CD26とがん

悪性胸膜中皮腫はアスベストばく露が主な原因となり発生するがんで、アジア・中東では今後、患者数が益々増加することが予想されているが、現在の標準治療法では生存期間中央値が約1年と非常に短く、有効かつ安全な新規治療薬の開発が望まれている。

当研究室では良質なヒト化CD26抗体の開発に成功し、CD26が正常の胸膜組織には発現していない一方で、悪性胸膜中皮腫(特に上皮型)に高発現していることを見出し(図中下)、動物実験においてCD26抗体が優れた抗腫瘍効果を示すことを明らかにした(1)

そして、フランスで悪性胸膜中皮腫を中心としたCD26陽性腫瘍に対する第I相臨床試験をスタートした。特記すべき有害事象は認められず、安全性が確認されるとともに、期待される治療効果を示唆する結果も得られ、悪性胸膜中皮腫に対する有望な治療薬の候補として取り上げられた(2)

本邦でも2017年から第I相臨床試験を、2018年から第II相臨床試験を始め、有効性を示唆する結果が得られている(図中上)(3)

ヒト化CD26抗体の多様な抗腫瘍作用メカニズム

CD26抗体は、非常に多様な抗腫瘍作用を有するユニークな抗体であり、抗体特有の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性に加え、CD26陽性腫瘍に抗体が結合することによる直接的な腫瘍増殖抑制作用を明らかにしてきた(4,5,6,7) (図中左上)。

近年、CD26抗体は腫瘍免疫にも影響する可能性が考えられ、CD26抗体投与による血中DPPIV酵素活性の低下がケモカインの切断を妨げ、免疫細胞の腫瘍組織への集積を促進する可能性(8)(図中左下)や、近年新たながん治療法として非常に着目されている免疫チェックポイント阻害薬のように腫瘍免疫増強にも作用する可能性が考えられる(図中右)。

このように、ヒト化CD26抗体の抗腫瘍作用メカニズムの更なる解明とともに、CD26抗体の臨床試験患者の検体を用いて、CD26抗体が治療効果を発揮する患者を選択できるような治療効果や副作用の予測因子の同定にも取り組んでいる(9)

1) Clin Cancer Res. 2007, 2) Lancet Oncol. 2017, Br J Cancer. 2017, 3) Lung Cancer. 2019, 4) Clin Cancer Res. 2007, 5) PLoS One. 2013, 6) Br J Cancer. 2014, 7) Cancer Cell Int. 2016, 8) Nat Immunol. 2015, 2019, 9) Biomark Res. 2021