[1] 北岡 旦 (日本電気株式会社)
混合整数線形計画における 目的関数の重みを決定する高速な逆最適化アルゴリズム
キーワード: 数理最適化,逆最適化,組合せ最適化
本研究は,混合整数計画において解が与えられたとき,その解が最適解になるような目的関数の重みを決定する問題に焦点を当てる.従来の方法では,この問題を高次元で解く際に計算効率の悪さが課題となっていた.本発表では,suboptimality損失に対する更新幅を(反復回数)^(-1/2)とする射影劣勾配法を適応することを提案する.この手法によって,この問題を高次元でも有限回の反復で,効率的に解けることを理論的側面と実験的側面から解説する.
[2] 渡邊 陸 (北海道大学)
楕円体上の神経場方程式に現れるスポット解の挙動
キーワード: 神経場理論, 積分微分方程式, 曲面上のパターン形成
脳は神経場における興奮パターンのダイナミクスを通じて情報を処理する.従来,神経場の挙動は主に神経細胞間の相互作用に依存すると考えられてきたが,近年では脳の形状がダイナミクスに与える影響にも注目が集まっている.例えば,脳を曲面とみたときのガウス曲率の勾配により興奮パターンが動くことが数値計算により確認されている.このような興奮パターンの変化は,神経細胞間の相互作用と脳の形状によるものと考えられているが,それぞれがどのような役割をしているかは理論的にわかっていない.本研究では,興奮パターンの時空間的変化を解析する数理モデルである神経場方程式を楕円体上で考え,楕円体が球面に近いときのスポット解の動きについて解析を行った.これにより,神経細胞間の相互作用と脳の形状に依存したダイナミクスの特徴づけを目指している.本研究は石井宙志氏(北大・電子研)との共同研究である.
[3] 加藤 晃代 (名古屋大学)
翻訳されやすいタンパク質の設計技術開発
キーワード: 翻訳, タンパク質, ペプチド
当研究グループでは, タンパク質を構成するアミノ酸配列により翻訳が効率化される現象に着目し, 異種タンパク質の生産性を向上させる技術を開発している. これまでに, 翻訳を促進させるペプチドの探索・評価を行い, 複数のペプチドを見出してきた. また, それらのデータを親データとし翻訳促進ペプチドの予測技術を開発してきた. 現在, 翻訳促進ペプチドのデータベース化や翻訳効率の数値化技術開発を検討している. 本技術のバイオモノづくりへの実装プログラム開発や翻訳促進機構のシミュレーション・解明に向けて, 数学的との連携を図りたい.
[4] 佐藤 健吾 (東京科学大学)
バイオものづくりのためのmRNA深層生成モデル
キーワード: バイオものづくり, mRNA配列設計, 深層生成モデル
GteXバイオものづくり領域微生物チームにおいて我々のグループが取り組んでいる研究課題を紹介する. 本研究課題では, 生物配列情報の膨大な公開データで配列深層生成モデルの事前学習を行い, 配列深層生成モデルと配列性能予測モデルのサイクルによって最適なmRNA配列の候補を設計する手法の開発を目指す. さらに, DBTLサイクルにおいて配列合成・機能値測定によって得られた課題との関連性がより深い少量のデータで配列深層生成モデルの追加学習, ファインチューニングを行う枠組みを導入し, DBTLサイクルのボトルネックを解消し, 合成・測定の実験量を削減することを目指す.
[5] 荒木 亮 (東京理科大学)
乱流中の情報輸送の物理機構と情報を保存する乱流モデル
キーワード: 乱流, 情報理論, 乱流モデル
乱流は身のまわりにありふれた現象でありながら,その完全な理解はほど遠い「古典力学に残された最後の難問」である.今回は,発表者が近年取り組んできた「情報」をキーワードにした乱流の研究をいくつか報告する.
1. 流体分子の熱ゆらぎの寄与を明示的に考慮することで導出した情報熱力学第二法則と整合的な乱流中の情報の流れ (Tanogami & Araki, Phys. Rev. Research (2024))
2. 乱流中のエネルギの輸送 (エネルギカスケード) に寄与する異なる物理機構にともなう情報の輸送 (Araki et al., J. Phys. Conference Series (2024))
3. 乱流中の隣接するスケールでの情報の保存に基づいたサブグリッドスケールモデル
また,次年度以降に取り組みたいいくつかの問題についても議論したい.
[6] 西村 祐貴 (東京大学)
大規模ゲノムデータから遺伝子機能に迫るバイオインフォマティクス技術の開発
キーワード: 大規模ゲノム解析, 系統プロファイリング, 頻出パターンマイニング
近年, 次世代シーケンス技術の発展により, 地球上の様々な環境から微生物ゲノムデータが大量に取得されている. その一方で, それらが持つ約半数の遺伝子の機能を予測することができず, 環境微生物の生理・生態の理解や, 産業利用への妨げとなっている. そのため, 多数のゲノムにおける遺伝子の在不在パターンからその機能を予測する, 系統プロファイリングと呼ばれる手法が近年注目を集めている. 系統プロファイリングを行う際に注意しなければならないのは, 微生物ゲノム同士は進化を通じて類縁関係にあるため, 独立サンプルとして扱うことができないことである. そこで我々は, 祖先状態を考慮する新たな系統プロファイリングの手法を考案し, それが従来の方法よりも性能面で優れていることを示した. 発表では提案手法の概要を紹介した後, その応用的な活用や, 数学的な観点からの効率化・高速化の可能性について議論したい.
[7] 戸谷 吉博 (大阪大学)
微生物による有用物質生産を高効率化するための代謝システムの設計・評価技術
キーワード: 代謝経路, 物質生産, 化学量論
革新的GX技術創出事業 (GteX) バイオものづくり領域微生物中核チームにおいて, ギ酸やメタノールなどのC1化合物を高速に資化し, 有用物質に変換するための大腸菌ベーシックセルの開発を実施している. 本発表では, ギ酸資化能を付与した大腸菌ベーシックセルについて紹介する. また, 原料から目的物質への変換効率を向上するには, 代謝経路の合理的な改変が必要不可欠である. 代謝経路の化学量論モデルを利用した経路設計技術, 実測データに基づいて現実の細胞内の代謝経路における物質の流れを可視化する技術を紹介する.
[8] 鎌田 航毅 (東京大学)
系統樹推定の精度予測のための機械学習フレームワークの構築
キーワード: 機械学習, 分子系統解析
系統樹推定は進化生物学のみならず多岐に渡る分野で不可欠な技術である. それにも関わらず, 系統樹自体を評価する標準的手法は未だ確立されていない. 本研究では, 多重配列アライメント (MSA) の特徴量に基づいて, 真の系統樹と推定系統樹の差分である「系統樹精度」を予測する機械学習フレームワークを提案した. 本手法は, R2>0.85 と高い精度での系統樹精度予測が可能であり, また進化の過程で発生する挿入・欠失変異率の変動や, 系統樹規模の拡張に対して頑健であった. 用いた特徴量の寄与度に注目すると, ギャップの割合や配列長・配列数, 情報量といった特徴量が大きく寄与することが示された. 本提案は, 系統樹の直接的な精度評価の方法を提示するものであり, また本手法を適用することで低精度の系統樹推定を実行前に回避することが可能になる. さらに, 本手法は, 既存の系統樹の信頼性を評価する新たな指標にもなると考えている.
[9] 蓮井 太朗 (九州大学 IMI)
仮想通貨XRPの取引データに対する異常検知および位相的データ解析
キーワード: 暗号資産,Persistent Homology,Betti number
近年,仮想通貨取引の増加とともに,その値動きの暴騰暴落の検知の需要も高まっている.我々もこのようなバブルの検出を目標とし,仮想通貨XRP (リップル) の2017年10月2日から同年12月26日までの221週のトランザクション (取引記録) を解析した.この解析で必要になるのは,通貨がどこからどこにどのくらい移動したかの,取引の「かたち」である.この「かたち」を数学的に表現するため,トランザクションを元にXRPの送信元,送信先を頂点とし,週間取引量の合計を辺の重みとした有向グラフを221週分作成した.バブル期間の解析で重要な点は,221個の有向グラフの隣接行列のべき乗のトレース,パーシステント図およびベッチナンバー等である.そこで本講演では上記のような「221週分の有向グラフの時系列データ」の位相的データ解析の結果とそこから導かれるバブルの性質について述べる.本講演は白井朋之氏 (九大IMI) との共同研究による.
[10] GINDER, Elliott (明治大学)
Minimizing movements and the surface-constrained level set method
キーワード: Surface PDE, minimizing movements, level set
The level set method is an important tool in the sciences, used extensively for modeling, mathematical analysis, and visualization. We will demonstrate how minimizing movements can be extended to treat surface partial differential equations, enabling us to investigate previously unexplored interfacial motions. In particular, we will highlight how our framework can be applied to approximate surface-constrained curvature flows in both multiphase and volume-preserving settings.
[11] 末松 信彦 (明治大学)
周期光照射下におけるミドリムシの光合成効率
キーワード: 光合成, 微生物, 数理モデル
ミドリムシはべん毛を使って遊泳する単細胞微生物である. この微生物は光受容器を持ち, 走光性を示す. そのため, ミドリムシの培養液に下から光照射すると上向きの遊泳が誘起されるが, 微生物の比重は水よりも重いために沈降する. その結果, 生物対流と呼ばれる対流パターンが形成される. ここで, 対流下における個々の微生物の光環境に着目すると, 光源に近づいたり離れたりを繰り返すため, 光強度が周期的に振動するような環境に置かれていると考えられる. このようなダイナミックな環境が微生物の生体反応に与える影響を明らかにすることを目的として, 周期的に強度が変化する光環境下におけるミドリムシの光合成効率を調べた. 光合成のスケルトンモデルを用いた数値計算結果から, 光合成効率は定常的な環境下に置いても減衰振動することが示唆されていることから, 周期外力への同期も期待された. ところが, 実験の結果, 光合成効率は光強度の振動周期に依存せず, 一定であることが示された. このメカニズムはまだ明らかにできていないが, 生物のロバストネスを示す結果となった.
[12] 宇田 新介 (山口大学)
次世代バイオものづくりを駆動する高度オミクス計測・解析基盤の開発
キーワード: バイオものづくり,オミクス,データ解析
微生物などによるバイオものづくりのためには, 狙った表現型を達成するために必要な分子基盤の発見とその理解が重要となる. 微生物の表現型は遺伝子型・培養環境によって変化するが, その組み合わせを実験的に全て検証するのは困難であることから, これを支援する予測モデルの確立が不可欠となる. そのためには, 遺伝的摂動や環境変化による細胞の表現型の定量化や各オミクス階層に跨る分子情報の計測を行い, それらの関係性から代謝ネットワークの挙動を推定できるフレームワークの構築が求められる. 本研究では, 大腸菌などの微生物をモデルとして様々な培養条件下で取得したマルチオミクスデータから遺伝子型と環境条件から得られる微生物表現型を予測するモデルを構築し, 実際の有用物質生産系へと展開する. そのために, I. 表現型解析に基づく標的選抜・自動培養システム, II. ハイスループットマルチオミクス計測技術, III. 代謝マップ拡張のための未知代謝物の戦略的同定法, IV. 多階層における相互作用ネットワークの解析手法の開発を行い技術を統合することで, 「次世代バイオものづくりを駆動する高度オミクス計測・解析基盤の創成」を目指す.