2型サイトカインと呼ばれるIL-4、IL-5、IL-13は、寄生虫感染防御などの2型免疫応答を誘導する一方で、好酸球浸潤を伴う炎症(Type2炎症)を誘導し、アレルギー性疾患などの2型免疫応答を引き起こします。T細胞を中心として考えられてきたアレルギー性疾患ですが、2010年に新規のリンパ球として2型自然リンパ球(ILC2)が見出されたことによりその概念が大きく変わってきました。アレルゲン(Allergen)は、アレルギー(Allergy)を起こす抗原(Antigen)を意味する造語ですが、この言葉通り、アレルギー性疾患は、アレルゲン(抗原)が引き起こす疾患と長い間考えらえてきました。しかし、ILC2は、自然免疫を担うリンパ球であり、T細胞やB細胞とは異なり抗原を認識する受容体を持ちません。そのため、ILC2の活性化は、アレルゲンではなく、IL-33などの様々なサイトカイン、脂質、神経ペプチドなど生体内に内在する生理活性物質によって誘導され、活性化したILC2は、IL-5、IL-13を産生し、アレルギー反応を引き起こします。このように、ILC2はアレルゲンではなく、身体に生じた変化に応答することから、アレルギー病態の形成には、必ずしも抗原が必要ではないことがわかってきました。ILC2の発見は、これまで理解されてこなかった抗原に依存しないアレルギー病態の理解を一気に加速しました。具体的には、皮膚や目を引っ掻くことで病態が悪化するアトピー性皮膚炎やアレルギー性結膜炎、寒気に触れることで発症する蕁麻疹、ストレスによって増悪するアレルギー性疾患などが挙げられます。私たちは、これまでにILC2が、アレルギー性疾患だけでなく様々な2型免疫疾患の病態に関与することを明らかにしてきました(Immunity 2014、Nat. Commun 2023)。そこで、未だ根治を実現できていない多くの2型免疫疾患の病態を克服するため、それらの病態メカニズムを、ILC2を中心に明らかにしようと試みています。
アレルギー体質や太りやすい体質という言葉は、日常的によく使われますが、なぜアレルギーになりやすいのか、なぜ太りやすいのか、その理由はわかっておらず、そもそも体質自体が何を意味するのか分かっていません。このように、体質という言葉は、あいまいな概念であることから、研究の対象となってきませんでした。しかしながら、コホート研究において乳幼児期のアトピー性皮膚炎を発症すると、その後の成長過程での食物アレルギーや花粉症、喘息などの発症率が高くなることが示されています。このように、アレルギー体質というものは確かに存在することから、私たちは、アレルギー体質を科学的に理解することを試みています。これまでに、ILC2が、脂質や神経ペプチドに応答してアレルギー感受性を亢進する可能性がわかってきました。そこで、ILC2を中心に免疫的、分子生物学的、細胞生物学的アプローチによりアレルギー体質形成に寄与する因子を同定し、アレルギー体質の有無を評価できる方法を開発するとともに、体質を標的とすることによりアレルギーの予防法を創出したいと考えています。アレルギー治療は、いかに症状を抑えるかに着目した治療法の開発が行われているのが現状ですが、将来、アレルギー予防を実現し、アレルギー性疾患を‘治療する疾患’から‘予防できる疾患’にパラダイムシフトを起こしたいと考えています。
メタボリックシンドロームなどの代謝疾患、肺線維症、癌などの様々な免疫疾患は、突如として発症するわけではなく、予兆となる症状、さらには、それよりも前の未病期に生体内で変化が起こり、その変化が徐々に積み重なることで症状として現れ、発症します。この発症前に起こる変化を‘未病状態’といいますが、これまで、未病状態は、症状として表に現れてこないことから研究の対象とならず、どのような変化が起こっているのか理解されていません。多くの疾患研究は、症状が出てくる理由を理解しようと試み、症状を抑えるための治療標的を見つけ出し、創薬へとつなげることを目指しています。発症した疾患をいかに治療するかという点は、非常に重要な点でありますが、そもそも発症する前に予防することが出来れば、治療も必要なくなると考えました。私たちは、無謀とも思える‘疾患の予防’を可能にする研究に挑戦しています。様々な疾患を自然発症するモデルマウスを樹立し、免疫学的手法に加え、シングルセル解析、メタボローム解析などのオミックス解析を用いることで、未病状態から疾患へと遷移する過程で起こる変化を捉え、未病状態の包括的な理解を目指します。