律を犯すことも気にしない。楽器ケースに隠れて国外に逃亡する者もいた。企業は検査データを改ざんし、政府は統計を改ざんし、経済学者はその統計を使っている。強欲を容認することと倫理観の崩壊の間には関連がありそうである。
利己心を擁護するために引用されるアダム・スミスだが、スミスは『国富論』の中で、パン屋を例に自分自身の利益を追求することは擁護したものの、道徳哲学者であったスミスが、倫理に反して強欲であることを擁護したわけではなかった。いつ頃からどのようにして経済学は「強欲であること」を擁護することになったのだろうか。このことを、アマルティア・センの『正義のアイデア』とポール・コリアーの『Greed is Dead』を参考にしながら考えてみたい。
【問い合わせ先】last_lecture_20220317[at]ioc.u-tokyo.ac.jp
担当:池本
反科学の時代におけるワクチン外交
ピーター・J・ホッテズ 著
詫摩 佳代 訳
白水社 2022年1月28日 発売
以前、ASNETで助教を務められた詫摩(安田)佳代さんが翻訳しています。
危機を克服する鍵は、意外にも冷戦期に構築された米ソの「ワクチン外交」にある、というお話のようです。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b597088.html
池亀彩『インド残酷物語:世界一たくましい民』
2021年11月17日発売
968円(税込)新書判/272ページ
ISBN:978-4-08-721191-7
【集英社の新刊紹介より】
格差上等、差別当然、腐敗横行のインド社会で、人々は誇り高きレジリエンス=たくましさとともに、驚くべき強さを身につけていた――。過酷な“今”を生きぬくヒントがここに。
世界有数の大国として驀進するインド。その13億人のなかにひそむ、声なき声。残酷なカースト制度や理不尽な変化にひるまず生きる民の強さに、現地で長年研究を続けた気鋭の社会人類学者が迫る!
日本にとって親しみやすい国になったとはいえ、インドに関する著作物は実はあまり多くない。また、そのテーマは宗教や食文化、芸術などのエキゾチシズムに偏る傾向にあり、近年ではその経済成長にのみ焦点を当てたものが目立つ。
本書は、カーストがもたらす残酷性から目をそらさず、市井の人々の声をすくいあげ、知られざる営みを綴った貴重な記録である。徹底したリアリティにこだわりつつ、学術的な解説も付した、インドの真の姿を伝える一冊といえる。
この未曾有のコロナ禍において、過酷な状況におけるレジリエンスの重要性があらためて見直されている。超格差社会にあるインドの人々の生き様こそが、“新しい強さ”を持って生きぬかなければならない現代への示唆となるはず。
■目次■
はじめに
第一章 純愛とiピル
カウサリヤの恋/「名誉殺人」という名付け/「アイ・アム・カウサリヤ」/親の期待とiピル/「伝統」と家族の呪縛 【解説:カーストとダリト差別】
第二章 水の来ない団地で
極彩色の内装/文字のない世界/洗濯屋カーストのグル/カースト・アソシエーションとインフォーマルな社会保障 【解説:新しいインドを理解する三つのM】
第三章 月曜日のグル法廷
「俺、合法なんだってさ」/権力の結節点としてのグル/舗装道路と使われないトイレ/世捨て人のパラドックス 【解説:インドの「消えた女性たち」】
第四章 誰が水牛を殺すのか?
マーランマの怒り/社会的制裁と新しい抵抗/カラスのフンと呼ばれた少年/アディジャン・パンチャーヤトとダリト解放運動/数千年の傷を癒すこと/無縁者のカリスマ 【解説:インドの地方自治と農村パンチャーヤト】
第五章 ウーバーとOBC
スレーシュが刑務所に行くことになったわけ/コネと機転/「腐敗・汚職行為の必要性」/ウーバーとインドの情報革命/都市労働者とOBC/教育という投資/スレーシュの「チェンジ」 【解説:IT産業とカースト】
おわりに
■著者プロフィール■
池亀 彩(いけがめ あや)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科准教授。
1969年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学、京都大学大学院人間・環境学研究科、インド国立言語研究所などで学び、英国エディンバラ大学にて博士号(社会人類学)取得。2015年から東京大学東洋文化研究所准教授を経て、2021年10月より現職。
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-721191-7
ASNETの共催セミナーは、東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)が2010年4月に東京大学の機構として発足すると同時に始まりました。このセミナーは、毎週木曜日の午後5時に東洋文化研究所の1階ロビーに教員、学生、一般の人が集まり、自由に発表する場として始まり、のちに若手研究者が研究成果を発表する場として多くの人が参加しました。2010年4月からASNET が終わる2021年3月までの11年間に200回されました。ASNETは終了しましたが、このような研究交流の場があってもいいと思いますし、オンラインの時代にもっと可能性は開けていくものと思います。どんな形になっていくか、まだ分かりませんが、とにかくASNETの共催セミナーの「遺産」は受け継いでいきたいと思います。
2021年4月16日
東京大学東洋文化研究所 教授 池本幸生(元・ASNET教員)
若手研究者の発表の場
研究者の萌芽的なアイデアを自由に発表する場
学部生や一般の人が教養として学ぶ場
その他(書籍や映画などの紹介他)
若手研究者の意欲を削ぐような否定的なコメントはしない。建設的なコメントをお願いします。
相手を攻撃するのではなく、寛容な心で相手の話を聞くこと。