小分子化合物や光の刺激によって、特定のタンパク質間の結合を操作する技術です。化合物刺激を使うものをCID(Chemically-inducible Dimerization)、光刺激を使うものをLID(Light-inducible Dimerization)と呼んでいます。生きた細胞内のタンパク質を、細胞外からの刺激を用いて高い時間・空間分解能で操作できるのが最大の利点です。細胞内の様々な現象を外部からコントロールする一種のスイッチとして応用が進んでいます。 下の図には、CID・LIDのうち代表的な一つのシステムを図示していますが、それぞれ複数の類似システムが存在し、研究に応じて適したものを利用します。
私たちの研究室では、他にも小分子化合物や光の刺激でタンパク質のオリゴマー化(Cry2など)や構造変化(AsLOV2など)を操作する技術を基盤として、生きた細胞内のダイナミックな現象を思いのままに操作する技術の開発を目指します。
蛍光退色法(FRAP)や蛍光相関法(FCS)を用いて、生きた細胞内のタンパク質拡散ダイナミクスを定量的に解析する手法を確立しました。一次繊毛(primary cillia)や神経細胞の樹状突起(dendrite)など、近似的に1次元空間とみなすことのできる系への応用を報告しました。
* RIKEN脳科学総合研究センター・早稲田大学 在籍中の成果
細胞が生きていく上でタンパク質分子の“動き”が果たす役割を理解するためには、その第一歩として、“動き”を定量的に「解析する」ことができなければなりません。私たちはこのような「解析」に加えて、合成生物学分野の技術の「開発」、さらにその技術を用いたタンパク質の“動き”の「操作」を駆使して、細胞の中で起こっている現象と、その中でタンパク質の“動き”が果たす役割の理解を目指します。
最新の生物物理・細胞生物学で、細胞内のタンパク質や核酸が相転移・相分離という現象を介してダイナミックに集合・離散する現象が注目を集めています。こうして生体分子が集合してできた構造体は、周囲に脂質二重層膜の境界を持たないことから、非膜型オルガネラ(membrane-less organelles)などと呼ばれています。細胞がストレスを受けた時につくられるストレス顆粒(stress granules)はその一例です。生体分子の相転移・相分離の物理化学的詳細や非膜型オルガネラの形成機構、その生理的・病理的意義などはまだ未解明な点が多く、現在世界中で研究が進められています。
われわれは生きた細胞内のタンパク質の相転移を、細胞外からの刺激で操作することのできる技術iPOLYMERを開発しました。この技術を用いて、実際の細胞内で相転移・相分離によってつくられる構造、ストレス顆粒を生きた細胞内に「人工的に」つくりだすことに成功しました。
この成果は、非膜型オルガネラの機能解明や、ストレス顆粒の変異が関係するといわれる神経変性疾患などの病気の理解に貢献すると考えられます。
* The Johns Hopkins University School of Medicine 在籍中の成果
私たちは、生きた細胞内部の構造体に力をかけて「押す」ツール「ActuAtor(アクチュエーター)」を開発しました。細胞が外からの力に応答することは知られていましたが、細胞の中で働く力の役割は不明でした。特に、従来の技術は細胞表面に力をかけることはできても、細胞内部の標的には適用できないという問題があり、生きた細胞内部の標的に力をかける技術が求められていました。
私たちは、細胞に侵入し細胞内の力発生装置に「押してもらう」ことで動き回るバクテリアをヒントにActuAtorを開発しました。この技術は、細胞内の力発生装置であるアクチンに標的を「押してもらう」ことで働きます。力をかける場所やタイミングは、小分子化合物や光の刺激で自由に操作できます。
この研究では、ActuAtorが細胞内部の様々な構造体を変形・運動させることを示し、ミトコンドリアの形態そのものはその機能に大きく影響しないことを明らかにしました。さらに、ActuAtorはミトコンドリアや核のような古典的細胞内小器官を変形・運動させるだけにとどまらず、最近の細胞生物学研究で注目を集めている非膜型オルガネラ(membrane-less organelles)と呼ばれる構造を”こわす”ことも報告しました。
これらの成果は、細胞内の動的構造体の機能解明や、神経変性疾患の理解・治療につながると期待されます 。
* The Johns Hopkins University School of Medicine などとの共同研究による成果
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