個性的なサウンドとプレイ

#52 個性的なサウンドとプレイ


ギタリストにとって個性というものが、いかに大切なものかということを、

少しでも解って欲しくてこの原稿を書いている。

貴方が自分のコンポジションにこだわっているギタリストなら、

当然の事ながら、その作品にオリジナリティがなければならない。

又、たとえ誰かの影響を受けたとしても、自分の中で消化しきっていないと、

それは単なる誰々風で終わってしまう。

オーディエンスに感動を与える為の最もベイシックな部分が、

この作品の独自性というものである。

時々、特殊奏法などを使った派手なパフォーマンスでオーディエンスに受け、

何か勘違いしている若いギタリストを見かけるが、

それは単に特殊奏法が珍しいから受けただけの話である。

以前、彼らのCDやライブ・パフォーマンスを何度か聴かせてもらった事があるけど、

肝心の楽曲の完成度が低すぎて話にならない。

まあ当初からそんなに素晴らしい作品を書けるとは思わないが、

問題なのは、本人が一度書き上げた作品をライブなりでプレイしてみて、

より完成度の高い作品に進化(変化)させているかどうかである。

ではそろそろ個性的なサウンドとプレイについて話を進めたいと思う。

そこで僕の持論なのだが、弦を押さえる左手と弦を弾く右手、

つまり両手にとっての音質や音量のコントロールが最も重要だと思っている。

左手に関しては、一般的にスケール練習を含めたフィンガー・トレーニングを

毎日のように行うという話がよく知られている。

確かにこのトレーニングを半年や一年以上も続けていると、

左手のフィンガリングはスムーズになる。

ジャズ系の音楽で使うようなヴォイシングのコード・フォームも、

ある程度セオリーを理解すれば、やがて使いこなせるようになるだろう。

左手に関するこの2つの練習は確かに間違ってはいない。

でも僕が言いたいのは、この2つの練習、

特に前者のフィンガー・トレーニングをやったギタリストは、

必ずと言っていいほど早弾きにこだわるようになるし、

音の粒を揃えるという事だけに集中してしまうようになる。

フィンガー・ピッカーの中にもドイツのピーター・フィンガーのように、

ダイナミックな早弾きを得意としているギタリストもいる。

でも彼は変に音の粒を揃えるようなプレイはしないし、

抜群にコントロールされた右手のサポートもあって、

それこそ変幻自在のサウンドを聴かせてくれる。

左手(左指)がスムーズに動くという事も大切だが、

各指が押弦、離弦する時のタッチ・コントロールによって、

微妙なニュアンスの音を導き出す事が出来る。

ダイナミックス(ピアニシモからフォルテシモまでの音量差)というのは

プレイヤーにとって必要不可欠なので、その為にも一音一音を押弦、離弦する際に、

各音をよく聴きながら行って欲しい。

又、ハンマリング、プリング、スラーといった小技を用いる場合にも、

指の角度や力加減に注意して欲しい。

特にスロー・テンポ、ミディアム・テンポの楽曲でのプレイでは、

音質(音色)や音量をよく考えながらプレイしなければならない。

他には、左手のフォームによってはバレー・フォーム(セーハ)にするのか、

親指を使ったグリップ・フォームにするのか迷う場合があると思う。

これに関しては、基本的にはどちらのフォームでも良いのだが、

僕は前後の音の流れや、トップ・ノート、ミドル・ノートとの絡みによって

バランスの良い方を選んで使い分けている。

この6弦を押さえる時の指使いによっても、

音質は微妙に変化するという事を理解して欲しい。

次にピッキングを担当する右手について話を進めよう。

実はこの右手のコントロールがギター・プレイにおいて最も重要であり、故に難しくもある。

アマチュア・ギタリストのほとんどの人達は、

この右手のコントロールが上手く出来ていないし、どうもおろそかになっている。

これは僕から言わせると、楽曲やフレーズを早く覚えて弾く事に夢中になり過ぎ、

つい右手のコントロールまで気が行かないと言うことだ。

左手についての話で、ダイナミックスを含んだ表現力というものが大切だと言ったが、

ダイナミックス以外にも音の色艶についても考えなければならない。

ただクリーンな音を出せば良いというものではなくて、

時には逆に美しくない音や、突拍子もない音が必要な場合もある。

そしてそれらをコントロールするのが右手なのだ。

(もちろん二次的には前述した左手も大切だが)

時には音質や音量を変える為に指の角度を変えてみたり、

ピッキングするポジションを変えてみたり、

自分でサウンド・チエックしながら工夫してみる事をお勧めする。

ある楽曲を最初から最後まで、同じ右手のフォームやポジションで

プレイするなんてあり得ない事だ。

そんなフラットなプレイではオーディエンスに感動を与える事は出来ない。

又、右手の小指をギターのトップに固定してプレイしている人がいるが、

このやり方は確かに右手のブレがなく、安定した音が出しやすいという利点がある。

でもピッキングの角度やポジションを変えたり出来ないので、

前述した音質や音量のコントロールがかえって難しくなる。

そんな訳で少し慣れるのに時間が掛るけど、

右手を浮かせた状態でピッキングするやり方をお勧めする。

僕はこの10数年、付け爪を右手指にセットしてプレイしているが、

当初は自分の生爪だと直ぐに傷んでしまい、その結果この方法を選んだのである。

ところが後になって一つだけ気付いた事がある。

それは生爪と付け爪では音質が大きく違っていて、これはどちらが良い悪いではなく、

楽曲のイメージや演奏スタイルによってトレブリーなサウンドなのか、

ファッティなサウンドなのか自分でチョイス出来るのだ。

これはフィンガー・ピッキングでのサウンド・カラーの幅が拡がったということになる。

もちろん僕はオープン・チューニングを使ったファッティなサウンドが好きだったので、

付け爪をチョイスしたのは言うまでも無い。

アマチュアだからそこまで深く追求しなくても良いという話も聞く。

楽しむだけで充分だとも聞く。

確かに僕もそう思う。

でも自分が弾いているギターのサウンドを自由にコントロール出来るようになれば、

もっと奥深いところでギター・ミュージックが楽しめるようになるし、

表現力も少しずつ身に付いてくる。

個性的なサウンドやプレイに興味のあるギタリストは、

これらの問題を真剣に考えて欲しい。

2002.7.28

中川イサト