現在,高齢者人口は年々増加傾向しており,それに伴って認知症の予防や改善が重大な課題となっています.特に,近年では独居高齢者の徘徊や高齢者が高齢者を介護する「老老介護」,さらには認知症高齢者が認知症高齢者を介護する「認認介護」といった言葉までメディアで紹介されるような状況であり,認知症高齢者の増加は今後の日本にとって大きな問題となるでしょう.
これらの課題を対処する手法として現在,アニマルセラピーやアートセラピーを始めとした様々な取り組みが進められています.一方,多くの介護福祉施設では施設利用者の認知症の進行度を評価するため,「長谷川式簡易知能スケール」や「ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination: MMSE)」といった評価法が主に用いられます.しかしながら,チェックテストを行うには(1)被験者がテストを受けていると意識することにより正確な評価が得られない,(2)継続的なテストの実施のためには実施者の負担が大きいといった問題点も指摘されています.
このような背景から,本研究室では,介護施設利用者の日常の動作から認知症のタイプや進行度を定量評価するシステムについて研究を進めてきました.これまでに本研究室では,タブレット装置を使って描かれた時計の絵や単純な図形組や筆圧,ストローク情報を用いて認知症の有無や進行度,認知症のタイプなどを判別するシステムを開発してきました.また,パーキンソン病による認知症を患うと認知機能だけでなく情動機能も低下することに着目し,モーションセンサを用いてレクリエーション時のユーザの動きを計測し,認知症高齢者の表情の変化を数値化するようなシステムに関する研究開発も行ってきました.現在は,運動機能の中でも認知機能とより高い関連性のある手指の巧緻性に着目し,車いすの方や足腰が悪い人が座ったままでも行るような,また高齢者の方がテストと過度に意識せずに行えるようなレクリエーション性の高いシステムの開発を進めています.
本研究プロジェクトは,イギリスのCardiff University(カーディフ大学)と三重大学,さらには県内の介護福祉施設との国際共同研究プロジェクトとなっています.また現在は,施設職員と協働しながら,介護福祉施設にて毎日行われれいるレクリエーションのコンテンツ開発にも取り組んでいます.