たとえば、こんな四天王。
(関連作品)
1・たとえば、こんな四天王。
(登場人物)
・斎藤(さいとう):♂
魔王に仕える魔界の四天王のひとりでありリーダー格、「大地のオベリスク」。
普段は仮の姿として、「斎藤」というサラリーマンに扮している。
仕事は出来るが、部下に恵まれない不憫体質な人。
・田辺(たなべ):♂
魔界の四天王のひとり、「炎のグレン」。
仮の姿は、外回り営業の派遣社員。
ノリが軽く、サボり癖が抜けない。
・大島(おおしま):♂
魔界の四天王のひとり、「風のジン」。
仮の姿は、ファーストフード店のアルバイト店員。
四天王の中では一番後輩。
・店員:♀
魔界の四天王のひとりで紅一点、「水のルサルカ」。
仮の姿は、ファミリーレストランのパート店員の羽柴(はしば)。
面倒見は良いが、雑な一面もある。
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(役表)
斎藤:
田辺:
大島:
店員:
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店員:いらっしゃいませー。
2名様ですか?
斎藤:あ、いや。
後からもう2人来るんだけど……
店員:かしこまりました。
では、奥のテーブル席の方にご案内致しますね。
斎藤:はい。
店員:こちらになります。
今、お水お持ちしますので。
斎藤:ありがとう。
田辺:いやー……暑いっすね、今日も。
斎藤:そうだな。
田辺:やっぱクーラーって偉大っすねー。
なんかこう、生き返るー! って感じ。
……あら、これ空だ。
斎藤:そうだな。
店員:こちら、お冷になります。
ご注文は、後からの方がよろしかったですか?
斎藤:はい。
田辺:あ、すみません。
このピッチャー空みたいなんで、入れてもらえます?
店員:あっ、申し訳ございません。
すぐにお持ちしますね。
田辺:お願いしまーす。
斎藤:……そういえば、大島の奴はどうした?
田辺:あー、そういやまだ、連絡来てないっすね。
時間的には、もうバイト終わっててもおかしくないはずなんだけどなあ。
斎藤:まあ、いいだろう。
1度話すのも2度話すのも、大差無い。
さっそく、今日の会合を始めたいと思うんだが、
田辺:うわっ、山盛りポテト250円ですって!
すっげえ安い!
斎藤:聞けよ。
店員:お待たせしました、どうぞ。
田辺:ありがとうございまーす。
で、なんでしたっけ、斎藤さん。
斎藤:なんでしたっけ、なんて言ってる場合か。
今日こうして招集をかけた、理由はだいたい分かるだろう、田辺。
……いや、魔界の四天王が一人、炎のグレンよ。
店員:ケチャップと、バーベキューソースと選べますが。
田辺:あ、そうなの?
じゃあ、バーベキューで!
店員:かしこまりました。
少々お待ちください。
斎藤:話聞けよ、ポテト頼んでないで。
田辺:いやー、すみません。
最近、脂っこいものなんて食べる機会無かったんで。
で、なんでしたっけ、斎藤さん。
斎藤:今は斎藤ではない。
四天王の一人、大地のオベリスクとしてお前を呼んだんだ。
田辺:あ、じゃあもしかして他の、大島と羽柴さんも?
斎藤:そうだ。
仮の姿としてではなく、それぞれ風のジン、水のルサルカとして招集をかけた。
田辺:そっかー。
四天王が一堂に会するのも久し振りっすねー。
でも、なんでその場所が、こんなファミレスなんすか?
斎藤:時間を気にせず、周りの目も気にならず、
尚且つ金もかからん場所を選んだら、必然的にこうなったんだ。
この炎天下で、外で集まるのも嫌だろう。
田辺:それは嫌っすねー、来ないかも、俺。
斎藤:……で、本題だが。
店員:山盛りポテトバーベキューソース、お待たせしましたー。
田辺:おー!
すっげえいい匂い! うまそー!!
斎藤:……まあいい、ポテト食いながらでもいいから聞け。
今回は、なぜ招集をかけたか分かるか。
田辺:(ポテトを食べながら)
えーっと。
前回はあのー、あれ……なんたらレッドと戦う前の……
あれ、あいつ名前何でしたっけ?
ポテト……ポテトレッド?
斎藤:アルファレッドな。
誰だ、ポテトレッドって。
田辺:あ、そうそう!
アルファレッドと戦う前でしたよね。
それにあっさり負けて、またしばらく音沙汰無しと。
……なんで呼ばれたんすか?
斎藤:あっさり負けたからだよ!
そこまで行ったなら分かれよ!
ていうか、宿敵の名前忘れんな!
田辺:だってぇー、分かりにくいんですもんアイツー。
アルファだの、ベータだの、ガンマだの、デルタだの、ってやたら変身するし。
しかも、一人でもそんななのに、色違いまでいるんすよ?
覚えきれませんって、そんなの。
斎藤:名前に色が付くヒーローは大体そうだろ。
色違いとか言うな。
田辺:あ、ポテトいります?
斎藤:いらん。
田辺:美味しいのに。
斎藤:そんなことよりだ。
毎度毎度、こっちが入念な作戦会議をしているにも拘わらず、10分とかからず負けていては、
四天王の名折れ、それどころか、魔王様の名すら汚しかねん。
そこで、むやみやたらと机上の作戦ばかり立てるのではなく、今回は反省と改善を……
大島:すみません、お待たせしました!
田辺:あ、大島久し振りー!
相変わらず髪ボッサボサだなー、逆にどうやったらそうなんのよ。
大島:どんだけセットしても直らないんですよ、これ……
あ、斎藤さんも、ご無沙汰してます。
斎藤:ああ。
ちょうど、本題に入ろうとしてたところだ。
遅刻の理由は後で聞く。
とにかく、このままでは我ら四天王が、
大島:あっ、ここのグリルハンバーグ、めっちゃ美味しいですよ。
来たら迷わず、取り敢えずそれ頼むくらい。
田辺:マジで!?
ちょっと食べてみようかなぁ。
斎藤:聞けよ!
大島:あ、斎藤さんも食べます?
俺の一押しなんですけど、グリルハンバーグ。
斎藤:いらん。
そんなのいいから、話を聞けって。
大島:すいません、実は今日、朝からなにも食ってないから今、腹ペコで……
先に、なにか食べちゃダメですか?
斎藤:……もういい、分かった。
ここは奢ってやるから、好きなもの頼め。
その上で、話を聞け。
大島:本当ですか!
ありがとうございます!
じゃあー、どれにしようかなー……
田辺:あ、メニュー俺にも見して。
斎藤:(リーダー向いてないのかな、俺……)
大島:……じゃあ、僕がグリルハンバーグのサラダセットと、ドリンクバー。
田辺さんが、ミートソーススパゲッティと、ドリンクバーでいいですかね?
田辺:オッケー。
斎藤:それでお前らは俺の金って分かった途端、随分景気よく頼むな?
田辺:あ、ハンバーグ俺にも少しくれよ、俺のスパゲッティあげるから。
大島:いいですよ。
あ、斎藤さんは、なにか頼みます?
斎藤:……アイスコーヒー。
大島:了解です。
ポチッとな。
店員:はーい!
はいはい、お呼びですか?
大島:えーっと、グリルハンバーグのサラダセッ……
あれ?
店員:はい?
大島:ルサル……じゃなかった。
羽柴さんじゃないですか!
店員:……え、もしかしてジン……
じゃなくて、大島くん?
大島:はい!
斎藤:……は?
羽柴って……え?
田辺:えっ?
斎藤さん、今気付いたんすか?
斎藤:え、お前、四天王のひとりの、水のルサルカか?
店員:ええ、そうですけど……
斎藤:言えよ!
え、言えよお前ら!
田辺:いや、てっきり羽柴さんは、後で呼ぶのかなーって……
店員:私は「あ、珍しいお客さんだなー」って思ったくらいで、普通にスルーしてた……
大島:……ほ、ほら!
羽柴さんの時とルサルカの時じゃ、全然化粧が違いますから、気付かなかったのも無理ないですよ。
今までの集会全部、ルサルカのほうで来てましたし。
店員:あ、今日の集まりって、そっちのほうでの用事だったの?
斎藤:言っただろ……
ちゃんと、オベリスクのほうのアドレスで、メール送っただろ……
田辺:え、わざわざアドレス別々にしてるんすか。
大島:すごい律儀ですよね、見かけによらず。
店員:あー……実は私、ちょっと前にアドレス変えちゃってて……
今日の集まりも、田辺くんから聞いたのよ。
それでアドレス変更したっていうメール、斎藤さんにだけ、送るのすっかり忘れてた……
斎藤:………………
田辺:そんな事ある……?
え、それってわざt……
大島:よ、よくありますよね!
僕もやっちゃったことありますよ!
店員:ご、ごめんね?
斎藤:……いや、他の四天王たちについて、きちんと把握していなかった俺にも責任はある。
魔王様の威厳を守ることばかり考えて、仲間のことを、全く分かっていなかった……
作戦や過去の失敗について考えるよりも、まず重視すべきはそこだったんだ。
田辺:斎藤さん……
いや、オベリスク!
大島:オベリスク!
店員:オベリスク!
斎藤:真面目な話は、今回は抜きだ。
今日は、我々の結束と連携を、より強めるための集会に変更する!
好きなだけ、飲むなり食うなりするがいい!
田辺:おお!
店員:あ、でも私まだ仕事あるから、参加は少し後で良いかな、もうちょいで終わるから。
そういえば、さっきなにか頼もうとしてなかった?
大島:あ、そうだった。
えーっと……グリルハンバーグのサラダセットと、ドリンクバー。
で、田辺さんが、ミートソーススパゲッティとドリンクバーです。
斎藤:あと、アイスコーヒーを1つ頼む。
店員:はいはい。
じゃ、ちょっと待っててね。
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(数時間後)
大島:ところで。
店員:ん?
大島:羽柴さんって、いつからここに勤めてるんですか?
田辺:結構長いんじゃない?
俺らが人間界に潜み始めてから、真っ先に勤め始めたのも羽柴さんだし。
店員:そうは言っても、所詮アルバイトだからねー。
でも、待遇はかなりいいよ、この辺の他の店より時給も高いし。
そういうみんなは?
大島:僕はまあ、ファーストフード店ですね。
田辺:俺は派遣だけど、一応社員。
取引先と会社を行ったり来たりだから、この時期はやばいわ。
斎藤さんは、結構お偉いさんなんすよね、確か。
斎藤:ああ、最近課長に昇進した。
大島:すごいじゃないですか!
おめでとうございます!
斎藤:いや、大した事じゃない。
店員:あーあ、やっぱり私もどっかに就職したほうが安定するかなぁ。
大島:ちなみに、ここの待遇ってどんな感じなんですか?
店員:えーっとね、時給が900円で、深夜はもう少し上がるね。
で、交通費支給、制服貸与、経験の有無関係なし、昇給ありで、
でね、すごいのがね、アルバイトでも有給休暇取れるんだよ!
大島:すごいっすねそれ……
僕も今のバイト先辞めて、こっちに入ろうかなあ。
田辺:ちなみに大島、今の時給いくら?
大島:750円です……
田辺:高校生の時給じゃん……やべえな。
ていうか、最低賃金下回ってね?
大丈夫か、そこ?
店員:しかも忙しいんでしょ?
大島:もう毎日てんてこ舞いですよ。
今日もかなり長引いて、遅刻しましたし。
店員:こっち来たらいいよ。
私が手とり足とり教えてあげるから。
大島:そうしようかな……
あーでも、辞めますって言うのが一番怖い……
斎藤:……とりあえず、俺から言えるのはただ一つ。
大島:はい?
斎藤:……我々は少し、人間界に慣れ過ぎている。
馴染みすぎだ、いくらなんでも。
大島:それは……
店員:まあ……
田辺:し、仕方ないっすよ!
四天王やってたって給金があるわけじゃなし、働かざるもの食うべからずって言うじゃないっすか!
人間界で生きるんだったら働かないと。
斎藤:その人間界を征服するための第一の作戦として、
我々はこうして人間の振りをして生活しているんだがな。
田辺:そりゃまあ……そうっすね、はい。
その通りっす。
大島:でも、そろそろ僕たち、飽きられてませんかね、正直なところ。
店員:そうかもねー……
昔はあっちからアジトまで乗り込んできて、ドカスカやる時もあったのに、
今じゃ私たちが何かしないと、向こうからは何もして来なくなったもんね。
どんな格好してたかすら、正直朧気だわ……
そもそも、名前なんだったっけ?
レッド……あれ、レッドなんとか……レッドプラネット?
斎藤:それは火星だ。
アルファレッドな。
店員:そうそう、それそれ!
大島:あー!
そういえば、そんな名前でしたね!
僕、思い出そうとしてもアゼルバイジャンしか出て来ませんでしたよ!
斎藤:お前はせめてもっと頑張れよ。
もはや「ア」しか合ってないじゃん。
田辺:アゼルバイジャンだけに?
斎藤:殴るぞ。
田辺:スイマセン。
斎藤:……しかし、思いのほか、ひどいなお前ら……
敵の名前すら、誰もちゃんと覚えてないとか……
いいか、大前提として、奴らと我々は宿敵だ!
互いが互いを倒すべき敵同士なのだ!
そうでなければ、話として成立しなくなる!
店員:話?
田辺:……軽くメタいこと言ったっすね?
斎藤:と、とにかく。
さすがに陽も沈んできたから、今日のところはこれで解散だ。
支払いは俺がしておく。
大島:ごちそうさまです!
店員:ごちそうさまです。
田辺:お疲れ様っす。
斎藤:あと羽柴、後でちゃんとメール送っとけよ。
店員:あっ、そうだった。
はーい。
斎藤:じゃあ次会う時はちゃんと各自作戦を考えて……
あ。
田辺:あ?
大島:どうしました?
斎藤:いや、さっきのレジの店員、どっかで見た顔だなーと思ってたんだがな……
田辺:仕事関係の知り合いとかっすか?
斎藤:いや……
大島:他の魔界の住人とか。
斎藤:いや、今人間界にいる魔族は我々だけのはずだ……
店員:え?
じゃあ、いったい誰?
斎藤:……あの店員、アルファレッドだ。
田辺:(同時に)……はぁああ!!?
大島:(同時に)……はぁああ!!?
店員:(同時に)……はぁああ!!?
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