クラレンス・ホワイト・アゲイン

#16 クラレンス・ホワイト・アゲイン


以前にも僕のベスト・フェイパリット・ギタリストであるクラレンス・ホワイ卜について、

この"イサト・とおく”で書かせていただいたが、もう一度書いてみたい心境になってしまった。

と言うのは、つい最近になってクラレンスのレアな音源がCDになってリリースされたのだ。

彼の友人で、又シエラ・レコードのオーナーでもあるジョン・デルガットのクラレンスに対する熱い想いが、

今回のアルバムでもヒシヒシと伝わってくる。


今年になってからザ・パーズ時代の未発表音源が数多くCDとしてリリースされ、

世界中のクラレンス・フリークにとってこれほど嬉しい年はないだろう。

かく言う僕も嬉しさのあまり舞い上がってしまっている。

今回のアルバムの凄いところは、何と1962年にプライベー卜・レコーディングされた音源をCD化したのである。

多分それは自宅で2トラック・テープ・レコーダーを使ってレコーディングしたと思われるが、

現在の最高の機材を使ってデジタル・マスタリングを行った結果、

驚くほどクリアーでリアルな音に仕上がっているのだ。

とても38年前の録音とは思えない。

この1962年という年は、兄のローランド達と組んでいたカントリー・ボーイズというグループが

ザ・ケンタッキー・カーネルズというグループ名に変わった年でもある。

因みにこの年の僕はまだ中学3年生で、それこそ音楽に興味がなかったし、

ましてやギターなんてとても遠い存在であった。

それを思うとクラレンスはすでにプ口のミュージシャンとして活動していたのだから、

今更ながら驚いてしまう。

そしてアルバム・ジャケットのクラレンスが又いいのだ。

良く知られた写真なのだが、オリジナルのモノク口写真がコンビューターでカラー処理され、

まるで歌舞伎役者のような美少年がそこに居るではないか。

それも当時のアメリカで流行っていたリーゼント・ヘアーで。


さて38年前のクラレンスのギター・プレイはどうだろう。

1963-1964年頃のプライベー卜・テープはずいぶん昔に友人からプレゼン卜され、

当時の彼のギター・プレイをある程度は理解していた。

でもこの1962年頃のギター・プレイに関してはカントリー・ボーイズでのプレイしか聴いたことがなかったので、

プライベー卜・レコーディングとは言えインストウルメンタルということで聴く前からとても興味があった。

3 3 Acoustic Guitar Instrumentalsというアルバム・タイトルが示しているとおり、

全曲がインストウルメンタルなのだ。

フィドル・チューン、ポップ・チューン、ブルーグラス・チューン、トラッド・フォークといった

幅広いジャンルの楽曲が口ジャー・ブッシュの弾くセカンド・ギターに合わせてエネルギッシュにプレイされている。

当時のクラレンスはジェシー・マクレイノルズに影響を受けたクロス・ピッキングをかなりマスターしていて、

それは多くの楽曲で聴くことができる。

ただしコード・ワークというか、経過コードの崩し方に独自のアプローチが見受けられる。

Wildwood Flowerでのプレイがいい例だ。

Black Mountain Ragでのフラット・ピツキングを聴くと、

ドック・ワトスンをかなり意識しているのが解って面白い。

そう言えば19 6 2年にアッシュ・グロープで行われたドック・ワトスンのライブをクラレンスは初めて聴いている。

と言うことはこのプライベー卜・レコーディングは

ドック・ワトスンのライブを聴いた後に行われたのかも知れない。

おなじみのNinePound Hammerは荒削りだが、

2年後にリリースされたアパラチアン・スウィングでの名演を予測させるようなプレイである。

又I Am A Pilgnmでのプレイは、ほとんどアパラチアン・スウィングでのプレイに近いが、

ブルー・ノートの使い方が少しばかりぎこちない気がする。

Country Boy Rock & RolIを聴いて驚いてしまった。

19 7 3年に一度だけ組まれたセッション・グループ"ミュールスキナー・バンド"のアルバムで

ー曲目に入っているミュールスキナーのイン卜口がほとんど同じなのだ。

ただしここではアコースティック・ギターでプレイされてはいるが。

Footprints In The Snowもクラレンスのレパートリーとしては有名な楽曲だが、

このアルバムでのプレイは、既に後のクラレンス・スタイルを感じる事が出来る。

この曲もミュールスキナー・バンドのアルバムで聴けるが、こちらは完成されたスタイルというか、

よりソフィスティケイ卜されたクラレンス独自のギター・スタイルである。


オリジナル音源がプライベートだろうが何だろうが、僕にとってそんな事はどうでもよくて、

クラレンスが弾いているという事実だけで充分なのです。

ましてや今回のようなレアな音源は、

クラレンスがいかにして自分のギター・スタイルを確立していったのかを知るうえで貴重な物だと思う。

それはまるでジグソー・パズルのようなものだ。


それにしても没後27年になるがいまだに未発表音源が発売されたり、

又音楽雑誌に取り上げられたりして、如何に彼が多くの人達に愛されているかと言うことである。

そういった意味で、かのジャンゴ・ラインハルトと相通じる何かがあるのかも知れない。

この偉大なる二人のギタリストは、こよなく愛したギターと共に、

まるで短距離ランナーのように音楽人生というトラックを駆け抜けていった。

その生き様は悲しくもあり、美しくもある。


2000.9.13

中川イサト