1.地球温暖化に対する南極周極流の応答
南極周極流は東西を大陸に遮られることなく周回して、太平洋、大西洋、インド洋を直接繋ぐ唯一の海域です。この南極周極流を駆動する偏西風は地球温暖化やオゾン層の破壊が原因で強化および南下することが知られています。また、極域と中緯度の地球温暖化の進行速度が異なるため、南極周極流の水温前線が強化されることも指摘されています。このような変化に対して南極周極流がどのように応答するか調べています。
これまでの研究から大気の変化に対する南極周極流(数千キロ程度の大規模な循環)の応答は中規模渦(100 km程度の渦)とのスケール間相互作用が鍵になることが分かってきました。また、このようなスケール間相互作用は南極周極流全体で発生するわけではなく、比較的狭いいくつかの海域で発生することが知られています。しかし、このようなスケール間相互作用が、極域への熱輸送や全球規模の海洋大循環にいかなる影響を及ぼすかはまだ解明されていません。そこで、私は海洋の現実的な構造を再現できる高解像度海洋大循環モデルを用いた数値計算を行い、南極周極流と中規模渦の応答を調べています。
図1.南極周極流の模式図。
2.外力に対するチャネルモデルの非線形応答
南極周極流は「チャネルモデル」という周期的境界条件を持つ理想化した水路としてモデル化できると考えられています。こういった理想モデルは海洋大循環モデルと比べて現実の再現性という意味では劣りますが、物理機構を単純化できるため本質的なプロセスを抽出しやすいという利点があります。私は南極周極流の持つ非線形性を理解するため、チャネルモデルを用いた数値実験を行っています。特に、海底地形の形状が流れの性質にどのような影響を及ぼすのか調べています。
3.黒潮-親潮合流域の水塊輸送プロセス
黒潮と親潮が合流する海域(移行領域)には黒潮起源の水塊が浸入してくるため、親潮域と比較すると高温・高塩分となっています。そのため、大気海洋相互作用を介して北半球の気候に影響を及ぼすことが知られています。また、移行領域は水産学的にも重要な海域であると考えられています。私は北太平洋の長期変動(e.g., 太平洋十年規模振動)がこの移行領域の海面水温に与える影響を研究しています。現在は、衛星観測データに対して数理科学的な手法やクラスター解析を適用することで、無秩序に発生する(ように見える?)中規模渦が移行領域に与える影響を可視化することに関心があります。
図2.移行領域の模式図。