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令和6年1月20日
令和6年度 三重県精神保健福祉士協会大会 12月大会・実践報告会活動報告
令和6年度 三重県精神保健福祉士協会大会 12月大会を開催しました
令和6年12月1日(日)に三重県立子ども心身発達医療センター講堂にて、令和6年度三重県精神保健福祉士協会大会を開催しました。
午前の部は、三重県医療保健部健康推進課長 丸山 明美 氏による講義「精神保健福祉法の改正と三重県の取り組みについて~精神保健福祉士の皆さんへの期待~」で幕を開けました。
改正精神保健福祉法では、精神障害者の権利擁護を主軸に大きな変更があり、医療保護入院の見直しや入院者訪問支援事業の創設、精神科病院における虐待防止に向けた取り組みなどが進められていることの説明がありました。法改正により病院精神保健福祉士の事務負担が増したとの声もありますが、精神障害のある人もない人も、誰もが安心して暮らせる地域社会づくりを目指した法改正であることを再確認することができました。
続いて行われたシンポジウムでは、丸山 明美 氏に加え、松阪厚生病院の 辻 陽平 氏(病院の立場)、障がい者総合相談支援センターそういん 江浪 怜志 氏(地域援助者の立場)にご登壇いただき、コーディネーターの三重県精神保健福祉士協会相談役 下方 宏明 氏による進行で、活発な議論を展開しました。
病院からは、出来るだけ早期に住み慣れた地域での生活に戻れるよう地域援助者との連携に取り組んでいるものの、退院支援委員会に地域援助者に出席してもらうことの依頼のし辛さがあること、障害福祉サービス等に繋がっていない入院患者と地域援助者を繋げることの難しさ等の報告がありました。これに対して地域援助者の立場からは、依頼内容が漠然としていたとしても入院患者の退院支援を一緒に考えるところから依頼してもらえると関わりやすい、入院患者にとって地域援助者の支援を受けるメリットが伝われば繋がりやすいのではないかと、連携をより一歩進めるための具体的な提案もありました。病院と地域援助者それぞれがお互いの出来ること出来ないこと知り、理解しあうことで、退院支援に向けた協働が出来ていくということを共有できたのではないかと思います。
精神障害者の生活を支える地域づくりも重要であり、保健所による市町の精神保健活動のバックアップや心のサポーター養成事業等を始めとした啓発活動(行政)に加え、退院患者を支援するネットワークづくり(病院)や、地域住民を対象とした精神障害理解を促進するイベントの実施(地域援助事業者)などの報告がありました。私たち精神保健福祉士は病院、地域援助事業者、行政等さまざまな機関等と協働し、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築していくこと、誰もが住み慣れた地域で暮らせる共生社会をつくっていく役割があることを改めて学ぶ機会となりました。
①「PSWとしてのAI活用」 就労移行支援事業所フェーズワン 山田 遼 氏
②「精神療養病棟での精神保健福祉士の関わり」 医療法人安仁会水沢病院 山口 陽平 氏
③「認知症患者への支援」 JA三重厚生連鈴鹿厚生病院 植松 万稀 氏
④「基幹障がい者相談支援センターと地域障がい者相談支援センターの役割」
⑤「南部ブロックの実習実態と指導実践の報告」 南勢病院 中村 綾 氏
午前の部に引き続いて、午後の部の実践報告会では、今後精神保健福祉士としてスキルアップを目指すなかで、価値や意識を言語化することの大切さを学ぶとともに、自身の『実践』を振り返る機会にもなりました。シンポジウムでも言及されたように、病院、地域と隔てるのではなく同じ精神保健福祉士としていかに当事者があたり前の生活を送ることの出来るよう共通の志を持ち、お互いを知り協働出来るかを意識し、今後も退院支援、普及啓発等に邁進していきたいと思います。
令和6年度三重県精神保健福祉士協会・日本精神保健福祉士協会三重県支部 定期総会、記念講演を開催しました。
和6年6月2日(日)に総会、記念講演を開催しました。
困難事例、中でも複合的多問題を内包している事例に対応するためには、支援にあたっている一つの機関だけでは対応が難しく、結果として困難事例となり問題の解決に至らず塩漬けのまま未解決状態が放置されている現状が散見される。
また、法律や制度の対象外になっていて、どこの機関が責任を持って対応すべきが決まらず、放置されている事例も同様である。
これらに対応するために、社会福祉法改正により令和3年度から重層的支援体制整備事業がスタートし、断らない相談支援を行うこととなった。その中心に位置付けられたのが多機関協働事業であり、中でも複合多問題事例を紐解き、問題・題課題を明確化しその課題の根拠に基づいた役割分担を決め支援プランを作成するのが重層的支援会と呼ばれるものである。
一方で、従前からも、多機関による事例検討は実施してきているので何がどう違うのかという意見もあるため、その違いを整理すると以下のようになる。
① 重層的支援会議は、多機関が協働することが目的なのではなく、協働しながら課題の解決をすることこそが目的となっている。
具体的には、今までの事例検討会でもいろいろな機関が集まり事例検討を行ってきているが、その事例に関して中立な立場で問題を分析し対応すべき課題と支援機関の役割を明確にしたうえで支援プランを立て実行するという対応ができていなかった。また、事例の進捗管理をすべき部署が明確化されていなかった。
② 多機関協働事業においては中核機関という機関を設定し、重層的支援会議のコーディネート機能を明確化した。
事例の抱えている問題や課題を根拠に基づきアセスメントし、多機関の役割分担を明確にするためには、中立な立場で事例をアセスメントできるコーディネーターの配置が必須となり、このことにより多機関協働を実効性のあるものにできる。
③ 多機関・多職種の専門性の違いにより、アセスメントの幅が生まれ事例における問題・課題の見立てや具体的方法のアイデアの幅ができ、事例対応の困難性が減少し、塩漬け事例が動き出すようになった。
④ アウトリーチ事業や参加支援事業と協働することにより、その後の継続的支援につながり、より自立支援へとつながる。
課題が明確化された後には、重層的支援体制整備事業で新たに設置されたアウトリーチ事業や参加支援事業につなぐことによあり、従前の支援では不充分であった本人のニーズに合った個別の支援プランにつなぐことができ、合わせてその受け皿となる社会資源の開発にもつながる。
全方位型アセスメントで事例検討を進めるためには進行者(コーディネーター)必須となるが、コーディネーターの役割は二つある。一つ目はファシリテート機能、二つ目はスーパーバイズ機能である。
全方位型アセスメントの特徴としては、従前の事例検討会のように事例検討会そのものを目的としていないこと。あくまで、本人やその環境の抱えている問題課題を解決することが目的となっている。そのために多機関、多職種が協働し役割分担を行いながら連携して支援を行える環境を作り出すことにある。
そのために、各機関や専門職が合意形成を図れるような意見を出し合える環境や合意形成を図れるような会議をファシリテートできるような技術が必要となる。
一方で、多機関、多職種を集めて事例検討を行う際には、専門性の違いや制度理解の温度差から、時として本来あるべき方向制から逸脱してしまうような場合もある。具体的には、参加者が虐待が発生している事実を見落としているような場合等は、そのことに気づくように誘導したり、本人の精神疾患の見立てがずれているような場合は、専門職種からの意見を引き出し修正したりする等のスーパーバイズ的な対応も必要となる。単なるファシリテーターとしてだけではなく、スーパーバイザーとしての機能も求められることになる。
ファシリテーターとスーパーバイザーの視点以外には、ジェネラルな視点も求められる、
多機関、多職種が協議する場になるため、参加者の専門領域や分野を見立てながら、アセスメントの際の意見を出してもらうことが必要となるため、最低限その機関や専門職の得意分野やできることを把握しておく必要がある。
例えば、精神疾患の治療につなぐのであれば精神科のSWや保健所。児童虐待であれば児相。ヤングケアラー問題であればスクールソーシャルワーカー、ひきこもりであればアウトリーチ事業等々把握された問題課題に対応できそうな機関をイメージし、重層的支援会議に呼び込むことが必要となる。
そのうえで、具体的な支援方法や対応はそれらの人たちにアイデアを出してもらい、合意形成をとりながらプラン作成をしていくことになる。コーディネーターだけですべての分野の知識を持つことは到底不可能なので、ジェネラルな知識を活用し、スペシャルな知識は参加者から引き出すのがコーディネーターのスキルといえる。
コーディネーターの役割を整理すると以下のようになる
そのためには、事例の情報を共有し人物像を明確にする。
問題点(改善が必要な状況)を明確にして合意形成を図る
問題とは、改善が必要な状況という点を意識して進行する。
問題点の抽出の段階で、参加者が課題や具体的方法を発言し始めた場合は、現時点では問題点を抽出していることを伝え、課題や具体的方法は③④のセッションで発言するように促す。
全方位型アセスメントにおいて進行者は、支援計画シートの左(問題)から右(具体的方法・役割分担)に進むように心がける。
問題の合意形成とは、参加者の専門性や立ち位置によって問題点の捉え方は異なってくる。問題点の捉え方にずれがあると感じた場合は、進行者が問題点の合意形成を図る。同意形成ができていないと、その後の課題や役割分担に支障が出てくることになるのでここは重要な部分になる。
問題の原因、要因が類似している問題を束ねて、問題の構造を見極める。
全方位型アセスメントではここが重要な部分であり、難しく感じる部分である。
進行者が一人で問題を束ねるのではなく、問題として発言した参加者にその問題が起きている原因、要因は何かを質問してみる。その発言を基に参加者皆で問題の背景を推測していく。一つの問題の背景が特定できれば、それに類似する問題を抽出して束ねていく。
この過程はいわゆるKJ法と同様なので、可能であれば付箋等を使用し問題を仕分け、それぞれの島にタイトルを付ける要領でる意思している背景を特定することができる。
要因とは「物事を発生させることになった主要な原因」という意味をつ。良い結果をもたらす場合にも使用する。要因は複数ある場合にも使うことができる。
原因とは「ある物事や状態、変化を引き起こすもとにあること」という意味。原因は基本的に事件や事故など悪いことが起こったときに使われる言葉。原因は一般的に1つの場合が多い。
④ 課題解決のための具体的方法を検討する(アイデアだし)
各機関や専門職から課題解決のためのアイデアを引き出し、合意形成を図る。
アイデアの視点は、専門性の違う参加者からそれぞれの視点で意見を引き出すことによりフォーマル・インフォーマルな支援が導き出せる。その際、必要な支援であるが地域に存在しない資源や制度があれば、それが地域の問題点となり、それらをどのように作り出すかが地域課題となる。
それぞれの課題の内容に対応するため、それにふさわしい機関を定め合意形成をとる。
問題の構造化ができていれば、そこから抽出された課題にどの機関や専門職がかかわるべきかということはおのずと明確になってくる。例えば、高齢者であっても問題行動の原因が精神疾患の未治療状態にあり、通院治療が課題であるとすれば、高齢分野支援機関がかかわるより精神分野の支援機関が治療につなぐ役割を担うことになる。また、栄養管理に課題があれば、保健師や栄養士が役割を担うことになる。
このように問題の構造化と、そこからの課題が明確であれば役割分担を決める際にも合意形成を取りやすい。
⑥ 期間を定めモニタリングを行い、終結まで進捗管理を行う。
具体的方法とやくわり分担が決定したら、次回のモニタリング時期を設定する。
時期に関しては、事例の内容や対応の時間を考慮しケースごとに決定する。
時間がかかりそうな場合は、事例が動いた時点でモニタリング会議を招集することも可能である。いずれにしても役割分担が遂行されていることを確認するためにもモニタリングは必須となる。招集に関しては重層事業であれば中核機関が責任を持って実施する。
⑦ 重層的支援会議の目的が達成されて時点で、集結をする。
支援終結の考え方としては、本人の課題が整理され、支援の見通しがつき、支援関係機関の役割について合意形成を図ることができた時点で、中核機関による関わりは一旦終了。
ただし、支援終結後に本人の状況や環境に変化が生じた場合や、再度課題の解きほぐしや関係機関の整理が必要となった場合には速やかに支援を再開する。
したがって、支援の終結後も必要に応じて支援機関と情報共有等ができる体制を整備することが重要。
言語化とは、自分の思考を整理すること。言語化できないということは自分も相手も理解できないということになる。時に多機関・多職種による事例検討を行う場合には、共通言語も異なるので自らの思考を言語化しショートセンテンスで明確に伝え他者感覚とのずれを認識する訓練が必要。特に福祉関係者は物語として長文で語る傾向があるため特に留意する必要がある。言語化し理解することにより、あとからその記憶を思い出せることになる。また、言語化することにより感覚の再現となり実行に移すことができるようになるため、言語化の訓練はソーシャルワーカーにとっては必須となる。