フィンガー・ピッキング・デイ 2004

#66 フィンガー・ピッキング・デイ 2004


今年もモリダイラ楽器主催のフィンガー・ピッキング・ギター・コンテストが

4月3日に横浜の " 赤レンガ倉庫 " で盛大に行われた。

僕は第一回目からゲストとして参加させてもらっているが、

年々、参加者が増え、内容もかなり充実してきている。

特に今年のコンテスト参加者達の楽曲やプレイは、

これまでにないレベルの高い素晴らしいものであった。

グランプリが二名になったというのも初めてのことだし、

内容は違えど個々の持っている個性やテクニカルな部分は、

400人の聴衆や審査員を充分に納得させるものであった。


静岡から参加のグランプリ受賞者の一人である高井君は、

自分でパーツを作ったというハープ・ギターでオリジナル曲を披露してくれた。

これまでハープ・ギターと言えば、ハープ部分がベース・パートを受け持つように

作られていたものがよく知られている。

でも高井君は自身のアイデアで、日本やアジアの古楽器である琴をイメージした

12弦のハープ・パートを考え出したという。

(市販のアコースティック・W ネック・ギターの12弦部分を改造している)

12本の細い弦をセットし、日本音階にチューニングされたそのプレイは、

さながら琴のようなベンドを巧みに用いたユニークなサウンドであった。

ギター・パートはマイケル・ヘッジス以来、

定番のタッピング奏法を上手く組み込んだものだが、

ハープ・パートと混ざりあうことにより、新しいサウンドとなっていた。

この発想は欧米人にはとても思い浮かばないだろうし、

また日本人でも考えつかなかった素晴らしいアイデアだ。


もう一人のグランプリ受賞者の伍々君は弱冠15才の少年なのだが、

その安定したプレイはプロも真っ青になるような素晴らしいものであった。

またオリジナル曲の完成度も高く、彼は何か天性の才能を持っているように感じた。

あとは表現力というものを時間をかけて身につければ、

それこそ鬼に金棒というか、世界にも通用するようになるだろう。


それと今年のコンテストで感じたのは、

昨年はオーソドックスなギター・プレイヤーがほとんどだったのが、

久しぶりにタッパーが多く参加していた。

多分、押尾コータロー君の影響もあるのだろうけど、

数年前のタッパー達と比べるとオリジナルの楽曲やプレイが格段に進歩していた。

以前のプレイヤーの多くはマイケル・ヘッジスやプレストン・リードの

コピーから抜けきっていない、オリジナリティがあまり感じられないプレイヤーばかりであった。

(そんな中途半端なタッパーの一部がプロ?として活動しているのが僕には理解できない。

また、彼らの多くは自分が日本人だということを理解していない)

それが今年のタッパー達は違っていた。

何よりもオリジナルの楽曲の完成度がレベル・アップしている。


以前BBSにも書いたけど、フィンガー・スタイル・ギターの新しい時代が来ているように思う。

時代の流れが変わる時って突然やってくるって話しを聞いたことがあるが、

まさにそうなのかも知れない。

僕がアコースティック・ギターのインストゥルメンタルというものに

初めて取り組んだのが今から約30年前のことで、

当時この国ではあくまでも歌の伴奏楽器としてしか認知されていなかった。

でも、欧米では偉大な先人達がすでにギター・ミュージックというジャンルを確立していたので、

なんとかこの国でもギター・ミュージックを定着させたかった。

それにしても30年という年月が自分でも気がつかないうちに過ぎていたのだが、

それがここにきて色んなことを多いに考えさせられた。

それが長かったのか短かったのか自分には解らないけど、

ただただギターという楽器やギター・ミュージックが好きで、

それが自分にとって自己表現に最も適していると思ったから

ひたすらやり続けてきただけのことである。


これからのギター・ミュージック・シーンを、

より実りのある状況にもって行くのは高井君や伍々君達の新世代ギタリスト達である。

彼らには僕も含めた古世代の出来上がったミュージシャンよりも無限の可能性があり、

日本人の感性を散りばめたギター・ミュージックやサウンドを作り上げて欲しい。

その為にも、しっかり地に足をつけて取り組んでくれることを願う。


2004.5.1


中川イサト