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過去の開催概要
日時:2025年7月3日(木) 17:30~ NCNP教育研修棟(Zoomとのハイブリッド開催)
演題:脳オルガノイドをつなげてつくる神経回路組織:精神疾患の理解に向けて
要旨:
iPS細胞などの可能性幹細胞を三次元の球状に集めて培養すると、自発的に臓器の発生過程に似た組織形成が起き、「オルガノイド」と呼ばれる人工的に臓器を模倣した組織ができる。ヒトの脳の様々な部位を模倣した神経オルガノイドは、精神疾患の理解と治療法開発のために貴重な役割を果たすと期待されている。しかし、現状の神経オルガノイドには未熟さやばらつきなどの課題も多い。さらに、回路構造や感覚入力が欠如していることも根本的な問題である。私たちは神経オルガノイドを複数つなぎ合わせて、入力刺激を反復して与えることで神経回路を模倣する研究を進めている。精神疾患への応用に向けた取り組みとロードマップについて議論したい。
日時:日時:2025年5月19日(月) 17:30~ NCNP教育研修棟(Zoomとのハイブリッド開催)
演題:『弱いロボット』との共生をめぐるELSI:関係的人間のためのAIガバナンス
要旨:
近時、意図的に人間の認知・行動変容を引き起こすべくデザインを行う「弱いロボット」と呼ばれるロボット設計思想に基づくAI・ロボットが開発・販売されている。こうしたロボットは、情動的なつながりを利用してパーソナルデータを収集することで、個人最適化したコミュニケーションを行うことにより、高齢独居者の認知機能の維持、子どもの発達特性に合わせた教育プログラムの実施、精神的に困難を抱える人々への適切な対応などを通じて、人間のウェルビーイングを向上させることでヒトにとっての新たな「共棲種」となるとも思われる。一方で、プライバシーデータに対する適切なガバナンス、デジタルプラットフォームとしての特性に合わせた規制の必要性などが指摘されると共に、EU AI Actのように西洋近代的な自律的個人を基礎とする法体系においては、そもそも人間の尊厳や自律性を侵害するものとして許されないのではないかという議論も存在する。しかし、西洋近代的な自律的個人を基礎とするELSIは普遍的に通用すべきものでも、弱いロボットが引き起こしうるリスクを低減する上で妥当なものであるとも限らない。そこで、人間と技術とのより適切な関係性の構築を目指し続ける「アジャイル・ガバナンス」と呼ばれる方法論に基づき、学際的な研究から得られたデータやエビデンスを活用しながら、日本人の有する関係的な人間観に適合的な倫理・法のあり方を追求することで、人々のウェルビーイングをより向上させる途を見出したい。
日時:令和7年3月24日(月)17:30~ Zoom開催
演題:ニューロン間の関連性推定の試みについて
講師:赤穂 昭太郎 先生(産業技術総合研究所 脳数理研究グループ)
要旨:
脳機能の原理を探究する上で,ニューロン間がどのように相互作用しているかを知ることは重要なプロセスである.本講演では,そうした取り組みとして二つの研究事例を紹介する.
一つは,多点電極を用いたラットの海馬ニューロンのスパイク系列から,ニューロン間の機能的結合関係を推定する研究である.多点電極とはいえ,実際には膨大なニューロンの一部のみが計測されるので,観測されないニューロンの影響や,多段の信号伝播によって生じる偽相関の除去などが課題となる.
もう一つは,マウスのカルシウムイメージングデータからセルアセンブリと呼ばれるニューロンの同期を行う活動グループの抽出の研究である.ノイジーなデータから非負値行列分解を用いて次元圧縮したうえでクラスタリングを行ってグループ分けを抽出するアプローチをとるが,この際次元数の選択が問題となる.我々は複数の次元の結果のアンサンブル平均を取ることで,次元選択の影響が少ない手法を開発した.
日時:令和7年2月21日(金)17:30~ Zoom開催
演題:ヒューマンコンピュテーションとクラウドソーシング
要旨:
ヒューマンコンピュテーションは、人工知能システムの中に部品として人間を組み込むことで、人工知能単独では解決が難しい問題の解決を試みる技術である。特に、クラウドソーシングを活用して不特定多数の人々を参加させる場合、品質保証と報酬設計が重要な課題となる。本講演では、ヒューマンコンピュテーションの実例と、品質保証・報酬設計の技術を紹介する。
日時:令和6年11月11日(月)17:30~ Zoom開催
演題:機械学習に基づく適応的実験計画の原理と応用(ベイズ最適化を中心に)
要旨:
適応的実験計画とは,データに基づく仮説の生成とその検証を繰り返すデータ駆動型のアプローチであり,新たな仮説がこれまでの仮説の生成・検証のプロセスに基づいて生成される点が従来の実験計画法との大きな違いである.ベイズ最適化はそうした適応的実験計画のための方法であり,機械学習モデルのハイパーパラメータ最適化や材料科学における新規材料の開発や実験プロセスの最適化,創薬や臨床試験デザインなど多岐に渡って応用されている.本発表ではまず適応的実験計画の概要とベイズ最適化のアルゴリズムの全体像を説明する.その後,ベイズ最適化の主要な構成要素であるガウス過程モデル,獲得関数について解説し,最後に医学や材料科学研究への応用例を紹介する.
日時:日時:令和6年9月30日(月)17:30~ Zoom開催
演題:データ解析におけるプライバシー保護
要旨:
個人データや機密データを扱うデータ解析を行う際には、一般的にはデータ匿名化が利用されますが、コンピュータサイエンス分野ではより厳密な、あるいはより多様な状況に対応できるプライバシー保護技術として、個々の被験者のデータが特定されるリスクを最小限に抑えつつ、統計的有効性を維持する差分プライバシーや、データを暗号化したままデータ解析を行う秘密計算などが精力的に研究されています。講演ではこれらの考え方を説明し、その応用事例を紹介します。
日時:令和6年7月22日(月)17:30~ Zoom開催
演題:生成AIの仕組みと活用事例
要旨:
2022年秋に公開されたChatGPTが世間を賑わせたことは記憶に新しく、現在も生成AIは高い関心を集めている。本講演では、文章生成AIに関連する自然言語処理の主要技術を紹介し、その上で文章生成AIの構築方法と動作の特性を説明する。合わせて、ChatGPTを例に、生成AIを安全に利用するために知っておきたい情報や、有効に活用するための具体的な操作例を提供する。また、生成AI関連の最近の研究動向やツールの公開状況についても概括する。
日時:令和6年5月9日(木)17:30~ Zoom開催
演題:「病態モデリングに向けたコネクトームベース神経回路シミュレーション」
講師:五十嵐 潤 先生(理化学研究所 計算科学研究センター)
要旨:
脳疾患において、特定脳領域の神経細胞死やイオンチャネルの遺伝的変異などの変化は、神経細胞間の相互作用を通して、複数の脳領域に影響を及ぼす可能性があり、脳疾患の発生機構の理解を難しくしている。
近年、発火する神経細胞の数理モデルを用いた複数脳領域の数値シミュレーションが可能になりつつある。それによって、脳疾患における原因部位の変化とともに、関連脳領域への影響を含め、神経細胞レベルでの複数脳領域の相互作用をシミュレーションで調べることが可能になりつつある。
我々はこれまで、脳機能や脳疾患の機構解明を目標として、大型計算機を用いた哺乳類神経回路シミュレーションにおける並列計算手法の開発、パーキンソン病に関する大規模脳シミュレーション、マウス脳アトラス・コネクトームを導入した神経回路シミュレーションについて取り組んでいる。本講演では、これらの取り組みについて紹介する。最後に、脳シミュレーションと関連技術動向について紹介し、今後の脳疾患と脳シミュレーションの可能性について検討する。
日時:令和6年2月27日(火)17:30~ Zoom開催
演題:進化的次元圧縮がもたらす表現型の頑健性と可塑性の両立
要旨:
生物システムは一般に、環境ノイズなどの摂動に対する頑健性と、異なる条件に応じて適切な状態(表現型)を切り替える可塑性を両立している。アロステリック酵素やモータータンパク質などがその代表例である。頑健性と可塑性が同時に獲得される仕組みの理解に向けて、本研究では外部からの入力によって2つの表現型を可塑的に切り替える遺伝子型の進化について、数理モデルを用いて考察する。
アロステリック制御を模したモデルを用いた数値シミュレーションの結果、特定の条件下で表現型空間に特徴的な低次元構造が現れ、その構造によって頑健性と可塑性の両立が達成されることが示された。本発表では数値的、解析的結果および解釈について紹介する。
日時:令和6年1月16日(火)17:30~ Zoom開催
演題:臨床家の経験と知識をつなげる暗黙知の構造化支援技術 -超高精細精神ケアプロジェクトの紹介と可能性-
要旨:
学術変革領域(B)「デジタル‐人間融合による精神の超高精細ケア:多種・大量・精密データ戦略の構築」では、精神ケアの教科書やワークブックで記述されていない臨床家の暗黙知を見つけ出し、わかりやすく構造化してきた。すでに我々が開発してきた知識構造化法では、臨床家が患者の発言、表情、ワークブックなどをどの観点から観察し、患者のどのような精神状況や生活状況を読み取っているか記述することが不十分であったため、新たに、これらの用語の定義と関係を明確化するオントロジーも構築し始めている。この知識構造化の取り組みを通して、教科書での重複や矛盾、記載されていない暗黙知が明らかになるとともに、地域文化に応じた精神ケアも見出され臨床家自身の気づきやメタ認知も深化されることが分かった。今後、さまざまな臨床家の暗黙知を継続的に構造化し、NCNPがオーソライズした信頼される初心臨床家の支援体制を実現したいと考えている。
日時:令和5年11月28日(火)17:30~ NCNP教育研修棟(Zoomとのハイブリッド開催)
演題:実在感の理解へ向けて―仮想現実技術と深層学習を用いた幻覚・妄想・離人症への認知計算論的アプローチ―
講師:鈴木 啓介 先生(北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター)
要旨:
近年の仮想現実技術の進化により、まるで現実かのような仮想環境の構築が可能となり、生成AIは、本物と見分けがつかないような画像や文章を作れるようになってきた。これらの技術的発展は、精神疾患や脳障害における、幻覚や妄想、離人感といった非定形な知覚や思考を、その背後にある「実在感」「真実感」の障害として考え直す契機となっている。本講演では、実在感を「知覚的現実」、「主観的真実性」、「信念的真実性」の3つのカテゴリに分け、これらがそれぞれの症状と関わっていることを検討する。さらに、これら実在感の認知科学的・計算論的なメカニズムの理解へ向けて、講演者が実施した認知心理実験や仮想現実装置の開発、および深層学習モデルを用いた研究成果を紹介していく。
日時:令和5年9月28日(木)17:30~ Zoom開催
演題:磁性材料等のテクスチャ解析
要旨:
材料科学を含む計測において,画像処理と機械学習の組み合わせは大きな進歩をもたらす.
これらの技術の融合は,以前は人の専門知識に依存していた洞察を,データから裏付けるさせることを目的としている.本発表では画像に現れる模様(テクスチャ)に着目し,これが画像分類にどのような効果をもたらすのかを説明する予定である.
事例としては,発電所配管における寿命予測を行うための曝露温度推定手法と,金属破壊の破断画像からの分類を対象に議論する.配管の曝露の温度推定では,±10度程度の誤差で予測が可能であることを,続く,破断画像の分類では高精度の分類が可能であることを説明し,ほぼ同じ枠組みで援用できることを説明する.
日時:令和5年7月21日(金)17:30~ Zoom開催
演題:強迫症の数理モデルと実験的検証
講師:田中 沙織 先生(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学領域)
要旨:
私たちは、私たちが日常で行う行動のほとんどを、合理的なものと考えている。しかし、環境に対して明らか(explicit)な知識を持っているにもかかわらず、不適応行動が強化されることがある。この研究では、強迫症の症状を、implicitに学習された不適応行動としてモデル化した。まず強化学習フレームワークによるシミュレーションにより、過去の行動のトレース信号が正と負の予測誤差に対して異なる減衰をする場合、エージェントが強迫症における侵入思考に応答することをimplicitに学習することを示した。さらに、このモデルは強迫症における行動療法の治療効果を説明できることを示した。我々はさらに、強化学習フレームワークによる行動課題を強迫症患者並びに健常者に実施し、行動データからトレース信号の減衰率(トレースパラメータ)を推定した。その結果、強迫症患者は正と負の予測誤差に対して極端に非対称なトレースパラメータを示し、その不均衡がセロトニン再取り込み阻害薬によって正常化されることを確認した。一方、健康な参加者の行動特性のうち強迫的傾向にばらつきがあり、その強迫的傾向がトレースパラメータの非対称度と関連することがわかった。この結果は、トレースパラメータの偏りといった行動特性は、臨床表現型の範囲を超えて、健康な集団における差異に一般化することができることを示している。
日時:令和5年5月16日(火)17:30~ Zoom開催
演題:人工知能の哲学2.0の試み
要旨:
第1次人工知能ブームから第2次人工知能ブームにかけて、人工知能の可能性と限界について哲学者も活発な議論を展開していた。その中には、人工知能は実現不可能だという議論も少なくなかった。しかし、古典的人工知能研究が停滞期に入ると、このような哲学的論争も下火になっていった。その後、機械学習、とくに深層ニューラルネットワークによる深層学習の進展によって、人工知能研究は再び劇的な進歩を見せ、第3次人工知能ブームが到来した。しかし、現在の人工知能は高度に数学的な手法を用いていることもあり、その可能性や限界に関する哲学的な検討はまだ本格的に行われていない。発表者は、近年、人工知能の哲学をアップデートするJST/RISTEXのプロジェクトに取り組んでいた。この発表では、その成果をもとに、1. 第2次人工知能ブーム期までの哲学的な議論では、人工知能にはどのような原理的な困難があると考えられていたのか、2. 古典的な人工知能と深層ニューラルネットワークに代表される現在の人工知能には、どのような本質的な違いがあるのか、3. 結局、従来指摘されていた原理的な困難は克服されたのか、といったことを考察したい。(現在の作業仮説は、原理的な困難は正面から克服されることなく回避可能になった、というものである。)あわせて、現在の人工知能が人間の心、とくに精神疾患を理解する上でどのような可能性をもつかということについても考察したい。
日時:令和5年3月6日(月)17:30~ Zoom開催
演題:動的ネットワークバイオマーカーと未病研究
講師:合原 一幸 先生(東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構)
要旨:
未病の検出のために構築したDNB(Dynamical Network Biomarkers:動的ネットワークバイオマーカー)理論の概要をご説明するとともに、DNB理論を用いた未病研究の現状についてご紹介する。
日時:令和5年1月12日(木)17:30~ Zoom開催
演題:深層学習の原理を明らかにする理論の試み
講師:今泉 允聡 先生(東京大学 総合文化研究科先進科学研究機構)
要旨:
深層学習は高精度なデータ解析技術として現代の人工技術の中核を成しているが、その原理は未だ十分には明らかになっていない。この講演では、深層学習の原理を明らかにするための理論的な試みの成果と限界を紹介する。
日時:令和4年11月10日(木)17:30~ Zoom開催
演題:統計的因果探索とAI
講師:清水 昌平 先生(滋賀大学データサイエンス学系・理化学研究所革新知能統合研究センター)
要旨:
機械学習・AIの信頼性を評価・向上させる方法として因果推論のアイデアがよく用いられています。
ただ、そのために必要な因果グラフを、背景知識が足りず用意できないことが多いです。
統計的因果探索は、データから因果グラフを推測するための方法論です。
本講演では、因果探索の基本的なアイデアを、応用例やソフトウェアの紹介を交えて解説します。
日時:令和4年9月27日(火)17:30~ Zoom開催
演題:個別化医療に向けたサブタイプ分類の方法と理論
要旨:
医学,社会科学等の人間を対象とする諸分野において,対象者の異質性 (多様性) が問題となっている。例えば,同じ診断がついている患者でも治療や介入に対する反応性に違いがあり,適切な治療法は異なる場合がある。そこで,対象者をその特徴量に基づいてサブタイプに分類するアプローチがよく用いられる。従来研究では,クラスタリングの手法を用いて集団を複数のクラスターに分割し,それぞれのクラスターをサブタイプとみなすという方法論が採用されてきた。しかし,その方法論の理論的根拠は十分に検討されておらず,クラスタリング法の違いにより得られるサブタイプ分類も変わるという問題があった。本講演では,代表的なサブタイプ分類の手法を概観しながら,それらがどのような性質を持っているかを検討する。また,予測精度に基いてサブタイプ分類の良さを測る指標についても紹介する。それらを通して,理想的なサブタイプ分類の在り方を議論したい。
日時:令和4年7月12日(火)17:30~ Zoom開催
演題:ゲームAIと脳:強化学習の視点から
講師:大渡 勝己 先生(株式会社quantum AIアスリート)
要旨:
ゲームや実世界において、試行錯誤を行いながらより良い行動を選べるように学習する技術が強化学習です。本講演では強化学習研究の進展と最新の動向について、講演者がこれまで実際に開発したAIの話を交えながら解説し、神経科学の知見がどのように生かされているかについてお話しします。
日時:令和4年5月19日(木)17:30~ Zoom開催
演題:ロボティック・バイオロジーによる生命科学の加速 ーAI駆動型生命科学に向けてー
講師:高橋 恒一 先生(RIKEN生命機能科学研究センター)
要旨:
情報技術とロボティクスの導入によって実験、理論、計算、データという4つの主要な科学的方法論を融合し飛躍的に進展を加速するいわゆるAI駆動型科学は、「第5の科学領域」として有望視されている。我々は、AI駆動型科学の起点として生命科学分野が有望であると考え、細胞生物学実験のロボット化や実験プロトコル記述言語処理系の開発、自動実験計画による実験システムの完全自律化、さらにデータ駆動とモデル駆動の融合による仮説生成の自動化などを試みてきた。既に再生医療領域におけるiPS細胞の分化誘導条件の自動発見や、コロナ禍において遠隔実験を活用した新たな研究スタイルの提案などで実績を積んできた。国際動向や材料科学など分野での進展も含め、科学の自動化に向けた最新の状況をご紹介する。
日時:令和4年2月22日(火)17:30~ Zoom開催
演題:人が生み出すビッグデータと機械学習によるメンタルヘルスの推定
講師:深澤 佑介 先生(株式会社NTTドコモ、早稲田大学イノベーション研究所招聘研究員)
要旨:
本講演では、人々がSNS やスマートフォンの利用を通じて生み出すビッグデータからメンタルヘルスを推定する手法を解説する。メンタルヘルス不調の重症化を未然に防ぐためには、不調の兆候を早期に発見することが重要である。この手法では、他の方法(メンタルヘルスに関する質問票への回答や生体情報の収集)に比べてユーザの負担を減らすことができメンタルヘルス不調の早期発見につながると考えられる。人々のSNS・スマートフォンの利用行動とメンタルヘルスの間には複雑な関係があり、人手でその関係をルールとして設計するのは困難である。そのため、機械学習によってその関係を学習し、メンタルヘルスの推定を行う研究が多くなされている。本講演では、まず、関連研究のレビューを行う。50以上の関連研究について、特徴量の設計、正例の収集方法、機械学習手法の3つの観点で横断的に説明する。次に、われわれの研究事例を紹介する。生体指標(LF/HF)をストレスの正例として、スマートフォンの利用行動データからストレスを推定する手法について説明する。最後に、この研究分野の実用化に向けた現状と課題について説明する。
日時:令和3年12月21日(火)17:30~ Zoom開催
演題:統計的機械学習による予測・発見・理解
講師:吉田 亮 先生(統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター センター長)
要旨:
近年,様々な分野において,いわゆるデータ駆動型アプローチと呼ばれる研究手法に注目が集まっている.本講演では,順問題と逆問題という切り口から,データ駆動型研究における統計的機械学習の方法論を解説する.特に物質科学や生命科学における応用例を紹介しながら,データ駆動型研究の諸問題を切り取っていく形で話を進めていく.順問題の目的は, 系の入力に対する出力の予測である.例えば,入力変数は設計した物質の構造,出力変数は物性に相当する.逆問題では,順方向のモデルの逆写像を求めて,所望の物性を有する新しい物質を予測する.順問題と逆問題を解くための基本的な道具として,ベイズ推論,表現と生成の機械学習,転移学習による少数データに基づく予測,機械学習モデルの説明可能性,適応的実験計画法に基づくラボラトリオートメーションなどを取り上げる予定である.
日時:令和3年10月25日(月)17:30~ Zoom開催
演題:データ科学による遺伝統計解析
要旨:
遺伝的要因と疾患発症の関係を調べる研究分野は、伝統的に統計学や生物統計学を用いたデータ解析が盛んに行われ、発展してきた分野である。
近年、データの規模が急速に拡大するとともにデータ科学が発達したことで、多くの場面でデータが活躍する機会がこれまで以上に増えている。
本発表では、遺伝統計分析の方法についてデータ科学の観点から解説する。
一塩基多型(SNP)やゲノムワイド関連研究(GWAS)の基本的な考え方、データ分析の理論と方法、ポリジェニックリスクスコア(PRS)、リスク予測などの最近のデータ科学的手法について概説する。
また、現状の課題と今後の展望についても触れる。