#304 連濁からみる日本語のゆれ
先日の記事で触れた連濁について、大変興味深いお話を見つけました。東京大学教授の廣瀬友紀さんが、小学生の素朴な疑問に答える「このことばヘンじゃない!?」というコーナーで、連濁を別の視点から取り上げていらっしゃったのです。
それは、ある小学4年生が国語の教科書を音読していたときのことです。教科書には「はださむい」「おもくるしい」と書かれているのに、おばあちゃんはそれを「はだざむい」「おもぐるしい」と読んでいたそうで、どちらが正しいのだろうという疑問でした。
廣瀬先生は、この疑問に対してNHK放送文化研究所の2021年の調査を紹介されています。それによると、全体としては濁音になる「はだざむい」が多数派なのですが、年齢層によって違いが見られるそうです。たとえば20代では「はだざむい」派が88%と圧倒的であるのに対し、60代では「はだざむい」が54%、「はださむい」が45%とほぼ拮抗しており、どちらがメジャーとも言えない状況になっています。連濁をするかしないかという問題に、年齢という外的な要因が関わっているかもしれないという点は、私にとって予想外で非常に面白い事例でした。
この内容に興味を惹かれ、そこで挙げられていた塩田(2022)を実際に拝読してみました。その中で特に面白かったのが「発音と表記のズレ」についてです。
たとえば、テレビの字幕などで「回転すし」「5時ころ」と濁点なしで表記されているとき、アナウンサーが口頭で「かいてんずし」「ごじごろ」と濁音で発音することがあります。実は、こうした「文字と声のズレ」に対して、約半数の人は特に抵抗を感じないのだそうです。
これは、前回の記事で書いた「たらばかに」「すわいかに」(「すわいかに」は「す」にも非連濁が拡張されて使用されている)の話とも通じる部分があります。塩田(2022)のなかで平野(2021)の指摘として紹介されているのですが、そこには「複合語の透明度の維持」、つまり「すっきりとわかりやすい状態を保ちたい」という感覚が働いているようです。たとえば「内ぶた」と書くよりも、「内ふた」と書いた方が、もとの「蓋(ふた)」という言葉が組み合わさっているのだとパッと見て理解しやすい、というわけです。
ここでも年齢による受け止め方の違いがあるようで、20代の若い世代では、耳で聞く発音と文字の表記が一致している(表音一致)方を好む傾向が強いそうです。そのため、文字で書くときも読むときも「羽根ぶとん」とする割合が多くなっています(60歳以上では、ハネブトンと言い、「羽ふとん」と書くケースの方が多い)。
ただ、これが「羽毛布団」になると話が変わってきます。「ウモーフトン」と濁らずに発音し、「羽毛ふとん」と書く形が、おおむねどの年代でも一番多いという結果が出ているのです。このことから、連濁のルールや傾向は一概には言えず、まさに一語一語を丁寧に調べていく必要があるのだと指摘されていました。
言葉の濁り方やその表記が、これから世代交代とともにどう変化していくのか、今後も一つの興味深い事例として注目していきたいと思います。
参考
廣瀬友紀(2026)「このことばヘンじゃない!?まだまだなぞが多い『連濁』」『朝日小学生新聞』2026年6月号.
塩田雄大(2022)「“この報告は、多くの方々が読んでいただきたいです”—2021年『日本語のゆれに関する調査』から(1)—」『放送研究と調査(The NHK Monthly Report on Broadcast Research)』72-01, pp.56-77, NHK放送文化研究所(編集)/ NHK出版(発行).
平野尊識(2021)『連濁の規則性をもめて』ひつじ書房.
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[連濁] [変異理論] [外的制約条件]