僕がギターという弦楽器を弾き始めてから、もうすぐ38年になろうとしている。
その間に国内外の沢山のギターと出逢い、弾いてきた訳だが、
はたして本当に気に入ったギターはあったのだろうか。
最近になってようやく、自分にとっての良いギターというものが、
少しは解ってきたけど、それこそ一昔前は何も解らず弾いていたような気がする。
今の自分にとっての良いギターとは、自分の手にあった作り
(ネック厚、ボデイ・サイズ、指板幅、材質・・・他)で、
長時間プレイしても手が疲れないギターで、勿論サウンドに関しては、
胴鳴りのしてくれるギターというのが絶対条件である。
でもこんな細かな事を気にしだしたのはつい最近で、
それまでは実にアバウトにギターを選んできたものだ。
ただ上記のような判断でギターを選んでも、それでパーフェクトという訳には行かない。
そこからより弾きやすいようにチューン・アップするのである。
時には自分でやったり、手に負えない場合はギター・テクニシャンに相談したりする。
それこそナットの溝がほんの少し浅いか深いだけで、弾きやすくも弾きにくくもなる。
フィンガー・ピッカーの場合、この溝の深さというのはバズる寸前が最も良いのだが、
正に紙一重というか、非常に微妙な深さだとしか言い様がない。
たまにアマチュアの人達のギターを弾かせてもらう事があるが、
たいがいは弦高調整やナット溝調整が成されていない。
これでは手がもたないし、ましてや良いプレイなど出来るハズがない。
この国では、こういったチューン・アップというものが
理解されるのはまだまだ先の事なのだろう。
楽器そのもののベスト・セット・アップというものが成されて、
そこからがプレイヤーの技量という事になる訳だが、
その手前ではいくら練習しても両手の負担が大きくなるばかりで上手くはならないと思う。
僕はラッキーな事に、つい最近になって2台の素晴らしいギターに出逢えた。
1台は以前から色んなアドヴァイスをしてきたモーリスのSタイプというギターで、
手元にあるのはプロト・タイプなのだが、これまでの国産ギターとは
ひと味違ったサウンド・キャラクターのギターである。
プレイヤビリティもボデイ・サイズ、ネック厚、ネック幅、どれをとっても文句なしである。
こんな事を書いているとモーリスの回し者かと思われそうだが、
僕自身が納得したからこうして書いているのである。
もう1台は友人の増田君というハンド・メイドのルシアーが作ってくれた
" Water Road " というギターで、彼のギターはこれで4台目になる。
そして作品としては確実に進歩していて、今度の新作は彼のこれまでの
作品の中ではベストといっても良いだろう。
サイド・バックは良質のキルテッド・マホガニーを選んでくれ、これが実に良い。
又、トップはシダーで、このところ僕の好みの両マテリアルなのだ。
ネックの仕上げに関しては、僕がこれまで出逢ったギターで、
最も手触りが良く、これ程の超薄ネックは初めてである。
しかも強度というものを稼ぐ為、彼のアイデアでネック内にカーボン・ファイバーで
しっかりと補強されている。
サウンド的にも非常にコントロールし易く、僕の思いのままにコントロール出来るのが良い。
以前にも書いた事があるけど、いくらベスト・サウンドのギターであっても、
自分でコントロールしにくいギターは、それは自分にとっては良いギターとは呼べないのだ。
この2台の素晴らしいギターとの出逢いは、これからの僕のギター人生に
新たなる方向を示してくれているような気がしている。
2002. 11. 9
中川イサト