#342 方言に世界観をみる
7月18日は「地球ことば村」7月のことばのサロンにて、谷口ジョイ先生の講演「『言語の島』井川(いかわ)でのフィールドワーク」に参加しました。
先生のご著書『ある言語学者の事件簿』は精読というより乱読にとどまっていましたが、本の中での書きぶりよりも、先生のお話し方がとても落ち着いていられて素敵だったことも印象に残っています。
講演の前にはゼミもあったので、上のご著書からひとつお話を学生に紹介しようと思い、目に留まったエピソードがありました。それは、先生が社会言語学と出会い、その授業がとても面白かったというご経験のお話です。
その講義の内容は数ページの漫画のコピーで、若い女性がカフェの店員に恋をする爽やかなラブストーリーなのですが、最後のコマには結構派手な性行為のシーンがあったとのことでした。課題としては、そのあらすじをペアの方に漫画を見せずにことばだけで紹介するというものです。
もちろん最後のシーンをどう説明するか迷ったというのですが、ジョイ先生は「直球」、ペアになった男性は「夜の営みとでも言いましょうか」といったように表現されたそうです。この課題の目的は、「卑猥語」をどのように言い換えるか、あるいは言わずに省略するのか、そこに性差や世代・年代差はあるのかといった内容を考える授業だったそうです。こうした婉曲表現については、こちらのブログでも過去に何度か扱いました(#46ほか)。
講演では、井川方言について、話者が最年少でも80代後半の方であるというお話がありました。それについては、井上先生から「テレビ世代ではないこと」、それに対して谷口先生からも「井川にはテレビが入ったのも遅かったこと」が挙げられていました。ここを聞いて、方言の消滅理由として先日も「3M(そのひとつがメディア)」が標準化の動きを加速させる可能性について触れたばかりだったので、そのつながりを思い出しました。
また、井川方言では動物に「どー」がつくことが多く、ありは「ありんどー」、かたつむりは「かさんどー」という例が挙げられていました。クイズでは、ひきがえるが「どんびき」、まむしが「くそへび」と言われている例などがクイズ形式で共有されました。「くそへび」の「くそ」は「くすり(薬)」からきているとのことです。これを聞いて、長野の祖父がマムシに酒を入れて瓶詰めにしていたのを思い出しました(笑)。
そのほかにも、少数言語が減ることについての危機感が語られていました。違う世界観を持ち、「こういう考え方や世界もある」というリスクヘッジの機能などが失われてしまう、という文脈でのお話でした。
ことばと世界観・習慣の結びつきについては、井川には労働力の貸し借りがあり、それは「ゆいかせ」「ゆいはらい」と呼ばれているそうです。「ゆい」は「結」であり、それはまさに井川ならではの習慣であることについても触れられていました。
p.s. 7月18日は富士山の西湖にて友人とのんびり、私達以外誰も湖上にいないカヤック時間も楽しみました。
参考
谷口ジョイ(2026)『ある言語学者の事件簿』くろしお出版.
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