アンドレーエフ分子の基礎学理確立と新機能開拓
アンドレーエフ分子のトンネル分光による直接観測
InAs量子井戸上の結合した二つの平面ジョセフソン接合について、接合内の状態をトンネル分光測定しました。その結果、各接合のアンドレーエフ束縛状態の位相差依存性を観測し、さらに二つの接合が結合した時に形成されているアンドレーエフ分子状態の分光測定にも成功しました。加えて、アンドレーエフ分子状態のエネルギーがゼロになる条件が存在することを発見しました。理論との比較の結果、この状態は結合したジョセフソン接合のトポロジカル転移に関連している可能性があり、今後のマヨラナ粒子の実現へとつながる可能性を秘めています(日本語解説)。
Nature Communications 14, 8271(2023)
アンドレーエフ分子の位相制御による新奇超伝導機能性の創発
InAs量子井戸上に一つの超伝導電極を共有した平面ジョセフソン接合を作製し、一方の接合の位相差を制御するために超伝導リングに埋め込みました。測定の結果、リング外の接合の臨界電流が絶対値で比較した時に正負で異なることを発見しました。これは近年低消費電力の整流素子の実現につながると期待されている超伝導ダイオード効果です(日本語解説)。さらに、異常ジョセフソン効果と呼ばれる現象の観測にも成功しました(日本語解説)。これらの現象は時間反転および空間反転対称性が破れているジョセフソン接合でのみ起きる現象です。そのため、アンドレーエフ分子の位相制御によって接合の対称性を操作できること、およびそれによって超伝導新機能性を創発可能であることを実証した結果となっています。
Nature Physics 19, 1636 (2023)、Science Advances 9, eadj3698(2023)
非局所ジョセフソン効果の観測と位相制御
我々は二本のInAsナノ細線から一つの超伝導電極を共有した二つのジョセフソン接合を作製し、そのうち一方の接合を超伝導リングに埋め込みました。リング内の接合の位相差は磁場によって制御できます。リング外の接合の臨界電流を測定すると、磁場に対して振動することが観測されました。これは二つの接合にまたがってアンドレーエフ分子状態が形成されている間接的な証拠であり、その結果起きた非局所ジョセフソン効果の観測に成功したことを意味しています(日本語解説)。
Communication Physics 5, 221 (2022)
弾道的なクーパー対分離の観測と制御
二つのInAsナノ細線が並列に配置された二重ナノ細線と呼ばれる構造の研究を行い、超伝導体内でクーパー対を形成する二つの電子が異なる二つのナノ細線へと分離して輸送されるクーパー対分離現象の観測とその電気制御に成功しました。また、ナノ細線内の1次元電子系の持つ電子間相互作用の特性により分離が高効率に起きることも実証しました(日本語解説)。
Science Advances 5, eaaw2194 (2019), New Journal of Physics, 20 063021 (2018), Applied Physics Letters 111, 233513 (2017)
弾道的単一ジョセフソン接合の基礎物性開拓
InAsナノ細線のジョセフソン接合に高周波電波を照射してシャピロ階段の測定を行い、ナノ細線の弾道的な電子輸送特性に起因して半整数倍の量子化電圧値でシャピロ階段が検出されることを明らかにしました。
Phys. Rev. Research 2, 033435 (2020)
単一ナノ細線ジョセフソン接合に関して、これまでマヨラナ粒子の証拠とされていた超伝導電流の磁場による増強現象を詳細に検証した結果、実は準粒子捕捉と呼ばれる従来よく知られた機構により増強現象が生じていることを明らかにしました(日本語解説)。
Phys. Rev. Lett. 128, 207001 (2022), Phys. Rev. B Rapid Communications 98. 041302 (2018)