TAIYAKI
(関連作品)
1・TAIYAKI
2・TAIYAKIT
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(役表)
田井(たい)♂:
飯屋(いいや)♀:
矢木(やぎ)♂:
庵(いおり)♀:
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
田井:よし、じゃあ今日も始めるか。
飯屋:これ何回目?
矢木:今回で第63回。
庵:よく議題尽きないよね。
毎日やってるのに。
飯屋:9割方しょうもない議題だからね。
矢木:うん、普通は日常の雑談で終わるレベル。
庵:で、今日の議題は何だったっけ?
田井:「たい焼きをどこから食べるか」だ。
飯屋:これだもの。
矢木:酷い、ただ酷い。
庵:秒で終わるよね。
田井:なんか好き放題言ってくれてるが、とりあえず聞くぞ。
どこから食べる。
俺は頭からだ。
飯屋:半分に割って食べる。
矢木:ストローであんこだけ吸い出す。
庵:あんこよりクリームの方が良い。
田井:待て待て待て待て待て。
飯屋:何よ。
田井:何よじゃないよ、おかしいだろ。
矢木:何が?
みんな食べ方が違うって話でしょ?
田井:そうじゃないし、そうだとしても一人違う奴がいただろ。
庵:誰?
田井:たいていの場合、そう最初に聞く奴がそうだ。
覚えとけ。
飯屋:で、何がおかしいのよ。
真面目に答えたじゃない。
田井:よし、あくまで異端は俺一人だとするつもりだな?
受けて立ってやろうじゃないか。
矢木:そうは言ってないよ。
庵:みんな違ってみんな良い。
それでいいじゃん。
田井:受けて立たせろよ!
え、なに?
なんで今日、皆そんなやる気無いの?
飯屋:議題がくだらなさ過ぎるからよ。
田井:そうは言うがな。
実際、この場にいるたった4人ですら、全員が違う答えを出したんだぞ?
たかがたい焼きの食べ方ひとつで、だ。
それだけでも、議論してみる価値はあると思わないか?
飯屋:別に。
矢木:思わない。
庵:お腹空いた。
田井:よし、聞いた俺が馬鹿だった。
さっさとやって行こうな。
まず、飯屋。
飯屋:はい。
田井:半分にして食べると言ったな。
飯屋:言ったよ。
田井:それは何故だ?
飯屋:そのまま持ってると大きいし、食べにくいから。
最悪、噛み方間違えると、あんこがはみ出したりするじゃない。
矢木:あー、あるある。
庵:クリームだと余計にあるね。
田井:なるほどな。
適当に答えたんじゃなく、ちゃんと理に適った方法だったんだな。
じゃあ、はい、半分に分けました。
その半分に分けた状態から、どっちから食べる?
飯屋:え、どっちって?
田井:え?
頭と尻尾に分けるんだろ?
飯屋:は?
田井:ん?
飯屋:半分って、縦によ?
田井:縦?
腹と背中に分けるって事か?
難しくないか、それ。
飯屋:何言ってんの、表と裏よ。
田井:んん?
矢木:表と、
庵:裏?
飯屋:なに?
田井:えーと、まさかとは思うが、こう……
たい焼きを魚の三枚おろしみたく、二つに分けるってことか?
飯屋:そう。
田井:どうやってとはまあ、あえて聞くまい。
何故そんな事を?
飯屋:なんでって、半分にしたら絶対、量に偏りが生まれるでしょ?
縦に半分にすれば、あんこの量の誤差程度で済むじゃない。
矢木:なるほどー。
庵:頭良いー。
田井:うん……そういう事な。
確かに理には適ってるが、でもそれ、一人で食うんだろ?
飯屋:そうだけど?
田井:偏りとか関係あるか?
飯屋:楽しみもちゃんと、平等に半分になるでしょ。
例えば、先に多めに食べちゃって、残りは少ないとか、そういうの嫌なのよ。
半分にするなら、きっちり半分にしないと。
田井:うん……言い分は極めてまともなんだけどなあ……
じゃあまあ、飯屋は「半分にして食べる」……と。
飯屋:「縦に」ね。
田井:「縦に、半分にして食べる」。
よし、次。
矢木。
矢木:はい。
田井:お前はなんて言ってたっけ。
飯屋:私も流しちゃったけど、凄いこと言ってなかった?
矢木:ストローで、あんこだけ吸い出す。
庵:吸引力の変わらないただひとつの矢木。
田井:チュパカブラの末裔か何かなのかな、こいつは。
飯屋:いや、人間でしょ。
田井:マジレス反対。
さーて、どこからメスを入れていこうかな。
飯屋:矢木君はつぶあん派?
それともこしあん派?
田井:そこ聞く?
飯屋:だって、ストローで吸うってことは、あんこの粘度に左右されるでしょ。
田井:あ、そうか!
ストローであんこを吸うって行為自体はひとまず置いといて、こしあんだったらまだ、
矢木:つぶあん派だよ。
田井:飯屋、どうしよう。
飯屋:私に聞かないでよ。
庵:チュパカブラ矢木、略してチュパラギ。
田井:庵、ちょっと静かに。
矢木:みんなは、タピオカミルクティーって飲んだ事ある?
田井:え、今度は何?
飯屋:まあ、流行りに乗じて、数回は飲んだわね。
庵:一回だけあるけど、あの食感はあんまり好きじゃなかったなあ。
矢木:議長は?
田井:え、いや……無いけど。
矢木:そういう事だよ。
田井:なにが?
飯屋:……あ、もしかして、タピオカ用のストローで吸うってこと?
矢木:そう、そういうこと。
意外と全然違う食感に感じられて、楽しいんだよ。
飯屋:ああ……
田井:なんだろうな、この、現実味があって現実味のない話。
ちなみにだが、吸ったら皮だけになるだろ。
矢木:うん。
田井:それはどうするんだ?
矢木:どうするって、食べるけど?
庵:そりゃそうだよね。
矢木:いやー、たい焼きは好きなんだけど、薄皮の中になにか別の物が入ってるっていうの、
気持ち悪くて好きじゃないんだよね。
田井:よくそれでたい焼き好きになれたな。
飯屋:矢木君、いくらとか嫌いでしょ。
矢木:嫌いだね。
飯屋:やっぱり。
矢木:あ、つぶあん派って言ったけど、こしあんもたまに食べるよ。
その時は、細いストロー使うんだけどね。
田井:あくまでも吸うんだな。
えー、じゃあチュパラギ……じゃない。
矢木は、「中身を吸い出す」……と。
じゃあ次はー、
庵:そこはちゃんと分けてるんだね。
クリームでやった事ある?
矢木:流石にまだそれは無いなあ。
庵:じゃあ今度試してみてよ、私もちょっと気になる。
矢木:良いよ。
じゃあ、今度と言わず今から行く?
庵:あ、それ良いね。
田井:ヘイ、ヘイ。
矢木:じゃ議長、僕からはそんな感じだから、そういう事で。
庵:お疲れ様でしたー。
田井:ヘイ、待て。
何も良くない。
扉を閉めろ、鞄を置け、座れ。
飯屋:見事なまでに流れるように帰ろうとしたわね。
矢木:何さ。
田井:百歩譲って矢木は良い。
だが庵、お前は駄目だ。
庵:なんで?
田井:なんで……
そこで「なんで」と返されるとは思ってなかったな……
お前はなんて答えてたっけ?
庵:あんこよりクリームの方がいい。
田井:今日の議題は?
庵:たい焼きをどこから食べるか。
田井:おう、そこまで分かってた上でそう答えてたのか。
むしろ、議題を把握してなかった方を信じてたくらいなんだが。
庵:それくらいは流石に分かってるよ。
田井:うん、誇らしげにするくらいなら真面目に答えてくれるか?
庵:えー、だってそもそも議題が合わないんだもん。
私、あんこは嫌いとまでは言わないけど、クリームの方が至高だと思ってるから。
田井:うん、あのな?
中身があんこかクリームかなんて関係無く、たい焼きはたい焼きだろ?
中身が何かとか、今はどうでもいいんだよ。
庵:……そうなの?
矢木:あ、本気で分かってない顔だ。
飯屋:あんこ入りのたい焼きに馴染みが無さ過ぎて、
「あんこ入りはたい焼きじゃない」と思ってたまであるわね……
田井:そんな事ある?
庵:そうかも知れない。
田井:……まあ、話が通じたなら良いか。
で、庵は、たい焼きはどこから食べる。
庵:クリームの?
田井:そう、クリームの。
庵:尻尾からかな。
飯屋:話が通じた途端に、すごいまともな回答が出たわね。
矢木:みんなまともだったでしょ。
田井:つっこまんぞ。
ちなみに、何故尻尾からなんだ?
庵:尻尾を上にして食べれば、クリームが面積の広い頭の方に落ちていくでしょ。
で、最後にまとまったクリームを一気に食べるの。
あんこじゃ絶対出来ない至高の食べ方。
飯屋:……ちょっと美味しそうって思っちゃった。
矢木:同じく。
田井:なるほどなぁ。
思いのほか、建設的な意見が出たな。
これは試してみる価値ありかも知れん。
庵は「尻尾から」……と。
じゃ、最後俺からだが、
飯屋:そもそも、たい焼きの食べ方って、何でここまで色々言われるのかしらね。
田井:あれ?
矢木:血液型とかと同じで、話題として少しだけ面白いからじゃない?
田井:もしもし?
庵:食べ方で性格が分かれるとか言うけど、実際気分で毎回変わるって人の方が多いと思うけどね。
田井:おぅい。
飯屋:なによ、さっきからうるさいわね。
田井:いや、何で俺が頭から食べるかって興味無いの?
飯屋:別に。
矢木:無いかな。
庵:全然。
田井:泣いちゃう。
飯屋:だってそもそも、理由あるの?
田井:いや無い、なんとなく。
飯屋:泣いてなさいよ。
田井:辛辣!!
……まあでも、良いか?
たい焼きをどこから食べるのか、っていうのは、結構色んな捉え方があってな。
その中には、なかなか興味深い話もある。
むしろそっちが、今回の議題の本命なんだ。
飯屋:へえ。
甚だ疑わしいけど。
矢木:色んな捉え方って、例えば?
田井:例えば、心理テストだ。
庵:心理テスト?
どこから食べるかで分かる事なんてあるの?
田井:ある。
たい焼きをどこから食べるか、それは、
「人を殺した後、その死体の部位をどこから処分するか」という話になるそうだ。
飯屋:……いきなり物騒になったわね。
頭からはそのまま、頭って事でしょ?
他は?
矢木:頭以外だと、尻尾、腹、背中っていうのが、大体の答えだよね。
庵:尻尾は……足?
田井:そう。
頭はそのまま頭、尻尾は手足。
そして、背中は胴体、腹は内臓だ。
飯屋:バラバラにする事前提なのが、何ともおぞましいんだけど。
それをこのメンバーで聞きたくて、今日の議題をたい焼きにしたって事?
田井:そういう事だな。
一回誰かに相談……じゃなくて、このテスト試してみたくてな。
まあ結果としては、イレギュラーな答えが出揃ったから、まるで参考にならなかったんだけど。
飯屋:確かにね。
そのテストありきだと、参考にはならなさそう。
矢木:庵はまともだったじゃん。
好みの主張が強かっただけで。
田井:他人事みたいに言ってるけど、主におかしかったのお前ら2人だからな?
庵:じゃ、今日の議題はこれで終わり?
田井:ああ、お疲れ。
飯屋:今日も無駄な時間だったわね。
矢木:議長ー、たい焼きの話してたらお腹空いた。
庵:同じく。
田井:そう言うと思ってたさ、この男抜かり無し。
4人分準備したとも!
ありがたく食うがいい!
矢木:おー、流石。
……あれ、たい焼きじゃないけど?
庵:議長、これ違くない?
似て非なる物だよ。
飯屋:なにこれ、大判焼きじゃない。
田井:え、今川焼きだろ?
矢木:回転焼きじゃないの?
庵:御座候だよね。
……あれ?
田井:………………
飯屋:………………
矢木:………………
庵:………………
田井:……明日の議題は、決まったようだな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━