水嶋研究室は、医学生に対して人体の正常構造に関する座学を多数提供しているほか、「骨学実習」「脳実習」「解剖学実習」という三つのマクロ系実習を運営しています。以下、とくに本学のマクロ系実習の内容を、分野外の皆さんに向けて簡単に紹介します。医学部の解剖学教育を託された立場として、このやり方で本当に大丈夫だろうか、知識と経験を身に付けてくれるだろうかと、常に自問自答しながら教育しています。私の教育上の基本コンセプトは「伝わらなければ意味がない」です。
骨学実習:教育用の人骨標本を使って、骨学の基礎を学びます。医学生は、骨の名称(和名、英名)はもとより、主要部位、関節様式、神経や血管の通路、筋付着部などについて、広範に習得せねばなりません。本学では医学部1年生に向けて配当し、5~6月に全5回で実施しています。私が責任者となったのを契機として、座学用のレジュメを完全に刷新し(著作権の都合上お見せできませんが)、さらに観察漏れを防止するためにチェックリスト方式を導入しました。くわえて、毎回の実習の後半に特定の骨を指定し、そのスケッチを提出してもらっています。医学部の骨学実習といえば、知識と観察力を確認するために、しばしば「口頭試問」が行われます。口頭試問では、眼前にある人骨標本について、教員が個々の学生に口頭で(アドリブで)質問し、その回答内容の的確さを評価します。この伝統的スタイルは緊張感があり、個人的にわりと好きなのですが、教員により質問内容にむらがあったり難易度がまちまちになったりするので、水嶋研究室では不採用としました。その代わりに、「実地試問」と銘打って、事前に用意された30点の標本+問題文を学生一人ひとりが解いてまわるという、いわゆるフラッグ関門形式を導入しています。
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脳実習:実物のヒト脳標本をもとに、そのマクロ構造の基礎を学びます。本学では医学部1年生に向けて配当し、7月に全4回で実施しています。骨学実習と同様に、座学用のレジュメをすべて刷新、チェックリスト方式を採用、さらに口頭試問の代わりにフラッグ関門形式を導入しました。本実習では、大脳のしわ(溝)や膨らみ(回)、代表的な機能局在とその位置、脳血管、大脳基底核、脳室、髄膜など、肉眼で観察可能なものを網羅的に同定し、さらに実習後半にスケッチを作成してもらっています。脳の観察は医学生にとってなかなか難しいようで、脳溝一つとっても同定するのに手こずり、時間がかかってしまいます。スケッチというと、なんだか子供っぽい感じがするかもしれませんが、目に入ってくる情報から特徴を抽出するトレーニングにおいて、スケッチほど有用なものはないと個人的に考えています。なお、骨学実習もそうですが、いま観察している「標本」はヒトに由来するものであるから、しかるべき敬意をもって丁重に取り扱うべきという点も、必ず指導しています。
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解剖学実習:ご献体(ご遺体)の解剖を通じて、全身にわたる人体の正常構造を徹底的に学びます。医学教育上のハイライトの一つと呼ばれる解剖学実習は、本学では医学部2年生に向けて配当され、9月下旬から12月末にかけて全35回で実施しています。医学生は事前に配布されたレジュメをもとにして約1時間から1時間半の座学を受け、当日行うべき解剖内容を十分把握したのち解剖学実習室に移動、ご献体に黙祷して約3時間の解剖を行います。われわれはポートフォリオを配布しており、その中に記された観察対象を剖出すべく、医学生も教員もひたむきに努力し続けます。かつては実習途中で複数回の口頭試問を行ってきましたが、現在では各班の剖出状況に差が生じることを考慮し、スクリーンに映し出される解剖所見を読解し解答する方式(解剖所見試問)を実施しています。なお、本学ではご献体お一人につき医学生4名が解剖させていただいています。実習終了後、学生全員で実習室を徹底清掃し、ご献体を安置するにふさわしい清浄な環境を整えたのち、班ごとに黙祷してその1日を終えます。われわれは、解剖学実習室において「ご遺体は師」であり、「最良、最上の教師はご遺体」であると考え、常に謙虚にご献体から学ぶように医学生に指導しています。
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上記の実習についてチェックリスト/ポートフォリオを公開しています。先生方のご感想やご意見を頂戴できましたら幸いです。