近年,光学的干渉断層計(Optical Coherence Tomography: OCT)の開発により,従来の眼科光学検査機器では不可能とされた生体下における網膜の断層を非接触,非侵襲的に画像化することが可能になりつつあります.眼の病気の中には緑内障,加齢黄斑変性 ,糖尿病網膜症,網膜血管閉塞,網膜色素変性など失明原因になる数多くの難病や,黄斑前膜や黄斑円孔などの早期手術が必要な病気があります.これらの病気は,眼底(眼の奥の網膜,その中でも黄斑部・視神経乳頭の部分)で発症します.従来の検眼的所見では,病的状態を捉えることは困難でしたが,OCTを用いることにより,非接触かつ非侵襲的に眼底の2次元断層像を得ることができるようになりました.そのため,現在ではOCTを用いた網膜疾患の診断が急速に普及しつつあります.
先に述べたように,網膜疾患は患者に重篤な視覚障害を生じるケースも多く,患者は予後について大きく不安を感じることも少なくありません.そのため,眼科専門医はOCTによって撮影された網膜断層像や眼底画像,臨床経験や専門的な知識に基づいて患者の病状と予後(今後病気がどのように進行あるいは改善するか)を評価するとともに,適切な治療方針を決定する必要があります.しかしながら,眼科専門医による予後予測は医師の主観や専門性,臨床経験などに大きく依存します.そのため,客観性に欠けるという問題があります.このような背景から現在では,コンピュータを用いた客観的かつ定量的な診断支援システムに関する研究が盛んに進められています.
本研究では,撮影されたOCT画像から各疾患の特徴を数値として取り出し,統計的解析や機械学習といった技術を駆使することにより,治療によって視力がどの程度改善するのかを定量的に予測するシステムについて研究開発を進めています.これらから予測された結果を用いて,診断の質や信頼性の向上を図ります.
現在は,三重大学医学部附属病院の眼科学教室と共同で予測アルゴリズム開発に取り組んでいます.