ニューヨーク旅日記 その1

#12 ニューヨーク旅日記その1


インターナショナル・ギター・セミナ-in Columbia University


6月16日の朝10時40分に、無事ニューヨークのJF K空港に到着した。

空港からはタクシー(有名なイエロー・キャブ)に乗りコロンビア大学に向かう。

途中ハーレムの中をタクシーで通ったのだけど、

つい大阪の西成の一角を恩い出してしまった。

でも何となくエネルギッシュなこの雰囲気は好きだ。

ブロードウェイと116St.のぶつかる所にコロンビア大学があり、

キャンパスに入ってから学生らしき若者に宿舎の場所を尋ねてみたところすぐに教えてくれた。

今日からの僕はファーナルド・ホールという学生達の寄宿舎で、

セミナーの生徒達と一緒に合宿するのである。

もちろんインストラクター達も一緒だ。

生徒達はというと、全米あるいは海外からも参加してくるらしいけど、

どういった生徒達なのか今からすごく楽しみだ。


午後の3時頃にはウッディ・マン、ボブ・ブロズマン、マーティン・シンプスンと

言ったギタリスト達が集合してくるというので、それまで2時間程を寄宿舎の口ビーでくつろぐ事にした。

今回もジェッ卜・ラグはあまり感じないけど、なにぶんこの歳なので13時間のフライトはかなり身体にこたえる。

セミナーのスター卜するのは明日からなので、今日はスタッフの人達も何かのんびりしている。

やがて2時過ぎにいち早くマーティン・シンプスンがやって来た。

彼はニュー・オルリンズから一人で来たという。

昨年春のジャパン・ツアーで一緒だったのでお互いよく気心が知れていて、

暫くはそのツアーの思いで話で盛り上がった。

彼は昨年からニュー・オルリンズに住んでいるんだけど、最近になって又、引越をしたという。

そう言えば彼は引越魔として有名で、アメリカに移住してからも4回引越している。


やがて3時を過ぎると他のインストラクター達も続々と到着し始める。

ウッディ・マン、ボブ・プロズマン、そして知る人ぞ知る本物のブルース・マン、ジョン・セイファス。

僕はこのジョン・セイファスの事は全く知らなかったのだが、

かつてのブルースの巨人達のスピリットを受け継いだ、今や貴重なアーテイス卜だ。

彼は1950年の初め頃に日本に行った事があると話してくれた。

それも18歳で海軍に入隊し、当時の朝鮮戦争の時に横須賀と佐世保に滞在したそうだ。

今年で70歳になるそうだが、その歳を感じさせないぐらい元気な爺さんだ。

そして何よりも素晴らしいのは彼の音楽性で、伝統的なフォーク・ブルースのスピリットを感じさせながらも、

今の時代にマッチしたメロディ・ラインとかコード・プログレッションを、

何の違和感もなく自分の唄やギター・プレイに取り込んでいる事だ。

今回のギター・セミナーで、このジョン・セイファスに出逢えたことは

僕にとっては大きな出来事と言ってもいいだろう。


明けて17日、いよいよ今日からインターナショナル・ギター・セミナーが始まる。

朝の11 時からの受付には、それこそ全米あるいは海外から60~70 人のセミナー受講者が集まってきた。

遠くはニュージーランド、オーストリア、ドイツ、そしてイギリスからも何人かの人達が参加している。

日本ではこういったフィンガー・スタイル・ギターのギター・セミナーは今のところ皆無で、

もし開催したところで一週間も仕事を休めないだろうし、はたして受講者が集まるのかどうかも疑問である。

楽器や音楽に対する考え方や捉え方が違うと言ってしまえばそれまでだが、

ビジネスの為だけでやっているんじゃないインストラクターやスタッフを見ていると、とても羨ましく思ってしまった。

午後の3時からオリエンテーションと開校の挨拶がウッディとボブによって行われ、

今回、初参加の生徒達から内容について質問があったりして、和気あいあいとしたいい雰囲気である。


夕食をはさんで7時過ぎからクラス分けが始まった。

でもまだこの時点では生徒達がどのクラスに入るのか決まってなくて、

とりあえず各インストラクターが自分のギター・スタイルを紹介がてらデモンストレーション・プレイし、

それを聴いた生徒達が自分の習ってみたいギター・スタイルを自由に選択できるようになっている。

その後も各インストラクターが自分のテーブルで、より細かい内容のカリキュラムを説明していた。

そして最も人が集まっていたのがボブ・ブロズマンのテーブルで、

ボトル・ネック奏法というインパク卜のあるギター・スタイルと、

ボプの個性豊かなパーソナリティに生徒達は興味があるようだ。

そしていつの間にかインストラクターと生徒達が一緒になって、そこら中でジャム・セッションが始まった。

これも生徒達にとってはたまらなく嬉しい事だろう。

何しろ、憧れのプ口のギタリストと一緒にセッション出来るんだから。

ところでこのジャム・セッションは、何と深夜の12時過ぎまで続いたのである。


次回に続く。


2000.7.5

中川イサト