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結核患者を54人見つけるために、1人のがん患者を作っている !?
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/05/s0517-5e.html
労働安全衛生法66条で規定する健康診断で
胸部レントゲン検査を実施する目的とその有用性
帝京大学医学部
衛生学公衆衛生学
教授 矢野栄二
3.胸部レントゲン検査実施の利益と不利益
本委員会の役割は労働安全衛生法66条で規定された一般定期健康診断における胸部レントゲン検査のあり方を考えることである。ここでは胸部レントゲン検査を実施することの有用性判断の前提として、比較的定量的な情報があるものについて整理を行った。すなわち検査の利益として、定期健診による結核発見率、検査の不利益として放射線によるがん死亡を算出した。
まず、利益としては平成11年地域保健事業報告によると、職域の定期健診での結核発見率は0.007%、10万人あたりにすると7人である。これに対して胸部レントゲン間接撮影(120kV、3.2mAs、120cm)では、被曝線量が中心は0.26mGy、表面は0.82mGyとなる。国際放射線防護委員会(ICRP)1990勧告の「低線量、低線量率放射線被曝に伴うがん死亡の生涯リスク」は1Gyの被曝で10万人あたり500人ががんになるという数値を報告している。これを胸部レントゲン間接撮影による中心被曝の値に当てはめると、10万人あたり0.13人となる。すなわち現行の職域健康診断では、結核患者を54人見つけるために、1人のがん患者を作っていることになる。
4.5.6.略
6.今後の職域健康診断における胸部レントゲン検査
以上のように労働安全衛生法が規定する健康診断の目的と条件から考えて、結核以外の疾患をその対象疾患とすることは適切ではない。結核以外の疾患が健診で偶発的に発見されることはもちろんあるが、そのために全労働者のエックス線被曝を事業主の負担で強制するだけの利益が得られない事は、上に述べたとおりである。これに対し結核は慢性の経過をたどり、職域で感染が拡大する可能性があり、さらに健診で発見すれば有効な治療法があるため、健診を行うことの利益が高い疾患であった。しかし、今日結核の罹患率が下がり、わが国の結核の健診での発見率は既に諸外国がレントゲン撮影の広範な実施によるスクリーニング検査を中止したレベルをはるかに下回っている。そこで、結核に対する健診もその実施方法の見直しが必要となった。そのためすでに結核予防法の改正が行われ、一般住民に対する健診について、その対象や方法が大きく変わった。この改正にあたっての基本的な考え方は全員一律の健診を廃し、結核罹患率の高い高齢者などハイリスク群と、感染を拡大させる可能性の高い教師や介護施設職員などデンジャー群を集中的に検査するという考え方である。受診者や費用負担者の選択を認めず罰則を伴って義務化された労働安全衛生法による健診においては、より一層こうした合理化が必要で、同様の合理的判断に基づく具体的実施策が早急に定められるべきであろう。