[1] 東條 広一 (理化学研究所)
表現論を用いた指数型分布族の構成法
キーワード: 指数型分布族,表現論,等質空間
指数型分布族は情報幾何や統計,機械学習の分野において,重要な役割を果たしている.定義上無数の指数型分布族があるが,広く使われている分布族はその一部に過ぎない.我々は,これら"よい"分布族のみを系統的に扱う枠組みを与えたい.これらの多くは標本空間が等質空間であり,その上の分布全体の集合に定まる自然な作用に関して不変である.そこで,このことに注目して表現論を用いて等質空間上の指数型分布族を構成する手法を提案した.この手法により,正規分布族や,ガンマ分布族,フォンミーゼス分布族などの多くの有用な分布族を系統的に構成できる.本発表では,その手法とその性質について述べる.
本発表は吉野太郎氏との共同研究に基づく.
[2] 内海 晋弥 (北海道大学)
9コンパートメントモデルによるグルコース・インスリン代謝の解析
キーワード: 数理モデル, パラメータ推定, 糖尿病
ムーンショット目標2においては,超早期に疾患の予測・予防をすることを目標としている.糖尿病は慢性的な疾患であり,気づかないうちに病状が進行し,多数の深刻な併発疾患を引き起こす.我々は,糖尿病の発症を数理の立場から理解するために,ヒトやマウスのグルコース・インスリン・Cペプチドのデータを数理モデルを用いて解析を行っている.数理モデルはこれら3つの物質の9臓器ネットワークにおける濃度変化を記述する常微分方程式系である.モデル内には,各臓器の働きに対応するパラメータがあり,これらは実データを用いるフィッティングにより推定する.得られたパラメータを用いると,9臓器における代謝をシミュレートでき,各臓器における3物質の取り込み量などを計算できる.本ポスターでは,これらの代謝量などを用いて,糖尿病の超早期段階を判断する指標を探索する取り組みを紹介する.
[3] 富安 亮子 (九州大学)
黄金角の方法の一般化・高次元化
キーワード: 点群生成, orthogonal curvilinear coordinate, 生物の形態モデリング
植物の形態モデリングのために開発された黄金角の方法を一般曲面(e.g., class C^\infty)および対角化可能計量を持つリーマン多様体に一般化したので概要を紹介する.パッキング密度は,曲面で \pi/ 2 \sqrt{5} \approx 0.702, 3次元多様体で\sqrt{3} \pi / 14 \approx 0.389 程度の下限を持ち,生成された点群から得られるメッシュは等面積性と呼ばれる性質を持つ.等面積性のための制約条件を外せば,等角写像を用いる方法と同様にメッシュの大きさを変更することも可能である.結果として本問題が,未解決なものも含む整数論・微分幾何・偏微分方程式の様々な数学の問題に関わることが明らかになったが,得られた手法は点群・メッシュ生成,生物形態,物質材料のモデリングに応用がある.2020年はSENTAN-Qのため九大のGraiff Zurita氏が本研究に参加した.
[4] 星 健夫 (核融合科学研究所)
核融合科学および周辺分野における数理連携
キーワード: 核融合科学,データ駆動科学,高速計算技術
近年カーボンニュートラル達成などの観点から,核融合が大きく脚光をあびている.核融合科学は総合工学であり,プラズマ科学・物質科学など,多くの分野にまたがっている.一方,核融合科学研究所では現在,他分野との融合を目指して,学際展開している.特に,核融合科学のゲームチェンジャーとして, データ駆動科学や高速計算技術など,数理連携への期待が大きい.本発表では,総論を述べたうえで,6つの研究を紹介する.これらは,以下の共同研究などに基づいている:2024年度核融合科学研究所共同研究「数理科学・プラズマ科学・物質科学の共通研究拠点形成」,代表:曽我部知広(名古屋大),所内世話人:星健夫(核融合研);同「量子プロセスシミュレーション・データ駆動駆動科学ソフトウェアに対する次世代計算機むけ高速化技術 」,代表:工藤周平(電通大),所内世話人:星健夫(核融合研)
[5] 吉脇 理雄 (大阪公立大学)
ジグザグパーシステントホモロジーの導来圏に対する代数的安定性定理
キーワード: パーシステントホモロジー、導来圏、ノイズ安定性
パーシステントホモロジーは位相的データ解析の主要な道具のうちの一つで、マルチスケールにデータの形(位相的な特徴)を捉えることが可能な手法である。その出力をパーシステンス図といい、位相的な特徴の発生と消滅を2次元にプロットした物である。パーシステントホモロジーは通常のホモロジーと違って、ノイズ安定性を持つが知られている。すなわち、パーシステントホモロジーの変化に対してパーシステンス図の振る舞いは頑強である。これに対して、導来圏を用いたアプローチを行った。
[6] 今野 良彦 (大阪公立大学)
ノイズありの観測から低ランク行列回復手法の紹介
キーワード: 統計的推測, SURE 法, 罰則化
(信号)+(ノイズ) を観測する状況を考える. 行列タイプの観測から行列タイプの信号を回復する問題である. ここで, 観測行列は確率 $1$ でフルランクであるが, 信号行列は低ランク(具体的にランクがいくつかであるかは観測者には未知)であるような状況に出会うことがある. 典型的な例として, MR(magnetic resonance)画像があげられる. 信号行列のランクが既知であれば, 観測行列の特異値をランクにしたがって打ち切ればよい. しかし, 信号行列のランクが未知である場合には, このやり方を使えない. 本ポスター発表では, ノイズが独立な標準正規分布に従う仮定のもとで, 信号行列に対する低ランク推定量(観測から信号の回復方法)を adaptive に構成する手法(観測行列の情報のみで構成するやり方)のアイディアを紹介する. これは, Candes et al.(2013) によるもので, 罰則化法と SURE 法を巧みに用いて adaptive な手法を構成している. さらに, ノイズ行列の行ベクトルが分散共分散行列が未知の多変量正規分布に独立同一に従う場合に Candes (2013) のアイディアを援用した adaptive な信号行列の回復手法の紹介も行う.
[7] 中村 直俊 (名古屋大学)
スパースな時空間医学データからの数理モデル発見
キーワード: 時空間データ、データ駆動、数理モデル駆動
細胞・組織を舞台とする生命科学・医学においては多数のデータが蓄積されつつあるが、時間・空間の両方にまたがるダイナミックな現象を見渡して解析する方法論は不足している。特に、この分野では倫理上やコストの問題から多時点・多地点の測定が困難であり、スパースな時空間データは解析をチャレンジングなものにしている。本研究では、データ駆動的に支配方程式をデータから見出す近年の研究を生命科学・医学に適用し、スパースな時空間データから現象論的な数理モデルを発見して、予測や説明、介入に活かす方法論の確立を目指す。これにより、応用数学者が現象に応じた数理モデルを作成し解釈するプロセスを促進し、数理モデル化のサイクルを早めることに貢献する。
[8] 伊師 英之 (大阪公立大学)
実対称行列の新しい数理
キーワード: 実対称行列,グラフィカルモデル,ベイズ統計
少ないサンプルから多数のパラメータを推定するという問題は応用上重要であり,古くから統計学の中心的なテーマであった.とくに多次元ガウス分布にしたがうデータの共分散行列の推定において,共分散行列の逆行列に線型な条件を課すという設定の諸問題は,純粋数学としても豊かな内容をもち,現在も発展している.古典的な問題として,対称行列の特定の成分をゼロと設定する(データの条件付き独立性を指定していることに対応する)ガウシアングラフィカルモデルが古くから研究されているが,近年は特定の成分が等しいという設定を加えた問題の研究が進展しており,トーリック幾何学や幾何学的不変式論などとの関連が指摘されている.本発表では,こういった問題への独自のアプローチと,その成果について報告する.