当研究室では、
・皆さんが使ってくれる反応・試薬・触媒を開発したい。
・医薬品のシードを見つけたい。
と考えて研究を行っています。具体的には以下の通りです。
1. α,β-不飽和カルボニル化合物のワンポット合成法の開発
四塩化チタンを縮合剤に用いるアルドール縮合反応(α,β-不飽和カルボニル化合物のワンポット合成法)を開発しました(下図、ref. 1)。これにより、古典的な手法では行えなかったアルドール縮合が可能になりました。
例えば、二つの単純ケトン間での反応では、様々なβ,β-二置換α,β-不飽和ケトンをワンポットで合成することができます(ref. 2, 3)。この方法で合成したar-アトラントンやその類縁体にはドパミン神経に対する保護作用があることが分かりました(ref. 4、姫路獨協大学薬学部・関 貴弘 先生との共同研究です)。
また、チオエステルと種々の共役不飽和アルデヒドとの反応では、ポリエン天然物の合成原料として利用可能なポリエニルチオエステルを合成できます(ref. 5)。
さらに、セレノエステルとアルデヒドとの反応では、様々な不飽和セレノエステルを合成でき、これらのセレノエステルが複数のウイルス(HIV-1、SARS-CoV-2、Hepatitis B Virus)に対して、抗ウイルス活性を示すことを見出しました(ref. 6、熊本大学医学部・天野 将之 先生との共同研究です)。
References: (1) 有機合成化学協会誌 2024, 82, 570–580. (2) J. Org. Chem. 2015, 80, 8830–8835. (3) Organic Chemistry Portalで紹介されました. (4) Cells 2021, 10, 1090. (5) Tetrahedron Lett. 2020, 61, 152280. (6) ACS Omega 2023, 8, 1369–1374.
2. ルイス塩基触媒によるトリクロロシランの活性化
ルイス塩基触媒によるトリクロロシランの活性化に基づき、様々な新反応を開発することができました(下図)。例えば、上述のワンポット合成法で合成したβ,β-二置換α,β-不飽和ケトンに、キラルなルイス塩基触媒とトリクロロシランを作用させると不斉共役還元が進行して、高いエナンチオ選択性でβ-キラルケトンを合成することができます(ref. 1, 2)。この手法をar-アトラントンの反応に適用すると、ウコンの精油成分から得られる光学活性セスキテルペンであるar-ターメロンを効率的に得ることができました。本反応の遷移状態は計算化学(DFT計算)を用いて考察しました。
References: (1) J. Org. Chem. 2019, 84, 11458–11473. (2) Organic Chemistry Portalで紹介されました.
3. 酒石酸誘導体によるホウ素試薬の活性化
O-モノアシル酒石酸(MAT触媒)がボロン酸やジボロンのα,β-不飽和ケトンへの不斉共役付加反応を触媒することを見出しました(下図、ref. 1)。また、ウレア誘導体を共触媒として添加すると、触媒量の低減化が可能であることが分かり、速度論研究によってその作用機構を究明しました(ref. 2)。
References: (1) 有機合成化学協会誌, 2018, 76, 596–603. (2) Org. Lett. 2020, 22, 3780–3784.
4. ジオール類のモノアシル化反応
上述のO-モノアシル酒石酸(MAT触媒)の効率的な合成を目指して、2-ピリジルエステルの金属触媒による活性化に基づくアシル化反応を検討しました(下図)。その結果、ジオール類の選択的なモノアシル化反応が可能であり、メソ酒石酸ジエステルの不斉非対称化において、初めて高いエナンチオ選択性を得ることにも成功しました(ref. 1)。
References: (1) J. Org. Chem. 2019, 84, 9313–9321.
5. 医薬品シーズの探索
当研究室で開発した反応によって合成した化合物には、ドパミン神経の保護作用(ref. 1-3、姫路獨協大学薬学部・関 貴弘 先生との共同研究)や抗ウイルス活性(ref. 4、熊本大学医学部・天野 将之 先生との共同研究)が見出されています。これらの知見を基に、作用機序の解明や合成展開による活性増強を目指しています。
References: (1) Cells 2021, 10, 1090. (2) プレスリリース. (3) Front. Cell Dev. Biol. 2024, 12, 1418296. (4) ACS Omega 2023, 8, 1369–1374.