神経細胞同士の繋がりによって生まれる脳の活動。その仕組みを正確に解明するには、「どのように脳に刺激を加えれば、隠れた動きを明らかにできるのか」が重要な鍵となります。
本研究では、脳の仕組みを数理モデルとして表すために、最適な刺激の与え方を理論的に導き出す新しい手法を探求しています。刺激を通じて通常の測定では消失してしまう脳の動き(ダイナミクス)を引き出し、より正確にモデル化することができます。
さらに、この刺激の最適設計法は、脳科学でよく使われるTMS(経頭蓋磁気刺激)、tACS(経頭蓋交流電気刺激)、tDCS(経頭蓋直流電気刺激)にも深く関わりがあり、実際の脳研究や制御理論への応用も期待されます。
Mikito Ogino, Daiki Sekizawa, Jun Kitazono, Masafumi Oizumi, Designing optimal perturbation inputs for system identification in neuroscience, bioRxiv 2025.03.02.641008; doi: https://doi.org/10.1101/2025.03.02.641008
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.03.02.641008v1
Mikito Ogino, Jun Kitazono, Masafumi Oizumi, Control theory enhances understanding of brain responses to stimulation: Analysis of tES-EEG in sleepy state, The 27th annual meeting of the Association for the Scientific Study of Consciousness, July 5, 2024
脳波を読み取り、意思を伝える──そんな技術が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の希望となりつつあります。ALSは、運動機能が徐々に失われ、やがて言葉や身体の動きによって意思をまったく表現できなくなる「閉じ込め状態」に至る難病です。
本研究では、脳波(EEG)に基づいて使用者の意図を推定するブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の開発を行っています。3種類の刺激音を異なる方向から提示し、使用者がそのうちの1つに注意を向けることで、脳波から注目している音を推定します。その結果をコマンドに変換することで、20秒に1回、最大85%の精度で意思を伝達することが可能です。聴覚刺激は、閉じ込め状態に至った後でも利用できる手法であるため、ALS患者にとって特に有効なアプローチといえます。
このBMIは、単なる技術開発にとどまらず、ALS患者が再び自身の意思を表現できる手段として、社会的な意義を持っています。現在は、医療や福祉の現場だけでなく、一般社団法人WITH ALSと共に、舞台芸術やパフォーマンスイベントといった創造的な分野にも応用しており、コミュニケーションの新たな可能性を切り拓いています。
ALS啓発音楽フェス「MOVE FES.2024」にて、脳波で操作するドローンや、脳波でコントロールするロボットアーム演出など、最先端 のテクノロジーを融合した世界初の身体拡張ライブに挑戦しました。
株式会社TSI ホールディングスと株式会社オリィ研究所の吉藤オリィ氏が開発を進めている「服型アームロボット MOVE WEAR」を脳波で動かす実験を「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」にて 行いました。
脳波による身体拡張パフォーマンスが「ちょっと先のおもしろい未来 - CHANGE TOMORROW」2023年9月17日-18日 東京ポートシティ竹芝オフィスタワーにて披露されました。
脳波×分身ロボットのテクノロジーの力を掛け合わせて、ALS患者が脳波で分身ロボットを操作して接客する「01 BRAIN ROBOT STORE」が1日限定で開店しました。
ALS患者であるEYE VDJ MASA(武藤将胤)が視線入力で作曲した楽曲に対し、本人の脳波の波形をグラフィックと音楽に変換したMusic Video。Tobias Hutzler × EYE VDJ MASAの様々なアイデアが込められている。
脳波とAIによってラップの歌詞をリアルタイムに生成し、ALS患者の思いをラッパーが歌い上げるパフォーマンスがALS啓発音楽フェス「MOVE FES.2019〜NO LIMIT, YOUR LIFE.〜」@新木場STUDIO COASTにて披露されました。
Mikito Ogino, Nozomu Hamada, Yasue Mitsukura, Simultaneous multiple-stimulus auditory brain-computer interface with semi-supervised learning and prior probability distribution tuning., Journal of neural engineering 19(6) 2022.
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1741-2552/ac9edd/meta
Mikito Ogino, Suguru Kanoga, Shin-Ichi Ito, Yasue Mitsukura, Semi-Supervised Learning for Auditory Event-Related Potential-Based Brain-Computer Interface., IEEE Access 9 47008-47023 2021.
https://ieeexplore.ieee.org/document/9381874
Mikito Ogino, Suguru Kanoga, Masatane Muto, Yasue Mitsukura, Analysis of Prefrontal Single-Channel EEG Data for Portable Auditory ERP-Based Brain-Computer Interfaces. Frontiers in human neuroscience 13 1-14 2019
https://www.frontiersin.org/journals/human-neuroscience/articles/10.3389/fnhum.2019.00250/full
Giulia Barbareschi, Songchen Zhou, Ando Ryoichi, Midori Kawaguchi, Mark Armstrong, Mikito Ogino, Shunsuke Aoiki, Eisaku Ohta, Harunobu Taguchi, Youichi Kamiyama, Masatane Muto, Kentaro Yoshifuji, Kouta Minamizawa, Brain Body Jockey project: Transcending Bodily Limitations in Live Performance via Human Augmentation, The 26th International ACM SIGACCESS Conference on Computers and Accessibility, October 28th - 30th, 2024
Mikito Ogino, Evaluating the Feasibility of Affordable Auditory BCIs for Communication in ALS Patients, 13th IEEE Global Conference on Consumer Electronics(GCCE), 852-853, 2024
本研究では、脳波(EEG)や心拍、皮膚電位などの生体信号を通じて人間の感情・注意・意識状態を定量的に解析し、それらを社会・産業・文化の多様な領域に応用することを目指しています。特に、人間が自覚する以前の「無意識的な反応」や「感情の揺らぎ」を可視化することで、従来のアンケートや行動観察だけでは捉えきれなかった人間体験の質的側面を明らかにします。
こうした生体信号を用いた感性理解技術は、製品開発や広告評価、サービスデザインなどの分野において、ユーザの「感じ方」を科学的に捉える新たな評価手法として期待されています。また、エンターテインメント領域では、脳波をトリガーとしたインタラクティブなコンテンツ体験の創出にもつながります。
たとえば、開発したウェアラブルデバイスである 「neurocam」(脳波状態によって自動撮影が行われるウェアラブルカメラ)や 「mico」(脳波で音楽を選曲するヘッドフォン)は、脳波をインターフェースとして感性とテクノロジーを結びつける試みの先駆けといえます。本研究ではそれらを一例としつつ、より汎用的で社会的価値の高い応用モデルの構築を目指しています。
さらに、生体信号データを社会学的調査データ(インタビュー、行動観察、文化的文脈分析など)と統合することで、人間の情動・判断・社会行動を多層的に理解するアプローチも推進します。これにより、個人の内面と社会的行動を結びつける新しい「ニューロ社会科学」的視座の創出を目指しています。
応用領域としては、
ニューロマーケティング/プロダクトデザイン評価
エンターテインメント・メディア体験設計
HRTech・FinTech などの次世代UX研究
ウェルビーイング支援・メンタルヘルスモニタリング
などが挙げられ、産学連携による共同研究を通じてこれらの分野への社会実装を進めます。
額に装着した脳波センサーとスマートフォンアプリによって、ユーザーの脳波状態に合った音楽を自動選曲・再生するヘッドフォン型システム。SXSW2013にて初展示。
脳波センサーを装着して「興味」「好意」といった感性値を定量化し、“気になる瞬間”を自動的に撮影・記録するウェアラブルカメラシステム。
脳波から「Valence(快/不快)」と「Arousal(覚醒/静)」という2軸の数値を推定し、感情変化を二次元マップ上で可視化するシステム。
荻野幹人, 満倉靖恵, 中辻晴彦, 齊藤 裕晃, 大西 佳成, 青木 恵, 簡易型脳波計を用いた眠気評価による香りの選定, AROMA RESEARCH 19(4) 2018年
荻野幹人, 満倉靖恵, 中辻晴彦, 青木恵, "香り・においを脳波で測る", AROMA RESEARCH, 73, 28-29, 2018年
Mikito Ogino, Yasue Mitsukura, An EEG-based robot arm control to express human emotions. IEEE 15th International Workshop on Advanced Motion Control(AMC) 322-327 2018.
Mikito Ogino, Yasue Mitsukura, Portable Drowsiness Detection through Use of a Prefrontal Single-Channel Electroencephalogram. Sensors 18(12) 4477-4477 2018