『アコースティック・ギター・マガジン』Vol.5 への寄稿
本はこの原稿を元に掲載してくださっています。
クラレンス愛がさく裂している文をお楽しみください。
なお、文中の表記は本人の記述のままです。
Q: ご自身の考える「クラレンス・ホワイトのアコースティック・ギターによるベスト・プレイ」
が聴けるアルバム/楽曲を、3枚(曲)程度を目安に紹介してください。
A:
#1 ”Appalanchian Swing” / The Kentucky Colonels (1964年リリース)
クラレンスが若干20歳の時に兄のローランドや友人達と作り上げたブルーグラス・ミュージックの歴史に残る名盤。
当時これだけ新しい感覚でブルーグラス・ミュージックに取り組んでいたバンドは他にはなかったし、
ローランドのマンドリンとの絶妙なインター・プレイを聴くと、
二人がどれだけ凄まじい練習をしたのかが十分過ぎるぐらい伝わってくる。
又それは兄弟だからこそ出来た事だとも思う。
このアルバムでのクラレンスのギター・プレイで個人的に好きな楽曲は以下の3曲です。
”Nine Pound Hammer” 、"Listen To The Mocking Bird" 、”I Am A Pilgrim”
#2 ”Muleskinner” / "Muleskinner Band" (1974年リリース)
ロスアンゼルスのテレビ番組の為に組まれたスーパー・セッション・バンドが、
スタジオ・レコーディングした唯一のアルバム。
バンド・メンバーはクラレンスの他にデビッド・グリスマン、ビル・キース、ピーター・ローワン、
リチャード・グリーンといったそうそうたる顔ぶれ。
このアルバムの素晴らしいところはブルーグラスだけではなく、
ロックやカントリーのフィーリングもブレンドされた、当時のナッシュビルでは生み出せない
ウエスト・コーストならではの自由な発想に仕上がっている事だ。
クラレンスのギター・プレイも、ザ・バーズでの数年間で身につけたロック・フィーリングが、
エレクトリック・ストリング・ベンダー・ギターやアコースティック・ギターを使い分ける事により、
新しいギター・スタイルとして聴くことが出来る。
このアルバムでのクラレンスのギター・プレイで個人的に好きな楽曲は以下の3曲です。
"Footprints in The Snow"、"Dark Hollow"、"Soldier's Joy"
#3 ”The White Brothers / The New Kentucky Colonels" (1976年リリース)
1971年にザ・バーズが解散し、その後のクラレンスはスタジオ・ワークをこなしながら、
これから自分の進むべき道を探していたようだ。
そして兄のローランドと再びブルーグラス・ミュージックに取り組みようになり、
ザ・ニュー・ケンタッキー・カーネルズとして活動を始める。
このアルバムは1973年に北欧のスエーデンにコンサート・ツアーした時のライブ盤で、
彼が亡くなる数か月前の貴重なギター・プレイを聴くことが出来る。
ここでの力強いボーカルとギター・プレイは、すでにヴァーチュオーゾと呼んでもいいぐらい名人の域に達している。
このアルバムでのクラレンスのギター・プレイで個人的に好きな楽曲は以下の3曲です。
”Last Thing On My Mind”、"Sally Goodin'"、"Alabama Jubilee"
Q: クラレンス・ホワイトのアコースティック・ギター・プレイの神髄(凄さ)はどんなところにあるとお考えですか?
また、彼のプレイからどのようなことを学びましたか?
A:
一言でいえば、非常に人間臭いギターを弾くギタリストだと思います。
そして独特のシンコペートしたフレーズとタイミングの取り方は、
誰にも真似できないワン・アンド・オンリーのギター・スタイルである。
又、クラレンスほどトーン・コントロールの上手いフラット・ピッキング・ギタリストは後にも先にもいなくて、
一音一音が微妙に変化しているところが凄い。
この辺は彼の独自のピッキング・スタイルで、フラット・ピックの他に中指や薬指も使っているから、
そのような微妙な音が出せるんだと思う。
まさに彼のギター・プレイは唄っていると言ってもいいだろう。
僕が彼から学んだことは、この唄わせるギター・プレイです。
ですからサム・ピックを使うことを何年も前に止めました。
フラット・ピッキングとフィンガー・ピッキングの違いはあるけど、
直接、自分の指が弦に触れていたいという気持ちがそうさせたのです。
ギタリストにとって表現力というのはとても重要なものです。
まあ一生かかってもクラレンスのような唄わせ方は出来ないだろうけど、
少しでも彼に近づきたいといつも思っています。
Q: その他、クラレンスに関する思い出やエピソード、メッセージなどがあればお聞かせ下さい。
A:
僕が初めてクラレンスのギター・プレイを聴いたのは、確か1969年に”バラッド・オブ・イージー・ライダー”
というザ・バーズのアルバムが最初でした。
そのアルバムでのクラレンスは既にストリング・ベンダー・ギターをプレイしていたのですが、
当時の僕はそんなことを全く知らなくて、変わったベンディングをするギタリストがいるんだな・・・
ぐらいの印象しかありませんでした。
でも時にはペダル・スチール・ギターのように聞こえる彼のギター・プレイは、
その後、僕の頭の中にずっと残ってしまったのです。
暫くして彼は以前にザ・ケンタッキー・かというブルーグラス・バンドで活動していたことを知り、
彼らのアルバムを探し回った記憶があります。
そしてどうしてもストリング・ベンダー・ギターが欲しくなり、
1973年頃にアメリカのギター・プレイヤー誌に問い合わせてみたいりしたものです。
取り敢えずはビグスビー社のパーム・ペダルというベンディング・ディバイスを入手し、
クラレンスのプレイをコピーしまくっていました。
因みに、1975年にCBS/ソニーからリリースした”黄昏気分”という僕のソロ・アルバムで、
一曲だけこのパーム・ペダルでプレイしていまうs。
そして1976年になって、やっと本物のパーソンズ/ホワイト・ストリング・ベンダー・テレキャスターを
手に入れる事が出来ました。
まあそれぐらい、このクラレンス・ホワイトというギタリストにはまってしまったのです。
彼は僕にとって永遠のアイドルです。
そして彼が残してくれた数多くの音源は、今でも僕のバイブルなのです。
2000.6.30
中川イサト