[1] 井元 佑介 (京都大学)
ビッグデータのランドスケープ解析: 生命科学から気象学まで
キーワード: グラフホッジ分解, シングルセル遺伝子発現データ, アンサンブル気象予測データ
近年, マルチオミクス解析による幹細胞分化予測や, データ同化を用いた地球規模気象予測のように, ビッグデータを用いて複雑現象を予測・制御する研究が幅広い分野で試みられている. しかし, そのようなビッグデータ (高次元データ) から本質的な力学的構造を抽出するためには, 目的の本質的構造を数理的に記述し, それらを無駄なくかつ高速に抽出するデータ解析手法の設計・開発が必須である. そこで本研究では, グラフホッジ分解に基づいて, 高次元データから本質的なダイナミクスを抽出し, その変革点 (分岐点) を検出する手法を提案する. さらに, 提案手法を生命科学 (シングルセル遺伝子発現データ) および気象学 (アンサンブル気象予測データ) に応用した例を紹介する. 生命科学への応用研究については前原一満氏 (九州大学), 気象学への応用研究については小槻峻司氏, Pascal Oettli氏 (千葉大学) との共同研究である.
[2] 中江 健 (自然科学研究機構)
マーモセットのデジタルツイン構築に向けて
キーワード: デジタルツイン, 生成AI, 3Dモデル
本研究は, マーモセットの自由行動下における視覚, 触覚, 運動データの大規模取得と, それらのデータに基づく生成AIの構築によって, デジタルツインマーモセットの開発を目指すものです. 複数のカメラで捉えた自然な行動データから, 3Dモデリングと視覚・触覚の再現を行い, 生成AIを学習させることで, デジタル空間上で自発的に行動するデジタルツインマーモセットを構築を目指します. このポスターでは, そのためにこれまでCT Scanから作製した動く3Dのマーモセットモデルが実際の動画と同期して動くことを示し, 視覚再現が可能であることを示します.
[3] 川端 政則 (東京医科歯科大学)
脳の内部状態を定量化する新規行動課題の確立
キーワード: システム神経科学, スパイク統計, 行動モデリング
脳は, 感覚器からの入力によって外部環境を認識し, 生存率を最大化するための行動選択を身体から出力するシステムである. ただし機械とは異なり, 気分・集中度・体調などの内部状態が時事刻々と変化しているため, 物理的に全く同じ刺激を与えても毎回異なる反応が返ってくる. 神経科学者は, 意思決定や価値判断, 感覚・運動変換などの認知機能の神経メカニズムに興味があるが, 計測した神経活動には必ず内部状態の影響が反映されているため, 何らかの手段でその影響を除外しなければ精度の良い計測は行えない. そこで本研究では, 頭部固定下のラットと胴体保定下のマーモセットに対して, 脳の内部状態を定量化しうる行動課題を提案する. これらの行動課題における行動データや神経活動データの解析について現時点での結果を提示し, 数学分野の方々からのアドバイスをいただきたいと考えている.
[4] 藤 博之 (神戸大学)
ファットグラフに基づく鎖状高分子のトポロジカルな分類
キーワード: トポロジー,タンパク質・RNA,ファットグラフ
ファットグラフ(リボングラフ)は,各頂点に巡回順序の構造を付与したグラフです.このグラフは,トポロジーの研究においてはリーマン面のタイヒミュラー空間の構造解析に用いられ,数理物理学の研究においては行列模型のファインマングラフとして相関関数の摂動解析に登場します.さらにこうしたファットグラフによる表現を基に,位相的漸化式や量子重力理論などをはじめとして,数学と物理学の間に数多くの学際研究が生み出されてきました.一方,ファットグラフの応用として,RNAや蛋白質の2次構造と擬ノット構造のトポロジカルな特徴づけと分類に関する研究が15年ほど前に脚光を浴びました.J.E.Andersen氏やR.C.Penner氏らとのこれまでの共同研究では,鎖状高分子の特徴づけを目的とした指標を提案したり,PDB(タンパク質データベース)の分析などに取り組んできました.このポスターでは主に,これらの研究の背景と概要について紹介します.このポスターを通じて,材料科学などに現れる様々な物質の解析への応用や,さらにネットワークの構造などのより広範囲な応用の可能性についてご意見を伺えればと考えております.
参考文献:
[1] Jørgen Ellegaard Andersen, Hiroyuki Fuji, Robert C. Penner, Christian M. Reidys, "The boundary length and point spectrum enumeration of partial chord diagrams using cut and join recursion," Travaux Mathematiques・25・213-232, arXiv:1612.06482 [math-ph].
[2] Jørgen Ellegaard Andersen, Hiroyuki Fuji, Masahide Manabe, Robert C. Penner, Piotr Sułkowski, "Partial chord diagrams and matrix models," Travaux Mathematiques・25・233-283, arXiv:1612.05840 [math-ph].
[3] Jørgen Ellegaard Andersen, Hiroyuki Fuji, Masahide Manabe, Robert C. Penner, Piotr Sułkowski, "Enumeration of chord diagrams via topological recursion and quantum curve techniques," Travaux Mathematiques・25・285-323, arXiv:1612.05839 [math-ph].
[4] Jørgen Ellegaard Andersen, Hiroyuki Fuji, Yuki Koyanagi, "Topology of protein metastructure and β-sheet topology," arXiv:2111.14501 [q-bio.BM].
[5] 林 晋 (青山学院大学)
トポロジカル角状態への指数理論的アプローチ
キーワード: 指数理論, K理論, 高次トポロジカル絶縁体
物性物理学のトピックであるトポロジカル絶縁体においては, 系の内部 (バルク) は絶縁系だが, 系の端 (エッジ) に局在した波動関数が現れ, 端はある種金属的に振る舞う. このことの背後に, 絶縁系であるバルクに内在するトポロジーの役割のあることがバルク・エッジ対応として知られている. 2017年頃から系の角に局在した波動関数 (角状態) であって系の摂動に対して頑強なものを持つ系が, 高次トポロジカル絶縁体と呼ばれ, トポロジーの役割等も含めた研究が物性物理学において行われている. 本ポスター発表では発表者が取り組んでいる, Atiyah-Singerに代表される指数理論の立場からのトポロジカル角状態の数学的研究について紹介する. 離散四半面上の作用素の指数理論を用いたひとつの数学的定式化, 角状態と関連した位相不変量の定義を与え, 具体例, 分類, 計算に向けた指数公式等を述べる. 本研究はBellissardらによるトポロジカル絶縁体の数学的研究に基づく.
[6] 仲田 資季 (駒澤大学)
計算・探索・縮約による非線形力学系のランドスケープ解析
キーワード: カオス, 流体, 幾何構造, モンテカルロサンプリング
流体中の渦, たんぱく質, ニューロンなどから成る集団といったような, 多数の要素が非線形的に結合した巨大自由度系ではしばしば境界や内部に幾何構造を伴う. その複雑な振る舞いや集団としての機能発現や構造形成は幾何構造に依存し, 一般に多次元の状態空間やパラメータ空間上で特徴づけられる. 本研究では, マルコフ連鎖モンテカルロサンプリングと非線形力学系 (神経ダイナミクスや流体現象) の計算との直接連成によって, 多次元の状態あるいはパラメータ空間上における特徴量の極値分布 (ランドスケープ) の同定や数理モデリングを実現する. 一連の計算・探索・縮約の融合的手法に基づいた, 力学系のカオス的振る舞いや相転移の予測・制御について紹介する.
[7] 横山 寛 (滋賀大学)
力学系を考慮した構造方程式モデリングによる因果グラフのデータ駆動推定及び介入効果推定法の検討とヒト脳科学研究への応用
キーワード: 因果推論,因果効果推定,データ同化,脳波
脳精神疾患における介入による治療効果予測や効果的な介入方策の検討は,極めて重要な社会課題である.近年,経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた非侵襲刺激による脳機能操作のうつ病治療への応用が正式に認可されたが,治療効果は高いとは言えず,個人差も大きい.その背景には,いつ・どのように刺激介入すれば効果的な脳機能操作と治療・回復を促すことができるのか,その方策の確立がなされていないという問題があげられる.
本研究では,脳波信号に見られるネットワーク結合力学系としての時系列ダイナミクスを考慮した動的な構造的因果モデルのデータ駆動推定と介入効果推定に基づく解析手法を検討し,観測脳波の時系列動態変化に対して,因果的に重要な役割を担う脳領域を同定するとともに,それら領域に対する刺激介入効果の定量評価手法の開発を目指す.こうした手法の確立は,TMSによる脳機能操作とその介入効果を事前計測した脳波から予測する枠組みを提供し,うつ病などの精神疾患の治療に繋がるような効果的なTMS介入方策の提案にも繋がる.
現時点ではアイディア検討の段階であるが,本発表を通して参加者の皆さまと提案手法の妥当性などについて議論したい.
[8] 伊師 英之 (大阪公立大学)
ベイズ統計によるデータの置換対称性の探索
キーワード: ベイズ統計,モデル選択,有限群の表現論
与えられた多次元データに関して,データの置換対称性には膨大なパターンの可能性が考えられるが,その中で最もデータに適合するモデルを選択する問題は,実用的に重要である.本研究ではベイズ統計の手法でこの問題の1つの近似解法を与える.概してベイズ統計ではボトルネックとなっている積分計算が,有限群の表現論を用いて正確に実行できることがポイントである.
[9] 町田 学 (近畿大学)
新生児低酸素性虚血性脳症の数理
キーワード: 逆問題, Duffing方程式, 時系列
新生児低酸素性虚血性脳症は新生児の脳障害の主な原因であり, 死亡や重篤な後遺症にも繋がる. 新生児低酸素性虚血性脳症に対する近赤外イメージングについて数理研究を行い, Duffing方程式に基づく数理モデルを提案している. 新生児低酸素性虚血性脳症の予後の予測はこれまで医師の経験に頼るしかなかったが, 予後予測を実現する数理研究のとっかかりができたところである.
[10] 松江 要 (九州大学)
有限時間特異性: 自励系・非自励系で
キーワード: 力学系, 有限時間爆発, 転換
時間推移する現象の中には, 「有限時間で劇的に変化する」描像が出てくる事があります.
これは起こるのか起こらないのか, また起こるならば「いつ, どこで, どのように」起こるのか, それをどのように見つけるか, 統一的な記述を試みます.
外部環境の影響が入らない「自励系」からは「解の有限時間爆発 (finite-time blow-up)」を, 外部環境の影響が入る「非自励系」からは, 近年数学的整備が進んだ「レート誘導転換 (rate-induced tipping)」を取り上げます.
[11] 佃 康司 (九州大学)
Allometric extensionモデルおよび関連するモデルに対する推測の研究
キーワード: Allometric extension, 主成分分析, 高次元統計解析
いくつかの部分集団からなる生物個体の集団において, サイズを表す多次元変数の特徴的なパターンを記述するモデルのひとつにallometric extensionモデルがある. このモデルは, 全ての部分集団において第一主成分方向が共通で, 平均ベクトルの差も同じ方向, というモデルである. このモデルのもとでの推測は興味深く, 現象にモデルを仮定できるか調べたい動機もある. 特に, 集団全体の第一主成分方向も各集団の第一主成分と同じ方向になるという性質は重要である.
本発表ではallometric extensionモデルに対する統計的検定法について議論する. さらに, 関連するモデルである多変量allometric回帰モデルにおける第一主成分の推定を議論する.
[12] 中井 拳吾 (岡山大学)
観測時系列データのみから構成された時間発展モデルの力学系解析
キーワード: 時間発展モデリング, 力学系解析, 流体
リザーバーコンピューティングと呼ばれる機械学習手法が決定論的ダイナミクスの時系列モデリングに有効であり, 流体や気象などの超高次元の力学系の現象に対しても十分な予測能力を発揮できることが明らかにした. 一方で, 決定論的ダイナミクスの時系列をリザーバーコンピューティングにより学習することで得られた機械学習時間発展モデルが, 背後の力学系構造, 特に不動点, 周期軌道, カオスアトラクタなどの不変集合を再現することをも確認した. また, ヘテロカオス的な力学系がもつ不安定次元の異なる周期軌道を, ひとつの機械学習モデルで再現できることも確認した.
本結果の一部は, Kobayashi, Nakai, Saiki, Tsutsumi, Phys. Rev. E 104, 044215 (2021) に基づく.
[13] 徳田 悟 (九州大学)
ベイズ推定に基づくトポロジカル絶縁体の表面電子状態解析
キーワード: ベイズ推定, セミパラメトリックモデリング, トポロジカル絶縁体
準粒子は相互作用する多体系を一粒子描像と多体効果に分けて単純化する概念であり, 金属における電子相関や超伝導体における電子対を特徴づける. 準粒子の性質を表す一粒子スペクトル関数は角度分解光電子分光 (ARPES) によって実験的に観測される. しかし, ARPESデータから一粒子描像と多体効果を分離することには技術的な困難がある. この困難も一因となり, グラフェンのディラック点における異常性や高温超伝導体のバンド分散におけるkink構造に象徴されるような論争がしばしば生じている. こうした論争の解決に向けて, 我々はベイズ推定に基づくARPESデータの解析法を提案した. 本発表では同手法をトポロジカル物質TlBi(S,Se)_2に適用した事例を紹介する. 研究成果の一部はJPMJCR18T1 (CREST「トポロジー」領域) およびJPMJPR23J8 (さきがけ「計測解析基盤」領域) の支援を受けた.
[14] DIAGO, Luis (明治大学)
「折」を生かした日本独自の描画法「扇」をベースとする新しい文化の創出に関する研究
キーワード:
日本のものづくりの原点であるアートと機能の融合である扇は, 平安時代に日本で誕生し1200年以上の歴史がある. 江戸時代の日本の美術史に名を連ねる俵屋宗達, 葛飾北斎, はじめ多くの絵師らの切磋琢磨により日本の扇は世界に類を見ない三次元芸術として高められたことはあまり知られていない. それは扇の形態ゆえに傷みやすく, 経年劣化した扇は保存修復のために扇骨を抜かれ扇面に表装された状態で調査・研究が続けられているためである. その上, 江戸時代の芸術性の極めて高い扇の多くは海外に流出している. 更に分業で造られる扇製作の後継者が消滅しつつある. そこで, 扇製作に近代手法を持ち込み製造の効率を上げる. 更に, 扇の見る角度によって異なる風景となることから, 本来, 物語性の付与が目指されていたが, 2次元の扇絵で真円でも骨を指し3次元とすると楕円になるくらい歪むことから, 狙い通りの物語が得られていない. 開発した, 扇の歪みを求める手法を用いて新しい文芸の創出も目指す.
[15] PARK, Hyunjoon (明治大学)
Interface motion of Allen-Cahn equation with anisotropic nonlinear diffusion
キーワード:
Allen-Cahn equation is a model to understand the phase separation. In this poster we study the case when the diffusivity has two features; the anisotropic and nonlinear diffusion, where such features are natural if we assume the interaction between the particles . We focus on how such features affect the motion of the interface by performing a formal asymptotic expansion.
[16] 佐々木淑恵 (明治大学)
お洒落な折畳帽子とその作業・自転車ヘルメットへの展開
キーワード:
帽子やヘルメットは適当に丸みを持たせる必要があることで, 展開図の作成は困難となる. また, 丸みを持たせると折畳みにくくなる. これらをいかに克服したかを述べる. また, 作業ヘルメットや自転車ヘルメットで課される衝撃要件に如何に対応していくかについて述べる.