自然界で見られる興味ある物質の性質は,原子・電子・分子などのミクロな粒子が個別にもつ性質ではなく,物質を構成する数多くのミクロな粒子で互いに協力的,あるときには反発的な相互作用を及ぼしあって示す相転移という多体現象を通じて現れる粒子集団の性質である。その結果,物質を構成するミクロな粒子が個別には持たない千変万化の物性が巨視的に現れ,優れた機能として我々の日常生活に多大な貢献をしている。その物質のさまざまな巨視的性質を微視的な観点から実験的に研究する物性実験では,対象とする物質(材料)の重要性は周知の事実である。そこで,研究対象である磁性体における新規(奇)モデル物質を自ら探索,合成し,その磁気的性質の基礎研究を実施している。
機能性材料の合成やプラスティックの分解方法として,マイクロ波照射(加熱)を積極的に導入し,廃熱,廃プラ,フードロス等に関連した材料物性の研究を実施している。また,遠赤外領域研究開発センターにおいて開発されたジャイロトロン(高周波・高出力)を用いた材料の焼結や機能の向上,さらに新規機能の添加などの研究も行なっている。これらの熱エネルギーの供給としてのマイクロ波加熱の利用は,CO2削減,すなわち脱炭素(カーボンニュートラル)へ大きく貢献する新しい反応プロセスとして位置付けられる。さらに,このジャイロトロンの応用研究として,世界最先端の計測装置であるパルス電子スピン共鳴(ESR)の開発にも取り組み,電子スピンの動的性質を研究している。
「セルロースから水素とカーボンナノチューブの同時生成」福井大学 学術研究院工学系部門 物理工学講座 教授 浅野 貴行