イボニシ

Reishia clavigera (Kuester,1860)

レア度:探せばいる

形態:レイシガイとよく似た中型の巻貝。両者の区別はときに難しいが (Zhao et al, 2020)、少なくとも七重浜では、両者は確実に見分けられる:レイシガイはクリーム色ベースに黒い模様、イボニシは黒ベースにクリーム色模様がある。ただし、乾燥や付着物によってわかりにくいことも多い。そんなときは、開口部を見て、レイシガイのように鮮やかなオレンジ色でないことを確認すれば大丈夫。また、本種の開口部の外側縁辺部は、必ず黒く縁取られている(レイシガイではまれ)。なお、本種には遺伝的に異なる複数の型が存在し、例えば紀伊半島には、大型 (>20mm) でいぼが尖るC型と、より 小型 (<20mm) でいぼが丸いP型が共存する (Abe 1985; Hayashi 1999)。遠い地域のため、函館湾の個体が必ずしもこのどちらかに当てはまるとは限らない。

生息域:東アジアに広く分布し、潮間帯の岩礁に生息する。北海道では石狩湾以南に分布し、 七重浜では堤防下のブロックにくっついていることが多い。

生態:肉食性で、フジツボ類、カサガイ類、巻貝、二枚貝など、幅広い種類の海岸動物を襲って食べる (Abe 1989; Taylor  & Morton 1996)。一方、餌種が体サイズによって異なることや (Abe 1989)、単一餌種での長期的給餌によってその餌種への選好性が強化されることも知られている (Abe 1994)。攻撃方法には穿孔 (drilling)、周縁攻撃 (edge-chipping)、痕跡を残さない3パターンが知られ、餌の種類や個体群によっても使用頻度が異なるらしい (Luckens 1970; 阿部 1980; Taylor  & Morton 1996)。なお、摂餌は主に水没時におこなうため、干潮時には休息している個体が多い (阿部 1980)。雌雄異体で、雌は初夏から夏に70~90個ほどのトックリ形の卵嚢を産み付ける (Lee 1999)。子は浮遊幼生期をもつ (Tong 1988)。

その他:本種の鰓下腺分泌液には、6,6’-ジブロモインジゴという紫色の色素(の前駆体)が含まれている。この色素は美しい紫色を呈し、古くから貝染めに用いられてきた。このため、鰓下腺はパープル腺と言ったりもする。本種の卵嚢はしばしば紫がかっており、親貝が鰓下腺に関係する何かを注入している可能性がある。鰓下腺の機能はよくわかっていないが、本種の鰓下腺にはチグロイルコリンという毒素も含まれており (Shiomi et al. 1998)、捕食や卵保護に関与しているのかもしれない。さらには辛味成分まで含まれており、食べるとピリッとした辛さを感じる。

2021年5月8日 りった水槽内で撮影
2021年5月8日 りった
2021年5月8日 りった
2021年829日 りった
2021年8月29日 りった
2021年9月4日 りった
2021年9月4日 りったイワフジツボと一緒

引用文献: