ヒーロー喫茶と山田さん

(関連作品)

1・たとえば、こんな四天王

2・ヒーロー喫茶と山田さん

3・ヒーロー口上戦!α


(登場人物)

・山田(やまだ):♀

本名ではないが、山田としか呼ばれない。

主人公でツッコミ役。引っ込み思案系。


・赤沼(あかぬま):♂

喫茶店の店長、兼アルファレッド。

立場上一番偉いが、桃地には頭が上がらない。

一言で言えばバカ。


・青葉(あおば):♂

表面上は一番常識的でまともな人。アルファブルー。

ボケにもツッコミにもなるオールラウンダー。

お兄さん系。


・黒豆(くろまめ):♂

物静か、というか暗い。アルファブラック。

二役において、テンションの差が凄まじい。

人見知りだが、実は一番の常識人。


・桃地(ももち):♀

受付嬢。実は元アルファピンク。

喫茶店においての紅一点で、ブチ切れると通称「裏桃地(うらももち)」が顔を出す。

雑用係に近いが、裏桃地の力により実質一番偉い。


・斎藤(さいとう):♂

魔界の四天王の一人、大地のオベリスク。斎藤は仮名。

人間界を征服するために人間に紛れて生活し、時々アルファグループに喧嘩を売るが、最近は飽きられている。

部下もついて来てくれなかったりと、仕事は出来るのに色々かわいそうな人。


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(役表)

山田:

赤沼:

青葉:

黒豆:

桃地:

斎藤:

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山田:どうも、初めまして。

   私の名前は、山田といいます。

   現在、というか、今回の話の当時は、大学2年生です。

   あ、いえ、本名が山田というわけではなくて、これはただのあだ名です。

   私の本名は……まあ、それは、後でも出てきますから。

   今回はなんの話かというと、私がアルバイトを探していた時に偶然出会った、変な喫茶店の話です。

   どこが変なのかと言えば……いや、店自体は普通なんです。

   ただ、そこに勤めている人たちとか、そこに来るお客さん? 達とかが、

   変というか、個性的というか……

   ……って、今ここで口頭で言われても、よく分かりませんよね。すみません。

   とりあえず、経緯は省いて、その店に面接に行った当日からお話しようと思います。

   大した話ではないかもしれませんが、どうぞ、最後までお付き合いください。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


山田:ここ……だよね、住所的にも……誰もいないのかな……?

   すみませーん。


桃地:はーい、はい、はい。

   失礼しました、昼食中だったもので。


山田:あ、いえ。

   こちらこそ、お昼時にすみません。

   あの、今日こちらで、面接を受けさせていただくことになってる……


桃地:ああ、山田様ですね!

   はいはい、少々お待ちくださいね。


山田:あ、あの、すみません!


桃地:はい?


山田:えっと……名前なんですけど、私、山田じゃなくて……


桃地:あれ?

   ……ごめんなさい、ちょっと、履歴書を拝見しても?


山田:あ、はい。

   これです。


桃地:えーっと……ああ!

   五十山田(いかいだ)様! あー!!

   すみません、大変失礼しました!!

   山田様としか、伝え聞いていなかったもので……


山田:いえ、よく間違われるので。

   それであの、喫茶店だと聞いてたんですけど、ここって、オフィスでは……?


桃地:ああ、ここはまあ、副業の方の受付が主ですので。


山田:ふ、副業?


桃地:すぐにわかりますよ。

   さ、それより、面接ですよね。

   喫茶店は地下にありますし、今店長もちょうどそっちにいると思うので、ご案内しますね。


山田:あ、はい。


桃地:まーだ稽古やってるのかなぁ……

   全く、約束の時間までには切り上げてって言っておいたのに。


山田:け、稽古……?

   なんだろ、発声練習でもしてるのかな……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


桃地:店長ー?

   山田……じゃなかった、五十山田様が来ましたよー。

   てーんーちょーっ?


山田:あの、今って閉店時間なんですか?


桃地:ああ、はい、そうですね。

   ここの開店は、13時からですので。


山田:……それにしたって、暗すぎるような……


桃地:店長ー、もう約束の時間過ぎてますってばー!!

   ……あーもう、めんどくさいなあ……

   五十山田さん、ちょっと耳塞いでてもらっていいですか?


山田:え、あ、はい?


桃地:(深呼吸)

   ……キャーーーッ!!

   誰か助けてぇーーーーッ!!!


山田:!?


赤沼:トォーウ!!


青葉:ハァーッ!!


黒豆:ヒャッホーーウ!!


山田:え、え!?

   なに、なにごと!?


赤沼:天が呼ぶ! 地が呼ぶ!

   人が呼ばずとも心が呼ぶ!!


青葉:この世に蔓延る悪を断ち切り、あの世に逝くまでエスコート!


黒豆:我ら、天下無双の正義の討ち手なり!


赤沼:爆炎の右手! アルファレッド!!


青葉:絶対零度の剣! アルファブルー!!


黒豆:深淵の射手! アルファブラック!!


赤沼:さあ、覚悟しろ! 平和を脅かす悪め!!


(間)


山田:……えっと……


青葉:はーい、お疲れーっ。


黒豆:お疲れっす。


赤沼:うむ、だいぶズレもなく出来てきたな。


青葉:あのさ、やっぱり「絶対零度の剣」は変えさせてくれないかな。

   僕、氷じゃなくて水属性だしさ。


赤沼:そうだなあ……

   なんとなく、響きがかっこいいからって理由で絶対零度にしたけど、

   出来もしないことを掲げててもな。


桃地:あのー。


青葉:そうそう。

   「名は体を表す」って言葉もあるしさ、もっと水っぽい言葉がいいよ。


赤沼:例えば、なんだ?


青葉:えー……蒼龍?


赤沼:……かっこよすぎやしないか?


青葉:いいじゃんか、ダサイよりはさ。


赤沼:それだったら俺だって、サラマンダーとかがいいよ。


青葉:横文字はダメだろ、もう名前で横文字になってるんだからさ。


桃地:あのー、そこのお三方!


青葉:なにさ?


赤沼:なんだ桃地、もう休憩時間は終わったのか?


黒豆:俺はなにも喋ってないんだけど……


桃地:いや、そうじゃなくて。


青葉:……あれ、桃地さん、その子誰?


黒豆:お客さん……じゃないよね、まだ開店時間前だし……


桃地:いや、だから、


赤沼:ああ、もしかして、入隊希望者か!?

   これはありがたい、今は猫の手も借りたい状態だからな!

   出来れば男のほうが良かったが、そんなことも言ってられん!


山田:いえ、あの、私は……


赤沼:ん?

   なんだ、桃地と同じオペレーターとかのほうがいいか?

   それならそれでもいいが、ただ少し勉強することが多いから、ちょっと面倒かもしれんぞ?

   そうだな、まずはここの経費管理もすることになるから、簿記あたりから……


桃地:うるっさいわボケがぁ!

   話を聞けや!!


山田:っ!?


青葉:あ、これは……


黒豆:……あーぁ、裏桃地さんが出てきちゃった……


桃地:おい赤沼、ちょっとそこ座れ。


赤沼:お、おい桃地くん、客人の前だぞ?

   ここで裏桃地を出すのは、


桃地:いいから座れ!!


赤沼:あ、はい……


桃地:誰が椅子に座れっつった、床に座れ、床に。

   何様だテメェは、あん?


赤沼:いや、一応、リーダーと店長を務めさせていただいております、はい……


桃地:おお、そうだなそうだな。

   で?

   そのリーダー兼店長のあなた様の仕事は、大事な約束の時間も、用件も、相手も忘れて、

   稽古に没頭することですか?

赤沼:え、いや……も、もちろん覚えてるぞ?

   あのー、ほら……あれだよ、今日の正午あたりとかに……?


桃地:はァ?


赤沼:いや、あの……その……


青葉:はぁ……

   なあ、今回はどれくらいかかると思う?


黒豆:さぁ……

   とりあえず、また今日も臨時休業だろうね……


青葉:だよなあ……

   あーあ、だから今日は、早めに切り上げたほうがいいんじゃないのって聞いたのに。


黒豆:しょうがないよ、赤沼さんが忘れっぽいのは、いつものことだし……


山田:あ、あのー……


青葉:ああ、すみませんね。

   なんか、いきなりこんなんで。


山田:いえ、あの、私はどうしていれば……


黒豆:……とりあえず、あんまり動き回らないほうがいいよ……

   裏桃地さんの矛先が、こっちに向くから……


山田:は、はぁ。


青葉:あーでも、なんか今回は長引きそうだし、先に僕たちだけでも、自己紹介しとこうか。

   今日面接することになってた子だよね、確か。


山田:あ、はい、そうです。


黒豆:採用かどうかも決まってないのに、先に従業員と挨拶するのっておかしくない……?


青葉:いーのいーの。

   面接なんて形式だけで、だいたいの場合は採用なんだから。

   しかも、女の子だよ?

   あの赤沼さんが、滅多な事以外で、女の子を落とすと思う?


黒豆:……思わない。


青葉:だろ、それじゃ決まり。

   まず、僕は青葉。

   この店の、フロアの担当をしてる。

   副業のほうでは……あ、副業の話って聞いた?


山田:いえ、副業がある、とは聞いてますけど、内容までは……

   でも、さっきのアレとかその服装的に、ヒーローショーのスタッフとかですか?


青葉:当たらずとも遠からずってとこかなあ。

   まあ、それはおいおいね。

   とりあえず僕は、喫茶店ではフロア全般、で、


黒豆:黒豆……厨房担当……


山田:く、黒豆?


青葉:そう、黒豆。

   ああ、あだ名とかじゃないよ、本名が黒豆。

   こいつすごくシャイでさ、人前じゃずっとこうなんだ。

山田:え、でもさっき、「ヒャッホーーウ!!」とか……


青葉:それはそれ、これはこれ。

   で、さっき言ってたから、なんとなくわかるかも知れないけど、

   あっちで今怒られてるのが、店長の赤沼さんね。

   怒鳴ってる方が、受付嬢と、雑務全部を兼任してる桃地さん。


黒豆:実質、一番偉いのって、桃地さんな気もするけどね……


青葉:裏ボスだよ、裏ボス。

   聞こえたら殺されるなこれ。


桃地:誰が裏ボスですって、青葉くん?


青葉:あ、聞こえてました?


桃地:バッチリ聞こえてるわよ、全く。

   店長がいないところで、勝手に話を進めないの。


黒豆:説教は終わったんですか……店長は……?


桃地:分かんない。

   たぶん、また控え室で泣いてるんじゃない?


青葉:え、じゃあこの子の面接どうするんですか。


赤沼:大丈夫……ちゃんと俺やるから……


青葉:あ、もう立ち直ったの?


赤沼:いや、全然まだだけど、約束のほうが大事だし。

   お前らもさっさと着替えて来いよ、いつまでもそんな格好でいたら、反応に困るだろ。


桃地:今更過ぎる気がしますけど。


赤沼:えーっと、じゃあ……山田さんだったよね。


桃地:おい。


赤沼:違う、違った! 五十山田さんだよね!

   とりあえず面接するから、奥の方に来てもらっていいかな!


山田:あ、はい。

   ……よかった、このままなあなあで、話が進まないのかと思った……


斎藤:たのもー!!


山田:!?

   今度はなに!?


斎藤:インターホンを何回鳴らしても誰も出てこないし、

   受付に誰もいないから、こちらからここまで出向いてやったわ!!

   久しいなぁ赤沼!

   ……いや、我ら魔界四天王の宿敵、アルファレッドよ!!


赤沼:貴様、斎藤!!

   いや、魔界の四天王が一人、大地のオベリスク!!

   わざわざそっちから、こちらの本拠地まで乗り込んでくるとはな!


山田:え、え?

   なにこれ、またヒーローショーが始まる流れなの?


桃地:五十山田さん、危険だから下がっててください。


山田:桃地さん……でしたっけ、あなたまで……

   これ、なにかの撮影なんですか?

   私も登場人物に含まれてましたとか、そういうオチなんですか!?


桃地:いいえ。

   これは特撮映画でも、お遊びのヒーローショーでもない。

   あれはれっきとした魔族の悪人で、本物の、魔界の四天王との対決。

   下手に動くと、死人が出るかもしれない。


山田:え、ええ!?


桃地:詳しい説明は後でします。

   とにかく今は、安全なところへ避難してください!


山田:そ、そんなこと言われても!


赤沼:しかしなんだ、なぜ今回は貴様だけなんだ?

   いつもは4人揃って来ているじゃないか。


斎藤:クックック……!

   勘が鈍ったか、アルファレッド。


赤沼:なに?


桃地:ま、まさか……外からここを包囲しているというの!?


斎藤:クハハハハハ!

   その通り、なら良かったんだがなぁ!!

   あいつら約束の時間になっても、一人も来やしねえ!

   だから今、俺は完全に単騎駆けだ!


山田:……威張って言うことじゃないような……


斎藤:それを言ったらアルファレッド、貴様に至ってはなんだ!?

   なぜ、戦闘用スーツを着てすらいないのだ!

   なんで、完全に通常業務モードなんだよ!!


赤沼:いや、そんな事言われてもな。

   俺だって別に、四六時中アルファレッドなわけじゃないし、

   それに、これからあの子の面接しなきゃいけないから。


斎藤:あの子?


山田:ひっ、こっち見た!?


斎藤:……そこの君、ちょっと。


山田:な、なんでしょうか……


斎藤:ちょっとこっち来て、お願いがあるから。


山田:えぇ……関わりたくないんですけど……


桃地:行ってあげてください、五十山田さん。


山田:桃地さんどっちの味方なんですか!?


桃地:だって、このままだと斎藤さんが気の毒だから……


山田:気の毒って……一応敵なのに……

   ……行かないと、話進みませんか?


桃地:おそらく。


山田:えぇー……なんで私が……


斎藤:そう言わないでくれ、すぐ終わるから。


山田:はあ……

   ……これで良いですか?


斎藤:……よし!

   これで状況は五分五分だなァ、アルファレッドォ!!


赤沼:なに、どういうことだ!?


斎藤:見て分からないか、この子は人質だ!

   下手な動きをすれば、この子の命は無いと思え!!


山田:あー、やっぱり、こういう流れなのか……


斎藤:さあ、怯えろ、泣き叫べ!


山田:……それは、私がですか?


斎藤:そう。


山田:え、嫌だ……


斎藤:そうじゃないと、いい感じに話が進まないんだってば!

   後でなにか奢りますから!


山田:えぇー……それでいいの……?

   じゃあ、えっと……

   キャー、タスケテー、コワーイ。


斎藤:フハハハハハハハ!!


赤沼:くっ!

   幼気な少女を人質に取るとは、卑怯だぞ!!


斎藤:なにを今更!

   我らは魔界四天王、貴様らを滅ぼすのに手段など選ばん!!


桃地:今は一人しかいないじゃない。


斎藤:それは言うな!!


青葉:ハァーッ!!


黒豆:ヒャッホーーウ!!


斎藤:なに!?


桃地:あ、あれは!

   アルファブルーに、アルファブラック!

   助けに来てくれたのね!!


山田:青葉さんと、黒豆さんじゃないんですか……?


斎藤:貴様ら、アルファブルーにアルファブラック!!

   ……だからさぁ!

   なんでお前らも私服なんだよ、俺だけ馬鹿みたいじゃん!!


青葉:え、今更気づいたのか?


黒豆:だいたいお前、いつも一人だけ浮いてるぞ。


斎藤:く、減らず口を……!

   貴様ら、この子がどうなってもいいのか!!


青葉:どうなってもって言われても……え?

   君、今人質なの?


山田:あ、はい……なんか、そうらしいです……


青葉:じゃあ、縛るなり捕まえるなりすればいいのに。

   なんで普通に、隣に立ってるだけなんだよ。


斎藤:い、今そうしようとしていたところだ!!

​   ……じゃあ、えっと……どうしようかな、取り敢えずこう……

山田:え、ちょっと、手握ろうとしないでくれますか。

斎藤:あっ、え、はい。

   すみません。

黒豆:よっわ……

桃地:貴方、それでよく四天王のリーダー務まってるわね。

斎藤:う、うるさい!!

​   仕方ないだろ、俺は土壇場と女には弱いんだよ!


赤沼:斎藤、一つ気になってることを言っていいか。


斎藤:オベリスクだ!!

   なんだ!


赤沼:お前、その状態でどうやって戦うんだ?

斎藤:なに?

赤沼:いや、だって。

   お前が一歩でもその場から動いたら、もうその子逃げれちゃうだろ。


(間)


斎藤:…………あ。


赤沼:……馬鹿じゃねえの。


青葉:バーカ。


黒豆:ばーか。


桃地:このオベリスクー。


斎藤:うるせえ!!

   ていうか、「このオベリスク」ってなんだよ!!

   もはや意味が分かんねえよ!


山田:あのー……


斎藤:なんだよお嬢さん。


山田:ばーか。


斎藤:ぬぐぅおおおぁああああ!!


赤沼:なぁ、こっちはこっちで、今日は忙しいし、

   お前もなんか、なんの準備も無いみたいだし、日を改めないか?

   ぶっちゃけ、こっちも常に臨戦態勢ってわけじゃないんだよ。


斎藤:臨戦態勢じゃない時に奇襲するのが、今回の作戦だったんだよ!

   臨戦態勢万全の時に戦ったら、こっちに勝目ねえもん!!


桃地:あ、うすうす気が付いてたんだ……


青葉:そうだそうだ、帰れ帰れ。

   ただでさえ今日は裏桃地さんが出てたから、赤沼さんも疲れてんだよ!

   ほら、かーえーれ、かーえーれ。


黒豆:かーえーれ、かーえーれ。


赤沼:かーえーれ、かーえーれ!

   ほら山田さんも!


山田:えぇー……

   か、かーえーれ、かーえーれ……


桃地:かーえーれ、かーえーれ。


斎藤:こ、この……!!

   き、貴様ら! 覚えてろよ!!

   この屈辱は! 何億倍にも! して! 返してやる!!

   ウワーーーン!!


赤沼:……ふう、やれやれ。一難去ったな。


黒豆:最後……泣いてたね。


青葉:号泣だったなぁ、いい大人だろうに。

   ま、これでまた、しばらくは絡んでこないでしょ。


桃地:正直、すごく久しぶりだったから、ちょっと名前も忘れかけてた……


赤沼:あ、それ俺も。

   第一声で、思いっきり斎藤って言っちゃったもんな。


黒豆:それはお互い様でしょ……

   向こうだって、第一声が赤沼だったし……


山田:あのー……

   そろそろ、説明をいただいてもよろしいでしょうか……


青葉:あ、そっか。

   ごめんね、流れとはいえ、よく分からないまま巻き込んじゃって。

   えーっと……とりあえず、一言で言えば、今のが僕らの副業なんだよ。


山田:今の、グダグダなヒーローショーもどきがですか……


赤沼:いや、最近こそなんかあんな感じになっちゃってるけど、以前はもっとね?

   それこそすごい、血で血を洗うような、殺伐とした戦いをしてたんだよ。


黒豆:最近はね……飽きてきちゃってるからね……


桃地:さっきもちょっと言いましたけど、彼らは本物の、魔界の四天王です。

   人間界を征服するために、魔王の命令を受けて、人間に紛れて生活しているそうです。


山田:ってことは、あと3人も、あんなのがいるんですか?


桃地:ええ。

   といっても、最後に全員揃ってるのを見たのは、半年くらい前だったかしら……


赤沼:で、俺たちは俺たちで、普通の一般人として喫茶店を営みつつ、

   あいつらが悪行を働くようなら、さっきみたいに変身して、成敗しに行くと。


青葉:さっきは変身してなかったけどね。


山田:じゃあ、上のオフィスとか、受付は……?


赤沼:あれは……あれだよ。

   最初はヒーロー業も、それなりに大きくなるかなと思ってさ。

   この喫茶店を始めると同時くらいに設置したんだけど……


黒豆:魔界四天王が思いのほか動かないから、完全に、資金の無駄遣いになったよね……


桃地:だから、今の業務内容は、9割9分9厘が喫茶店、1厘があっちの相手ってとこですね。

   勿論、あっちの相手は私達の仕事なので、あなたは構わなくて良いですよ。

   今回はまあ……ちょっと私も、向こうの肩を持っちゃいましたけど、

   次に同じような事言われても、無視しちゃってください。


山田:はぁ……


赤沼:で、面接なんだけどさ……要る?


山田:は?


黒豆:いらないんじゃない……?


青葉:そうそう、どうせ採用する気しか無いんでしょ?


山田:いや、あの……


赤沼:よし、じゃあ明日からよろしく!


桃地:おい赤沼。


赤沼:はい!! 

   えっ、なんで俺だけ!?


桃地:ちゃんと五十山田さんの意見も聞け。

   そろそろ肉体的にも教育したほうがいいか?


赤沼:いえ!!

   大丈夫です! 結構です!!


山田:えぇー……

   でもなんか……今更やっぱりやめる、とか言いづらいし……


赤沼:お?


青葉:それじゃあ?


黒豆:もしかして?


桃地:明日から?


山田:……よ、よろしくお願いします……

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山田:……と、いうわけで。

   面接もなにも無しに、よく分からないゴタゴタに巻き込まれて、そのまま即時採用という、

   普通に考えてもありえない流れで、アルバイトとして雇用してもらい、そこで働く事となったのです。

   それと、散々言われた名前のことですが、

   結局、本名よりも、「山田」で定着してしまいました。

   最初の方こそちゃんと呼ばれていたものの、暫くしたら山田に逆戻り。

   最終的には、本名をきちんと覚えてくれているのは、桃地さんと、黒豆さんくらいになりました。

   ……黒豆さんは、正直ちょっと意外。


黒豆:変わった名前の者同士だから……


山田:と言われたけど、なにか、釈然としないものもあります。

   ……え、今ですか?

   今は……


斎藤:山田さん、どうかした?


山田:いいえ、別に。

   あ、それより斎藤さん、これも頼んでいいですか?


斎藤:えっ、ああ……どうぞ。


山田:やった!

   それじゃあ、後はー……


青葉:しかし凄いなー、山田くん。

   もうそろそろ、一人でメニューコンプリートするんじゃない?


斎藤:ああ……まさか、こんな大食いな子だったとは……

   今になって、あの時の自分の発言を後悔してるよ……


黒豆:自業自得でしょ……


赤沼:いや、俺は斎藤が、普通に客として俺らの店に来てる事のほうが、よっぽど驚きなんだけど。


斎藤:俺は嫌だったんだよ!

   でも、山田さんの希望だったから、断れなかったんだ!!

   ていうか、なんで喫茶店なのに、ハンバーグだのグリルだのあるんだよ!

   ここはファミレスか!


赤沼:だって、喫茶店の定義なんてわかんねえもん。

   とりあえず、喫茶店の方が、雰囲気的にヒーローの隠れ家っぽくっていいかなーって。

​   それに、ファミレスは、こことは別であるぞ。

斎藤:は?


桃地:なに?

青葉:え、何それ、初耳なんだけど。

赤沼:あれ、言ってなかったっけ。

​   知り合いが今度、個人経営のファミレスを始めるらしいんだけどな。

​   この喫茶店と、提携店舗、っていうの?

   そういうのにしたいって申し出があって、協力してやってく事になったんだよ。

黒豆:決定事項?

赤沼:決定事項。

山田:協力って、具体的に何するんですか?

赤沼:まあ、簡単に言えば、人員補助と、盛り上げのイベント担当ってとこかな。

​   要は、こっちは知っての通り、大概暇だから、空いてる日は、ヘルプとして向こうで働くってわけ。

​   別に、強制じゃないけどな、行ける奴が行ける時にって感じだ。

黒豆:……強制じゃないなら、俺はパス。

​   知らない人と、知らない店で働くとか、ちょっと……

赤沼:まあまあ、お前はそういうとは思ったけどな。

   厨房担当は厨房担当のままで良いし、勿論給料もちゃんと出るんだぞ。

   しかも、そこそこ良い額。

青葉:人員補助は、何となくそんな感じだろうなって分かるんだけど。

   イベント担当っていうのは?

赤沼:不定期で、ヒーローショーとか握手会とか開催して、客足を増やして欲しいんだとさ。

​   やっぱり、チビッ子に愛されてこそのヒーローだろ。

​   俺達自身の人気も稼げて、一石二鳥って寸法さ。

​   ……あ、そうだ。

   そのショーには、斎藤達にも出て貰う事になるから、そのつもりでな。

斎藤:俺も!?

赤沼:当たり前だろ?

   ヒーローショーをやるのに、悪役がいなくてどうすんだよ。

​   ちゃんと、四天王全員で来いよ。

   大勢の前で、お遊び感覚で叩きのめしてやるから。

斎藤:誰が行くか!!

   いくらなんでも馬鹿にし過ぎだろ!!

青葉:成程ー。

   うまくいけば、いい案だね。

斎藤:どこがだ!!

山田:……あのー​……

青葉:ん、どうしたの山田く……

​   ……おっと、まずいなこれ。

黒豆:お先に退散……

赤沼:……ん?

   どうした桃地、顔が怖いぞ。

桃地:……お前、ちょっとそこ座れ。

赤沼:えっ、な、なんで?

桃地:二度言わすな、さっさと座れ。

赤沼:あっ、はい。

桃地:床に!!

赤沼:はい!! すみません!!

桃地:……ハァ……

   お前な、そういう事は、経理担当してる私に、一回相談しろって、前々から言ってるよな?

​   独断で、店の経営に関わってくるような事決めんなって、散々口酸っぱくして言ってるよな?

​   なあ、聞いてるかおい。

赤沼:……はい、しっかり聞いてます……

桃地:なあ、前にそれで大失敗して、店にでっかい負担出して、私に土下座までさせたよな?

   まだ懲りてないのかお前。

赤沼:いえ、あの……そんなつもりは……

​   何というか……その、良かれと思って……

桃地:……赤沼、ちょっと裏来い。

   この機会に、きっちり諸々教え込んでやる。

赤沼:えっ!!

​   いやあの、それだけはちょっと……!

桃地:さっさと来い!!

赤沼:はいっ!!

桃地:あ、ごめんねー山田さん。

   どうぞごゆっくりー。​

斎藤:……おい、何だあれ、怖過ぎだろ。

​   魔王様でも、あそこまで怖くないぞ。

山田:……連れていかれちゃいましたね。

青葉:連れていかれちゃったねえ。

​   これは、今日はもう店仕舞いかな。

   多分あの様子だと、1時間や2時間じゃ済まないだろうし。

山田:そ、そうですね。

黒豆:そうだろうと思って、もう今「CLOSE」にして来た。

青葉:おっ、流石。

斎藤:……何となく、俺達がお前らに勝てない理由が分かった気がする。

青葉:あれ?

   そういえば今更だけど、今日は2人でお出掛けなの?


山田:ええ、まあ。


黒豆:デート?


斎藤:えっ?

   いや、そんな……


山田:違いますよ、有り得ない。


斎藤:微塵の希望も感じさせない!


山田:それよりほら、斎藤さん。

   今日は、あなたは私の財布なんですから、覚悟しておいてくださいね。


斎藤:……あ、はい。

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山田:この日は結局、ウン万円単位で、奢ってもらったと思います。

   私は、今はもう就職して、あの店にもしばらく行っていないので、

   あの人たちが今、なにをしているのか、

   魔界四天王というのが、まだ人間界にいるのかはわかりませんが、

   働いていた環境のおかげか、あの店に勤めて、あの人達と関わって、

   ……少しだけ、強くなれた気がします、いろいろな意味で。

   以上、お粗末さまでした。

   私の些細な日記録でしたが、楽しんでいただけたなら幸いです。


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