Research Interests

認知科学的アプローチから、

「人の知性 (human intelligence)」を探る


(最終更新: 2023年5月22)



専門分野は認知科学、特に意思決定科学 (decision science)です。


人は、人工知能 (artificial intelligence; AI)と比べて、計算能力や記憶容量などの面で劣っており、扱えるデータ量が圧倒的に少ないといえます。

しかしそうであっても、人は間違った判断ばかりをするものではありません。むしろ多くの場面で正確な判断を行うことができます。

 

私は、そのような「人の知性 (human intelligence)」について研究しています。

人がどのような判断を行っているのか、またその認知機序などについて、行動実験や行動データの認知モデリング、それに計算機シミュレーションなどの認知科学的手法を駆使したアプローチを行っています。


ChatGPTをはじめとした高度なAIが開発される時代、「人らしさとは何か」を考えることは非常に重要となります。

人の知性の探求は、人ならではの優れた思考についての理解を深め、この問いに答えるヒントや示唆を与える可能性を秘めています。


Research keywords


Heuristic: ヒューリスティック

Bounded rationality: 限定合理性

Ecological rationality: 生態学的合理性

Resource rationality: 資源合理性

Adaptive toolbox: 適応的道具箱


Confidence: 確信度

Wisdom of crowds: 集合知


Nudge: ナッジ

Boost: ブースト

Mouse cursor trajectory: マウスカーソル軌跡


Approach

Behavioral experiments (lab/online)

Cognitive modeling 

Computer simulation 

Mouse tracking 


Skills

software for analyses 

・R/Rstudio (main)

・python; Spyder, jupyter notebook

・GNU Octave

・MATLAB


software for building experiments 

・PsychoPy 3

・Qualtrics


現在は、主に下記のテーマについて研究を行っています。  画像の無断転載はご遠慮ください  


なお、研究の概要は下記にもまとめられております。
  • 白砂大. (2023). 「人の知性」をめぐる冒険 ── 直感・プロセス・集合知. 川口潤 (編), 心とは何か: Introduction to Psychology... (pp. 17-32), 追手門学院大学出版会. [link]

 

直感が見せる合理性: 行動データの認知モデリングから

人は具体的な情報や知識がないとき、「なんか聞き覚えがあるなぁ」など、漠然とした単純な判断を行うことがあります(e.g., 飲食店でメニューの内容がよく分からなかったので、なじみのある名前を注文した)。しかし、このような単純な判断を行っても、案外うまくいくことも多いのではないでしょうか(e.g., 注文したメニューがおいしかった)。

人が行う直感的・経験則的な判断は「ヒューリスティック」と呼ばれます。人は、どのような状況で、どのようなヒューリスティックを多く使うのか。またヒューリスティックは、なぜ、どのようなときにうまくいくのか。さらにそのふるまいは、異なる課題構造においても観察されるのか。私はこれらの問いについて、認知モデリングや計算機シミュレーションなどを通して検証しています。

主な業績: 

Shirasuna, M. (2021). The adaptive use of heuristics: Investigations of human inferential strategies in a new task structure [Unpublished doctoral dissertation]. Tokyo, Japan: The University of Tokyo.

Shirasuna, M., Honda, H., Matsuka, T., & Ueda, K. (2020). Familiarity-matching: An ecologically rational heuristic for the relationships-comparison task. Cognitive Science. 44(2): e12806. https://doi.org/10.1111/cogs.12806

Shirasuna, M., Honda, H., Matsuka, T., & Ueda, K. (2017). Familiarity-matching in decision making: Experimental studies on cognitive processes and analyses of its ecological rationality. In G. Gunzelmann, A. Howes, T. Tenbrink, & E. J. Davelaar (Eds.), Proceedings of the 39th Annual Conference of the Cognitive Science Society (pp. 3143-3148). Austin, TX: Cognitive Science Society.

判断時の認知プロセス: マウスカーソルの軌跡から

同じ問題文や刺激を見た際に、たとえ同じ判断を行っていたとしても、それをどう受け取っていたかは人によって様々です。例えば、ある人は衝動的に即決したかもしれませんし、別の人は迷いながら熟考して判断したかもしれません。人の知性を理解するうえでは、回答という単なるアウトプットに加えて、アウトプットに至るまでの認知的なプロセスも重要になります。

特に短時間で判断を行う際に、人はどのような刺激に対して、どのような認知プロセスを見せるのか。私はこれらの問いを、回答に至るまでの時間(反応時間)だけでなく、課題遂行中のマウスカーソルの軌跡に基づいて検証しています。個々人の多様な認知プロセスを考慮することで、多くの人がよりスムーズに判断を行える説明文・デザインの設計に向けた示唆を提供できることが期待されます。

主な業績: 

Shirasuna, M., Kagawa, R., & Honda, H. (2023). "One-second wait": A simple and effective intervention to boost judgment accuracy. PsyArXiv. https://psyarxiv.com/fd8u9/

Shirasuna, M., Kagawa, R., & Honda, H. (2022). Waiting for one second improves accuracy: Experimental examinations based on mouse trajectories during binary choice tasks. Poster presented at the 43rd Annual Meeting of the Society for Judgment and Decision Making, in San Diego, CA. 

第19回日本認知心理学会優秀発表賞「技術性評価部門」受賞 (白砂大・香川璃奈・本田秀仁. (2022). 人の判断プロセスの解明に向けたマウス軌跡の実験的検討. 日本認知心理学会第19回大会, O-A03.) 

「不確実」な実世界への対処: 集合知のシミュレーションから

実世界では将来のことは不確実であり、1人で課題を解決できないときに複数人の知恵を合わせることがあります。集団で物事を決める際(e.g., 多数決)、直感的には「自信のある人の意見を集めれば、うまくいくだろう」と思われます。しかし、確信度が高くても判断が誤っている(自分の能力を過大評価する)自信過剰という現象も知られており、「いま目の前にある課題」における個々人の確信度が、「これから出くわす課題」における集団のパフォーマンスを予測するとは限りません。

確信度の高い人たちの集団は、どのような状況で、将来よい(または悪い)パフォーマンスを発揮するのか。また、ときには確信度の低い人たちの意見を取り入れた方がよい場合もあるのではないか。個人と集団に関わるこのような問いについて、私は行動データに基づく計算機シミュレーション通して理論的に検証しています。

主な業績: 

Shirasuna, M., Honda, H. (2023). Can individual subjective confidence in training questions predict group performance in test questions?. PLOS ONE. 18(3): e0280984. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0280984

Honda, H., Kagawa, R., & Shirasuna, M. (2022). On the round number bias and wisdom of crowds in different response formats for numerical estimation. Scientific Reports. 12, 8617. https://doi.org/10.1038/s41598-022-11900-7

Shirasuna, M., & Honda, H. (2021). Do low-confidence individuals decrease group judgments’ accuracy? Investigations in terms of the wisdom of crowds framework. PsyArXiv. https://doi.org/10.31234/osf.io/xnk4p

Another research project

研究クラウドファンディング @アカデミスト

クイズ×認知科学:早押しクイズに潜む人の知性を実験的に検証したい(2023年5月~2024年6月)

「出題者が問いを出し、回答者がそれに答える」

クイズ(特に早押しクイズ)は、一見すると単なる「データベースから知識を引き出す」だけの営みです。しかし実際には、他者との「競争」という要素があり、それに伴って、誤答に対するリスクの判断、状況に応じた判断方略の切り替え、「自分が正答を思い出せるか」というメタ認知など、様々な認知的要素が関与してきます。

回答者・競争者らによるこれらの駆け引きがクイズの本質であり、そしてそこには、情報が不十分な中でも正確な判断・行動を行っていくという「人ならではの知性」が隠れていると考えられます。

近年は、娯楽として、また競技として、早押しクイズが多くの人に親しまれています。関連する書籍やwebメディアが増えただけでなく、オンラインツールやアプリも開発され、実際に早押しクイズを行う人も増えてきました。他方、昨今では、ChatGPTなど非常に優れたAIが開発されています。これに伴い、「人らしさとは何か?」を考えることがより重要視される時代にもなっています。

早押しクイズと認知科学とを融合させる研究は、「人の知性」についてのより深い理解を得られる可能性を秘めています。また、早押しクイズという知的な娯楽・競技が持つエンターテインメント性の本質を、行動データに基づいて紐解くことにもつながります。クイズが1つの文化として見直され、そして「人らしさ」が一層強く問われるようになった時代。「クイズ×認知科学」の実現にあたり、これは絶好の機会だと私は考えました。


私の認知科学研究の経験、そして競技クイズの経験を活かし、頑張ってまいる所存です。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

【プロジェクトページはこちら

※ 本クラウドファンディングは、academist Prize 第3期の採択プロジェクトです


研究協力者: 小坂健太 氏 (関西外国語大学)

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