「どんなかたちのタンパク質が、どんな動きをするのか?」
生命現象を担っている「部品」であるタンパク質は固有の「かたち」をもっています。この「かたち」が共にはたらく分子を決めて、タンパク質に固有の機能が決まります。この構造と機能の関係の理解に時間軸を加えたタンパク質のダイナミックな「動き」を理解することで、タンパク質が作り出す生命現象の理解を深めることができると考えています。そのための手法として分子動力学計算(MD: Molecular Dynamics Simulation)を活用しています。MDは「コンピューターの顕微鏡」と呼ばれており、タンパク質の動きを原子レベルで理解することができます。
「どのように計算をすればよいのか?」
分子動力学計算をはじめとしたシミュレーションには膨大な計算が必要となります。調べたい現象と計算にかかるコストの兼ね合いから、現実的な時間では解明に至らない問題も多数あります。そこで、スーパーコンピューターのようなパワフルな計算機の力を借りますが、スーパーコンピューターが持つ能力を最大限活用するための様々な工夫を行っています。また、「より簡単に使えて低コストでそれらしい答えを出す」というコンセプトのもと、既存の手法と比べて効率の良い計算手法の開発にも取り組んでいます。
#効率化 #シミュレーション #計算コスト #スーパーコンピューター
Rikuri Morita*, Yasuteru Shigeta, Ryuhei Harada*. Efficient Screening of Protein-Ligand Complexes in Lipid Bilayers Using LoCoMock Score. (2023) J. Comput. Aided Mol. Des., 37, 217-225 DOI: 10.1007/s10822-023-00502-8 ウェブリリース
Rikuri Morita*, Yasuteru Shigeta, Ryuhei Harada*. (2021) A post-process to estimate an approximated minimal free energy path based on local centroids. Chem. Phys. Lett. 782, 139003 DOI:10.1016/j.cplett.2021.139003
「どんな仕組みで点変異は疾患を引き起こすのか?」
タンパク質を構成するアミノ酸が、異なる種類のアミノ酸に置き換わってしまう点突然変異は疾患の原因となることがあります。点突然変異がタンパク質の機能を破綻させるメカニズムは様々です。例えば、酵素反応に必要なアミノ酸残基の性質が変わってしまうと酵素の活性が大きく減ってしまいます。あるいは、他のタン パク質と結合する部位に変異が生じると機能を持った複合体が作れなくなってしまいます。実際に疾患の原因として見つかった変異についてのシミュレーションや実験を行うことで、どのような問題が生じているのかを明らかにすることができ、治療に向けた創薬の指針につながることが期待されます。
#病原性点突然変異 #遺伝性疾患 #タンパク質複合体 #酵素
Rikuri Morita*, Kentaro Nakano, Yasuteru Shigeta, Ryuhei Harada*. (2020) Molecular Mechanism for the Actin-Binding Domain of Alpha-Actinin Ain1 Elucidated by Molecular Dynamics Simulations and Mutagenesis Experiments. J. Phys. Chem. B, 124(39), 8495–8503 PMID: 32892625 DOI: 10.1021/acs.jpcb.0c04623
「いつ、どこで、どんなアクチンが必要とされるのか?」
細胞のかたちや運動を生み出す細胞骨格に着目した研究を行っています。例えばアクチン細胞骨格は単量体のG-アクチンが無数に重合して繊維状のF-アクチンを形成します。このF-アクチンを足場に多様なアクチン結合タンパク質が結合してアクチンの性質を適材適所に変えます。このアクチン結合タンパク質の時空間的な制御メカニズムを明らかにするために、分裂酵母を用いて機能を調べています。特に、細胞分裂において、多数のアクチン繊維を束ねあげるアクチン束化タンパク質に着目しています。
#細胞骨格 #アクチン #アクチン結合タンパク質 #分裂酵母 #細胞分裂
Rikuri Morita, Masak Takaine, Osamu Numata, and Kentaro Nakano*. (2017) Molecular dissection of the actin-binding ability of the fission yeast α-actinin, Ain1, in vitro and in vivo. J. Biochem. 162(2), 93-102 PMID: 28338873 DOI: 10.1093/jb/mvx008
「翻訳後修飾はタンパク質の機能をどのように変えるか?」
あるタンパク質が作り出された後、その活性を制御する仕組みとして翻訳後修飾があります。例えばリン酸化されたアミノ酸側鎖は電荷が大きく変化しタンパク質の構造に影響を与えます。実験により翻訳後修飾の有無で酵素活性などが変化することを確認できますが、そのメカニズムは不明な場合がしばしばあります。そこでMDを使って翻訳後修飾がどのような相互作用で構造に影響を与えるのかを調べています。
#翻訳後修飾 #リン酸化
Sho Ashida†, Rikuri Morita†, Yasuteru Shigeta, Ryuhei Harada*. Phosphorylation in the accessory domain of yeast histone chaperone protein 1 exposes the nuclear export signal sequence. Proteins 90(2), 317-3121 DOI: 10.1002/prot.26240
Rikuri Morita, Osamu Numata, and Kentaro Nakano, Masak Takaine*. (2020) Cell cycle-dependent phosphorylation of IQGAP is involved in assembly and stability of the contractile ring in fission yeast. BBRC. 534, 1026-1032 PMlD: 33131769 DOI: 10.1016/j.bbrc.2020.10.043
さまざまな生物学の問題を解き明かすため、主に実験により研究を進める研究者と協力して取り組んでいます。例えば、実験により発見された抗感染症薬がどのような仕組みで作用するのかをシミュレーションで明らかにしたり、実験で仮説が提唱された酵素反応のメカニズムを原子レベルで確かめたりしています。また、実験と比べてタイムスパンの短いシミュレーションを活用して実施すべき実験を提案することで効率よく実験を行うことができます。
Yuya Nishida, Sachiko Yanagisawa†, Rikuri Morita† et al. (2022) Identifying antibiotics based on structural differences in the conserved allostery from mitochondrial heme-copper oxidases. Nat. Commun. 13, 7591 DOI:10.1038/s41467-022-34771-y プレスリリース
Raja Norazireen Raja Ahmad, Long-Teng Zhang†, Rikuri Morita†, Haruna Tani, Yong Wu, Takeshi Chujo, Akiko Ogawa, Ryuhei Harada, Yasuteru Shigeta, Kazuhito Tomizawa, Fan-Yan Wei*. (2023) Pathological mutations promote proteolysis of mitochondrial tRNA specific 2-thiouridylase 1 (MTU1) via mitochondrial caseinolytic peptidase (CLPP). Nucleic Acids Res. in press DOI: 10.1093/nar/gkad1197 プレスリリース