タイトル:交流のはて
作家 :水野 香菜
画廊 :福福堂
展示会 :水野香菜 日本画展「めいめい開花」
期日 :2019年6月5日
サイズ :4号
技法画材:日本画
ボタンインコとフクシアを描いた「交流のはて」はどのような場面だろうか。2羽のボタンインコが遊び疲れ、休憩とばかりに、ひとり気ままに脚を上げて羽繕いをしているのかもしれない。一寸前まではしゃいでいたのに随分と気分屋である。喧嘩でもしたのか、急に気分が冷めたのか、理由は窺い知れずとも自由気ままに行動するのが鳥たちの流儀と言えよう。
アフリカ原産のボタンインコは、体長約12~17cm、目の周りが白く縁どられるのが特徴で名前の由来にもなっている。ルリコシボタンインコ、キエリクロボタンインコ、ヤマブキボタンインコなど羽毛の色は様々で、この作品で描かれているのはブルーボタンインコと思われる。図鑑では「英語で「ラブバード」の愛称があるほどで、つがいで飼うといつも寄り添って過ごすほほえましい姿が楽しめます」[1] 、「独占欲がとても強く、ヤキモチを焼きワガママな面も持ち合わせています」 [2]と紹介されていることから、このボタンインコも一悶着あったとするのも面白い。
この作品で最初に目が行くのは頭の上に脚を持ち上げ、胴体をくねらせながら羽毛をついばむボタンインコの姿であろう。人間からすると実に不思議な体の構造である。手前に流れる長い羽が尾羽なのだろうか。流線型が美しい。尾羽と脚が十字にクロスすることで、形としての魅力が引き立てられている。羽は尾羽、風切羽、雨覆を生物学的に描き分けるだけでなく、風切羽は軸に金と黒を用いることで、絵画としての美が強調されている。3枚の羽が並んでいるのもバランスが良い。鳥の華やかな羽は風切羽に代表される。体に近い羽の雨覆は、鳥特有のふわふわした感触が伝わってくる。雨覆という名称であるが必ずしも雨を防ぐのではなく、気流を整える役割を担っているらしい。
ボタンインコはカラー・バリュエーションが豊富で、この作品では宝石のようなコバルトブルーとエメラルドグリーンの羽を持つ。羽の色の対比も鑑賞のポイントである。ただし、画像では青の濃淡は見分けられるが、緑色はあまり感じられなくなってしまう。絵画は照明や壁紙など環境によって姿を変えてしまうが、一様に捉えきれないところが魅力でもある。
もう少しボタンインコを鑑賞したい。頭部は横からではなく、上から見ることになるが、ボタンインコの特徴である白い目の縁取りが明瞭に示されている。細い金色の線で頭の毛は描かれているのも見逃せない。撫でたくなるつややかさである。開いた足先も特徴的である。恐竜の末裔を思わせる鋭い爪は、可愛らしい小鳥にピリリとしたアクセントをつけてくれる。
次に、作品の中心を占めるフクシアに着目してみよう。L字型をしたフクシアの枝はボタンインコの動きと呼応するような大胆な流れになっている。フクシアは30~150cm程度の低木で、貴婦人のイヤリングと呼ばれるように下向きに花が咲く。萼片が反り返り、雌しべと雄しべが長く突き出ているのも特徴である。上品さに加えトロピカルな印象があるのは、中南米や西インド諸島等の亜熱帯地方が原産であるためかもしれない。トリフィラ、レギア、ボリアナなど種類は豊富で、園芸用にハイブリッド種も多く存在する 。日本ではエンジェルス・イヤリングと呼ばれる品種の人気が高い[3]。
この作品のフクシアはエンジェルス・イヤリングやティンカーベルに近いように思われる。反り返った赤い萼片はフクシアならではの美しさである。また、長い雄しべと雌しべは遠目からでも目立つ太い線で描かれている。しかし、一般的にフクシアは下向きに花を咲かせるが、この作品ではやや上を向いている花が多い。また、細い枝はボタンインコが軽量であるにしても、止まり木とするにはやや心もとないように思える。フクシアの枝葉は密集する傾向があり、一本の枝が飛び出るのはあまり見られない。そのため、この作品ではボタンインコとの競演という場面に相応しくフクシアを再構成していると思われる。
では、フクシアの構成にはどのような意図があるのだろうか。全ての花を下向きにすると重たい印象を与えかねない。特に上を向いた蕾は力強さを感じさせるとともに、ボタンインコのリズミカルな動きに合う。枝葉が密集すれば、ボタンインコの鮮やかなブルーが埋没してしまったはず。このフクシアの枝はL字型であるが、より正確には「し」に近く、ボタンインコの重みによってわずかに曲線を描く。画面右から伸びる枝には勢いがあり、絵画として心地良い空間が生まれている。枝の伸び方はボタンインコと同じように運動をしているようだ。七つの花が咲いているが、大きさや位置が入念に検討されている。右の花はおおぶりで華やかさを強調する一方、下にある花は小さく下を向き、フクシアらしい反り返った大きな萼片と長い雌しべ、雄しべを横から眺める構図になっている。
背景についても考えてみよう。画面の上は彩度の高い黄色で、実に鮮やかである。現物は画像よりもかなり明るくレモンイエローに近い。混じり気のない黄色である。日本画でこのような明るい黄色を背景にするのは珍しいと言えよう。扱いにくい色かもしれないが、4合サイズの小品であるため眩しさはなく、躍動感のあるブルーボタンインコの美しさを引き立てくれる。しかし、黄色一色に染めれば、ボタンインコもフクシアも宙に浮いてしまいリアリティに欠けてしまっただろう。下部に紫を持ってくるのは挑戦的であるが、実に「妙」たる空間に仕上がっている。明暗を対比させ、画面に安定をもたらす。黄色と異なり下部の紫は淡く、黄色の素地にグラデーションがつけられ、霞みがかった雰囲気を醸し出している。夕靄と言っても良い。単純なツートンカラーというわけではなく、時間の流れや空気を感じさせる。また、右から伸びる枝のやや下を境に色分けされているが、半々ではなく紫の方がやや狭い。このバランスが見事である。これよりも紫の面積が増えれば暗くなってしまい、逆に狭めると安定感が失われてしまう。
あらためて全体を眺めたい。ボタンインコの動きは写実性を意識しつつ、一瞬の美しさを的確に描写していることに気づかされる。また、フクシアの色や形を生け花のように昇華させ、ポップな背景を織り交ぜながら、この作品は花鳥画の醍醐味を堪能させてくれる。(2022年4月29日)
[1] ペット大好き! 飼い主とペットのライフスタイルを提案するサイト ペット図鑑 https://www.petoffice.co.jp/chg/article.html?id=111
[2] PetSmilenews ボタンインコってどんな鳥?飼う際の注意点は? https://psnews.jp/small/p/50459/
[3] LOVEGREEN https://lovegreen.net/library/flower/p91109/
GARDEN STORY https://gardenstory.jp/plants/60423
みんなの趣味の園芸 NHK出版 https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-145