配属を希望される学生さんへ

福井謙一先生(京都大学工学部、1981年ノーベル化学賞受賞)は、喜多源逸先生(京都大学工学部、日本における工業化学の創始者の1人)に「君は応用化学に入ったんだから、基礎をやりたまえ」「応用をやるなら、基礎をやれ」と言われたそうです。のちに、福井先生は当時を振り返り、これらの言葉は「学問をやるには、どこに結びつくか分からないような基礎的な分野を、こまめに着実に培養しておくことが大切であるという意味」と解釈していると述べています。

当研究室では、喜多先生や福井先生の言葉にもあるように、基礎の裏付けがあってこそ独自の応用が拓けるという信念のもと、基礎を大切にした研究をしていきたいと考えています。また、そのような研究を生み出す環境として、学生さん一人一人が自分で考え研究できる研究室であること、とりわけ「好奇心に突き動かされた研究(curiosity-driven research)」を自由に実践できる雰囲気を大切にしていきたいと考えています。当研究室の研究分野である有機合成化学および有機金属化学は、ほんの一握りの天才にしか理解できない難解な分野ではなく、むしろ誰もが簡単に足を踏み入れられる分野です。自分の研究を進める中であれこれと「類比思考(analogical thinking)」を行い、「やり抜く力(GRIT: Guts, Resilience, Initiative, Tenacity)」を以て諦めずに研究に取り組めば、きっと驚くような新発見に辿り着けると考えています。

何かを始めることはやさしいが、それを継続することは難しい。成功させることはなお難しい。

津田梅子

百計も尽きたときに、苦悩の果てが一計を生む。人生、いつの場合も同じである。

吉川英治

もちろん、社会人となり研究者として過ごす期間やフィールドを考えると、大学での研究は、ほんの短い時間で、ほんの狭い範囲のものです。それゆえ研究室で勉強した知識なんて何の役にも立たないだろう、なんて思う方もいるかも知れません。しかし、サイエンスの真理へ迫るアプローチや、データの論理的な取り扱いなど、研究室で育まれた普遍的な「研究のやり方・考え方」は、皆さんの人生にとって間違いなく糧となると考えています。

To see a World in a Grain of Sand一粒の砂にも世界を

And a Heaven in a Wild Flower一輪の野の花にも天国を見、

Hold Infinity in the palm of your hand君の掌のうちに無限を)

And Eternity in an hour一時(ひととき)のうちに永遠を握る)

「Auguries of Innocence(無垢の予兆) 」William Blake

岩波文庫版 松下正一訳

当然のことですが、研究室での主役は学生さん一人一人です。学生さんがいなくては、研究は始まりません。当研究室の研究や考え方に、少しでも興味を持った学生さんは、ぜひ当研究室の扉を叩いて下さい。どなたでもお待ちしています。

参考文献: 福井謙一「応用をやるなら、基礎をやれ」日本原子力学会誌 1993 年 35 巻 6 号 pp. 475-481

当研究室の歴史

1994 高井和彦先生京都大学工学部材料化学教室から准教授として赴任し、精密応用化学 科精密有機変換工学「有機金属反応化学」講座を担当される。

岡大工化会会報第3号1996年2月29日より

1998 高井先生が教授に昇任される。

2000年 物質応用化学科への改組により、「有機金属化学」講座に統合される。なおこの年は 岡山大学工学部創立40周年にあたる。

2011 物質応用化学科と生物機能工学科が統合して化学生命系学科が誕生する。

2020 高井先生が定年退職され教授(特任)となり講座を引き続き担当される。

2021年 三浦智也先生が京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻から本講座に赴任し、 第2代教授となる。