TAIYAKISS
(関連作品)
1・TAIYAKI
2・TAIYAKIT
3・TAIYAKISS
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(役表)
田井(たい)♂:
飯屋(いいや)♀:
矢木(やぎ)♂:
庵(いおり)♀:
椋入(むくいり)♂:
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田井:よし、じゃあ今日も始めるか。
飯屋:これ何回目?
矢木:今回で、第368回。
椋入:なんで毎回しょうもないと分かっていながら、毎回律儀に参加してしまうんだろう。
庵:暇だから、ないし友達がいないから。
田井:フゥッフゥ↑、辛辣ゥ。
飯屋:でも、今回ばかりは、議題のしょうもなさが視覚的に訴えかけてきてるから、
集まっといてなんだけど、始まる前から既に、帰りたい気持ちで心がはち切れそう。
矢木:議長。
田井:おう。
矢木:これは、なに?
田井:なにって、たい焼きだが。
矢木:それは見れば分かるんだよ。
椋入:なにっていうか、あの、なんで?
田井:なんで、と言われてもな。
今回のテーマを議論するにあたって、これくらいは必要になるだろうと思ったから準備したまでだが。
このたい焼きの山盛り、略してタキモリを。
庵:なんて?
矢木:たい焼きの大食いでもするの?
田井:議題の進捗具合によっては、そうなる可能性も無きにしも非ず。
椋入:なんでそんなに、たい焼きについて本気で論及したがるんだろう。
飯屋:たい焼きについてだけで、一体何回やるのよ。
なに、田井君って、そんなにたい焼き好きなの?
田井:自覚は無かったけど、もしかしたら、そうである可能性はあるな。
このたい焼きに対する止めどなき探究心、或いは愛と呼ぶべきモノか。
俺は、たい焼きが好きなのかもしれん。
飯屋:たい焼きは、あんたのこと嫌いだけどね。
田井:フゥッフゥ↑、
飯屋:フンッ!!(田井にグーパン)
田井:なぜ殴った?
飯屋:殴ってないわよ。
田井:凄いなお前。
フンッって聞こえたんだけど。
飯屋:そよ風よ。
田井:凄いなお前。
椋入:で、結局、この大盛りのたい焼きは何に使うの?
見てるだけで胃がもたれそうなんだけど。
田井:違うぞ、椋入。
椋入:え?
田井:大盛りのたい焼きじゃない。
たい焼きの山盛り、略してタキモリだ。
またの名を「たい焼き山の邪馬台国」と、
椋入:シュッ!!(田井にローキック)
田井:なぜ蹴った?
椋入:蹴ってないよ。
田井:凄いなお前。
シュッって聞こえたんだけど。
椋入:春一番だよ。
田井:凄いなお前。
まあいい、今から概要を説明するから聴け。
俺が今回このタキモリを準備したのは他でもない、
たい焼きに関する、ある重大なテーマを議論すべk
なんだその握りこぶしは?
矢木:え、今なら許されるのかなって思って。
田井:しまえ。
矢木:はい。
田井:(咳払い)
取り敢えずだ、先に言ってくれた通り、これまで俺は、二度たい焼きを俎上に載せた。
一度目は「どこから食べるか」、
二度目は「本当のたい焼きとは何か」。
そして、三度目の今回は、それらの間を取ったとも言えるずばり、
「たい焼きの本当の食べ方」だ。
飯屋:たい焼きの、
矢木:本当の食べ方。
庵:ちょっとよく分からないね、いつも通りだけど。
椋入:どの辺で間を取ったんだろうか。
田井:そもそもだ、これの着想を得たのは一回目の時。
どこから食べるかという議題だったにも拘わらず、お前たちはどういう食べ方をするのか語っていたな?
矢木:そうだっけ?
飯屋:覚えてない。
庵:私はあんこよりクリームの方が好き。
椋入:そもそも僕は居なかった。
田井:そうだったんだよ。
覚えてないとしても、そうだったという体で聴いてくれ。
それでだ、本格的に議論に入る前に、今改めて、それぞれのたい焼きの食べ方を確認しておきたいんだが、
まず庵は、どうやってたい焼きを食べr
そのハリセンどっから出した?
庵:え?
田井:しまえ。
庵:はい。
田井:よし。
で、お前はどこから、もといどうやって食べるって言ってた?
庵:尻尾からだよ。
ただし、それはクリームに限るけどね。
たい焼きはクリームこそ至高。
椋入:クリームたい焼き過激派だ。
矢木:庵は生粋のクリーマーだからね。
飯屋:クリーム好きなのは知ってるけど、クリーマーって言葉はちょっと聞いた事無いわ。
田井:そうか?
言葉としては、違和感は無いと思うけどな。
マヨネーズ好きの人の事も、なんだっけほら、マヨネイザーって言うだろ。
飯屋:言わないのよ。
矢木:なんか飛び道具系の必殺技っぽいね。
もしくは悪の組織の幹部。
椋入:響きだけで聞いても絶妙に弱そうなのが分かる。
田井:我こそは、コレステ怪人マヨネイザー!
庵:マヨネイザー、手を貸してやろう!
田井:お、お前は!?
庵:我が名は、トマト魔人ケチャッパー!
田井:おお、ケチャッパーの加勢とは心強い!
ならば合体して、「ベシャメルの魔怪王」ロラ様の、真の力を見せ付けてやろう!
飯屋:次行ってもらっていい?
田井:はい、すみません。
矢木:なんで乗ったの。
庵:いや、つい。
ちょっと楽しかった。
田井:で、えーと、飯屋が?
飯屋:半分に分けて食べる。
田井:うん、ただし?
矢木:ただし、縦にね。
飯屋:そう、縦に。
椋入:さながら、たい焼きの二枚おろしだね。
庵:「たい焼きをおろす」って初めて聞く日本語なんだけど。
飯屋:色々分け方は試したんだけど、やっぱり縦にいくのが、一番綺麗に半分にあんこが分かれるのよね。
田井:そこまで分量を気にするならいっそ、皮とあんこと皮で三枚におろして、
正確に分け直したら良いんじゃないか。
飯屋:めんどくさい。
田井:どんな匙加減してんだお前。
で、次。
矢木はなんだったっけ?
矢木:タピオカ用のストローで、あんこだけ吸い出す。
庵:チュパラギだ、チュパカブラ矢木。
田井:うん、やっぱり何回聞いても、お前のは群を抜いておかしいんだよな。
たい焼き売ってる店先でそれやってる奴いたら、マジで甘党のチュパカブラなのかなって思うもん。
UMAだよ、UMA。
椋入:絶対血を吸うより難易度高いから、吸引力は本家を超えるかもしれない。
飯屋:矢木君ってさ。
矢木:なに?
飯屋:マリトッツォって知ってる?
矢木:え、うん、知ってるよ。
田井:おい、飯屋。
飯屋:どうやって食べる?
矢木:中身を吸い出す。
庵:これは紛れも無く本家以上ですね、博士。
椋入:ええ、常人の理解の範疇に収まる気概が微塵も感じられません。
田井:余計な事を聞くな、そして想像するな飯屋。
正直ちょっと予想出来ただろ。
飯屋:ごめん。
期待と嫌な予感が半々だったんだけど、余裕で嫌な予感の方が的中したわ。
田井:で、椋入が?
椋入:丸呑みだね。
飯屋:喉越しが良いんだっけ?
椋入:尻尾から丸吞みした方が、一番喉越しが良いね。
矢木:噛まないの?
椋入:噛まない。
庵:え、噛みすらしないの?
椋入:丸吞みだからね。
田井:おい、ここチュパカブラの末裔に加えて、蛇の化身がいるぞ。
飯屋:矢木君とは別ベクトルのびっくり人間よね。
消化器官の断面図が見てみたいわ。
矢木:そういう議長は?
田井:え、別に、頭から食べるけど。
椋入:気分で?
田井:うん、気分で。
庵:普通。
椋入:普通だね。
矢木:何の変哲も無いよね。
飯屋:しょうもな。
田井:黙れ、奇想天外奇天烈マイノリティどもめ。
この場においてのたい焼きの常識がバグってるせいで、
本来普通である筈の俺の食べ方が、しょうもないとまで言われるのは理不尽が過ぎるだろ。
庵:残念ながらこの場においては、普通じゃない食べ方がマジョリティなんだよ。
田井:おう、かろうじて普通じゃない自覚はあるんだな、そこだけは安心したわ。
飯屋:で、これを確認してどうするの?
椋入:全員でそれぞれ実践してみるとか?
矢木:丸呑みは死人が出そう。
田井:違う。
言っただろ、「本当の食べ方」だ。
お前達だって、どこから食べるかを気分によって変える時もあれば、
どうやって食べるかを変える時だって、気分によってはあるだろう。
庵:いや、
矢木:別に、
椋入:無いよね。
飯屋:無いわね。
田井:良いチームワークだな。
ある前提で話をしてんだよ。
矢木:なるほどね。
つまり、その多種多様な食べ方の中から、
あわよくば人が真似したくなるような新しい食べ方を模索していきたいと。
そういうこと?
田井:イグザクトリー。
飯屋:なにそれウザ。
田井:さすが矢木だ、話が分かる。
矢木:いや、分からないけどね。
田井:ん?
椋入:あ、そういう話なら、僕が初手で良いかな?
庵:え、なんかあるの?
椋入:いや、新しい食べ方というか、単に僕がどうやって丸呑みしてるかってだけの話だから、
厳密には、提起されてる論点とは違うかもしれないんだけど。
飯屋:確かに気にはなるけど、だからといって、ねえ?
矢木:知ったところで、間違いなく役には立たない知識がもたらされようとしてるね。
田井:まあいいだろう、聴こうじゃないか。
少なくとも、このまま駄弁るだけで一向に議論が進まないよりは万倍マシだ。
椋入:じゃあ、たい焼き1つ借りるね。
丸呑みとは言っても、なにも、この形のままやるわけじゃないんだよ。
少しだけ、ひと手間加えるんだ。
庵:ひと手間。
矢木:とは?
椋入:こう、たい焼きを両手で包み込むように持って、
飯屋:持って?
椋入:フンッ!!
田井:え。
椋入:ほら。
こう圧縮して、丸呑み。
庵:おおー。
飯屋:いや、ほらって言われても。
矢木:たい焼きがビー玉サイズの団子になったけど?
椋入って、握力何キロあんの?
田井:たい焼きのアイデンティティをお前……
もはや頭とか尻尾とか関係無いだろ、それ。
どこがどれだ。
椋入:色々試したけど、これが一番良かったかなって。
庵:喉越しが?
椋入:そう、喉越しが。
田井:なるほどな。
まあ、参考には微塵もならんが、案として一応追加はしておこう。
矢木:するんだ。
椋入:ちなみに、議長はどんな案があるの?
田井:お、気になるか?
椋入:ならないけど。
田井:おい。
飯屋:まあ、言い出しっぺの意見は先に聞いておきたいわよね。
気にはならないけど。
田井:おいおい、話す前からその気を削いでいくじゃないか。
俺の案は、「どこから食べるか」を究極的に突き詰めた、といってもいい内容なんだけどな。
矢木:どういう意味?
田井:どこから食べるかは人によっては、いわゆる過激派もいることだろう。
頭からしか食べたくない、他の部位はいらんとか、
尻尾からしか勝たんとか、腹からしか認めんとか。
椋入:聞いたこと無いけど。
庵:そんな人いるの?
田井:可能性の話だ、掘り下げなくていい。
で、そんな人の希望に応える為にはどうしたら良いのかと、
考えに考え抜いた結果、今回の結論に辿り着いた。
矢木:いるかどうかも分からない人の為に、考えに考え抜いたんだ。
田井:まず、たい焼きは2個使う。
飯屋:もうおかしい。
田井:静粛に。
そして、これを半分に分ける。
この分け方は、どこから食べるかによって決める。
例えば、頭からしか食べないという人だったら、頭と尻尾に分けるわけだな。
矢木:うん……
なんか嫌な予感がしてきたけど。
飯屋:心底しょうもない未来図はもうほぼ見えてるけど、
その、半分に切った2つのたい焼きをどうするの?
田井:頭と頭、尻尾と尻尾でくっつけ直す。
椋入:案の定だったね。
庵:合成生物の失敗作みたい。
矢木:たい焼きのキメラ?
庵:たい焼キメラ?
田井:つっこまんぞ?
これで、頭しか無いたい焼きと、尻尾しか無いたい焼きが出来上がるだろ。
それぞれ、「タイタイ」と「ヤキヤキ」と呼ぼうと思ってるんだが。
飯屋:呼ばなくていいわよ。
庵:じゃあ、腹と背中で分けた場合は?
田井:その場合は「イヤイヤ」と「ヤイヤイ」、ないし、その逆だな。
庵:パンダかな?
矢木:過激派の存在自体が疑わしいけど、
そうじゃなくとも最低2つ必要なのは、理に適ってない気がするなあ。
椋入:まさかのド正論パンチ。
飯屋:バカの話を真面目に聞いてると、人生損するわよ。
田井:そこまで言う?
矢木:あ、でも今の過程で、ちょっとひとつ思い付いたんだけどさ。
半分に切ったたい焼きを重ねて、そのまま食べたら、ちょっと食べやすそうじゃない?
庵:あー。
半分に折って食べる人もいるし、まあおかしくはないよね。
椋入:変わってるけど、おかしいとまでは言わないね。
飯屋:議長のと比べたらね。
田井:さりげなく俺を貶す意味あったか?
矢木:名付けて、ハンバーガーならぬ、たい焼きバーガー。
更に略して、「タイヤカー」。
田井:なぜ略した?
庵:走りそう。
椋入:遅そう。
飯屋:あ、そういえば、
……いや、やっぱり何でもないわ。
田井:なんだ飯屋、たまにはすすんで発言してくれてもいいんだぞ。
ただでさえ普段から、息をするように俺を罵倒してるだけなんだから。
飯屋:それはあんたがしょうもない議題しか持ってこないからでしょ。
一応、私もたまに、違う食べ方をする時はあるのよ。
矢木:へえ、意外。
椋入:縦に半分にするんじゃなくて?
飯屋:いや、そこまでは一緒なんだけどね。
田井:むしろそこが一緒なのかよ。
庵:じゃあ、どこから違うの?
飯屋:掬うのよ、あんこを。
田井:掬う。
矢木:掬う?
椋入:また、およそたい焼きの食べ方では聞き慣れない動詞が出てきた。
庵:掬うってどういうこと?
飯屋:まあ、実演した方が早いわね。
こう、たい焼きを縦に、2枚おろしにして分けるでしょ。
田井:包丁どっから出した?
飯屋:この時、あんこは片方に全部残るように切るの。
で、1枚をこうやって、スコップみたいな要領で、もう1枚のあんこを掬って食べるのよ。
庵:わあ、おしゃれー。
田井:お前包丁どっから出した?
矢木:何というか、もはやたい焼きである必要性を問いたくなってくるね。
田井:前回も思ったけど、お前俺をバカに出来るほどまともな食べ方じゃないぞ。
あと包丁どっから出した?
椋入:でも、魚の形だからこそ、あんこは掬いやすいんじゃない?
知らないけど。
飯屋:え、皆やらないの?
庵:やらなーい。
椋入:やらないね。
矢木:むしろここまで出た案は、全部やってる人見たこと無いまである。
田井:既にやってる人がいたら、議題に沿わないから良いんだよ。
で、あと案を出してないのは庵だけど、なんか思い付かないか?
庵:あー、うーんとねぇ……カニ。
矢木:ん?
飯屋:カニって、蟹?
庵:そう、蟹。
蟹味噌の味噌汁ってあるじゃん。
椋入:ん?
田井:うん、よし、もうだいたい分かったぞ、ありがとう。
やめとけ。
ていうか、やめてくれ。
庵:まだ何も言ってないよ。
田井:今の1行でもう、全てが凝縮されてたんだよ。
飯屋:やった事無い筈なのに、何故か凄く鮮明にイメージ出来たわ。
矢木:たい焼きをお湯で溶くって事でしょ、もうそれは、もう……
え、どういう扱いで、何になるんだ?
庵:何って、たい焼きの味噌汁でしょ。
椋入:味噌汁という存在の概念そのものを、真っ向から全否定していくスタイル。
田井:たい焼きの荒汁なんじゃないか、それは。
矢木:取り敢えず、絵面が汚くなる事だけは確かだよね。
飯屋:まあ、あんこをお湯で溶くわけだし、そこだけで見れば、ギリギリおしるこなんじゃない?
田井:おギリこ?
飯屋:は?
田井:なんでもないです。
椋入:いや、ぜんざいじゃないかな?
たい焼きって、だいたいつぶあんでしょ。
飯屋:え、あんこの種類関係あるの?
椋入:ん?
飯屋:え?
矢木:議長、関東派と関西派がいますけど。
今日の議題これにしない?
庵:おしることぜんざいの区別について?
私の所はねえ、
田井:却下だ、今度な。
矢木:やるにはやるんだ。
田井:えー、じゃあひとまず、全員ひとつずつ意見が出たからまとめると、だ。
まず椋入案、なんかすごい力で「丸く圧縮して丸呑みにする」、
通称「たい焼き団子」。
椋入:うん。
田井:矢木案、「半分にして重ねて食べる」、
略称「タイヤカー」。
矢木:うん。
田井:飯屋案、「縦に半分に切って、皮であんこを掬って食べる」、
蔑称「たいや貴族」。
飯屋:うん?
田井:庵案、「お湯で溶いて、おしるこ擬き、ないしぜんざい擬きにする」、
俗称「たい焼きの味噌汁」。
庵:うん。
田井:で、俺の、「2つを半分に分けて、同じ部位同士をくっつけて食べる」、
総称「たい焼キメラ」、……と。
うん。
なんだこれ?
飯屋:こっちが聞きたいわ。
矢木:5人も居るのに、こんなに何の実りも期待出来ない案が羅列されることある?
庵:割と、通常運転だと思う。
椋入:不本意ながら、同意見。
田井:うーん……
じゃあ、これらを全て踏まえた上で、こんなのはどうだ?
飯屋:こんなのって?
(寸劇開始)
田井:タイコさん!
飯屋:っ!
だめ、離して、ヤキオさん!
田井:なぜ!
飯屋:いけないのよ、ヤキオさん!
田井:どうしてだ!
僕は、僕達はこんなにも、愛し合っているというのに!
飯屋:だって!
……だって、私達は……
わたしたち、は。
田井:「僕達は、生き別れた双子の兄妹だから」
……か?
飯屋:!?
どうして、それを……
田井:最初は、そんな気がしていた、という程度だった。
でも、タイコさんとの関わりを重ねて、その境遇、生い立ちを知れば知るほどに、
少しずつ、確信を持ってきていたんだ。
飯屋:……それなら、分かるでしょう。
私達は、結ばれてはいけない!
これは許されてはいけない、禁断の愛なのよ!
田井:どうして。
飯屋:どうしてって、
田井:確かに、僕達には、同じ血が流れているかもしれない。
けれど僕達は、残酷な運命の悪戯のせいで、充分過ぎるほどに、引き離され続けてきたじゃないか。
幸せに生きられる筈だった何十年を、奪われ続けてきたじゃないか。
こうしてもう一度邂逅が叶ったのは、僕達がそんなくだらない運命を、愛の力で、打ち破った証だ。
それなら今からでも、共に生きられる筈だった未来を、取り戻そうとしたっていいだろう!
タイコさん、
いや、……タイコ。
飯屋:ヤキオ……兄さん……
……いい、のかな……
私達、結ばれて、良いのかな……?
同じ血が、流れてるのに……
……兄妹、なのに……!
田井:良いんだ、タイコ。
今更、常識に囚われていても、苦しい思いをするだけなんだから。
僕達はもう、充分に苦しんだ。
僕達は元々、2人で1人だったんだから。
僕達はただ、もう一度、あるべき形へと戻るだけだ。
それが許されざる愛だなんて、誰も、咎める事は出来はしない。
飯屋:………………
田井:だから、……共に、いこう。
タイコ。
飯屋:……はい、ヤキオさん。
矢木:(M)
そして2人は、互いを強く、強く抱き寄せあった。
潰してしまいそうなほどに抱き締めて、
微塵の不安も残さないよう、体を圧縮するほどに、永遠に近い抱擁を交わした。
もう二度と離れてしまわぬように。
もう二度と、離されてしまわぬように。
庵:(M)
一度切り離されたとしても、二度でも、三度でも繋がり直す。
例えそれが、矛盾の上に成り立つモノでも。
例えそれが、歪な心で、許されぬ愛だったとしても。
それを誓い合うかのように、2人は身を重ね合った。
運命を叩き伏せるかのように、神に見せ付けるかのように、
何度も、何度も、何度でも。
椋入:(M)
そしてやがて、何度目とも知れぬまぐわいと、何度目とも分からぬ夜を超えた頃。
身も心も溶け合った2人は、本当の意味で、1つとなる。
悲願、宿願、念願……
そんな言葉程度では到底言い表せない、一生を賭して、望み続けてきた未来。
運命すらも越えて、真実の愛を手に入れた2人は、尽きぬ愛を確かめ合うように、
最期の最後に、永久の口付けを交わすのであった。
(寸劇終了)
田井:はい。
矢木:はい?
庵:え?
椋入:今のはなんの意味が?
飯屋:ていうか今の何?
田井:何って、食べ方の総まとめだろうが。
矢木:は?
椋入:やばい、過去最高級に議長の言ってる意味が分からない。
田井:この壮大な脳内ストーリーを経て、ラストのキスシーンを迎えると同時に、
俺はたい焼きに口付けをするわけだ。
庵:口付け……
飯屋:口付けっていうのは、えーっと……?
なに、つまり頭から食べるってこと?
田井:そう。
矢木:うわー、この人この期に及んで、ここまでの議論を全部無に帰したんですけど。
庵:なんか、全員分の案を、
無理矢理ストーリーの中に捩じ込みたかったんだろうなって雰囲気だけは伝わってきたよ。
椋入:雰囲気で押し切ってただけだけどね。
絶対に壮大ではなかった。
田井:え、割と自信作だったんだけどな。
「タイコとヤキオの、愛の鉄板道」。
矢木:………………
庵:………………
椋入:………………
田井:せめて何か言ってくれないかな?
飯屋:……で、えーと。
ちょっとこの議長に進行させてたら収拾つかなくなりそうだから、ここら辺で一旦結論を出すけど、
結局議長は、紆余曲折を経て、頭から食べるわけね?
田井:うん。
まあ、気分によって変わるけどな。
矢木:それを言ったらみんなそうでしょ。
僕も、気分によっては頭から食べるし。
庵:私尻尾からー。
ただし気分で変わるー。
椋入:僕も尻尾からだね、気分によるけど。
飯屋:私も、気分次第で頭から食べるわ。
田井:なるほどなあ。
じゃあ、次回の議題は、「たい焼きをどこから食べるか」にするか。
矢木:え、また?
庵:もういいよそれはー。
飯屋:ちなみにその議題、次で何回目?
矢木:6回目じゃないかな、確か。
田井:そんなにやってたっけ?
飯屋:これだもの。
矢木:酷い、ただ酷い。
庵:秒で終わるのにね。
椋入:秒で忘れるんだもんなあ。
飯屋:議題だけはちゃんと覚えてるのに、内容を1日でほとんど全部忘れる意味が分からないわ。
ちなみに言っとくけど、今回の議題は、これで3回目よ。
田井:そうだっけか、全然覚えてないわ。
飯屋:議事録でも取っときなさいよ。
田井:でも、そう言うお前らも何だかんだ、律儀に毎回参加してるだろ。
飯屋:みんな暇だからね。
矢木:友達もいないしね。
椋入:それにしたって、限度があると思う。
庵:じゃあ、今回の議論は、これで終わりって事でいい?
田井:そうだな。
ひとまず、ひとつの結論は出たしな。
矢木:え、いつ?
椋入:イメージトレーニングの一言で片付けられる、ここまでの議論の意味……
飯屋:はい、この議題はひとまずおしまい。
取り敢えず、このたい焼きの山をどうにかしましょうか。
矢木:何だかんだ小腹は空いてきたけど、流石にこの量はなあ。
椋入:ちなみに議長、1人当たりのノルマは?
田井:最低10個。
庵:無理無理無理、絶対無理。
飯屋:元凶はそこのバカだけど、持ってきちゃった物は仕方が無いわ。
食べられる分だけでも食べましょう。
矢木:変なとこ律儀だよねえ。
庵:気苦労が多そう。
椋入:だって、議長がこれだもの。
田井:そうそう。
え、どういう意味?
飯屋:はい、じゃあ、いただきます。
田井:いただきます。
矢木:いただきます。
庵:いただきまーす。
椋入:いただきます。
田井:……で、今日は何の話だったっけ?
飯屋:フンッ!!(田井にグーパン)
椋入:フンッ!!(田井にローキック)
矢木:フンッ!!(田井に腹パン)
庵:フンッ!!(田井にハリセン)
田井:なぜ殴った?
飯屋:殴ってないわよ。
椋入:蹴ってないよ。
矢木:叩いてないよ。
庵:ハリセンなんて持ってないよ。
田井:凄いなお前ら。
フンッって全員分聞こえたんだけど。
飯屋:そよ風でしょ。
椋入:春一番だよ。
矢木:台風一過だよ。
庵:ハリセンだよ。
田井:凄いなお前ら。
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