当画廊にとって初めての挑戦となる、ゲストキュレーターたちばな みつやによる持ち込み企画展を開催いたします。外部の視点が加わることで生まれた、新鮮な空間と作品の化学反応をぜひ会場で体感してください。
”過去の記憶をたどるのは、それが新しい未来へと繋がっているから”
「かつて」という、過去の時代を語るニュアンスを持つ韓国語の「옛(イェッ)」、
「まだ」「これから」という、現在と未来の可能性を持つ英語の「Yet(イェッ)」。
この二つの言葉は、それぞれ異なる方向性の時間を表しますが、並列することで「過去、現在、未来」という、一連の時間を内包する新たな響きとなります。
新シリーズのモチーフは、韓国美術の極致とされる白磁の壺《タル・ハンアリ(月壺)》です。その「完璧な造形」を一度解体し、再構成するという制作行為を通して、目に見えない過去の記憶や功績の軌跡を辿ります。
これまでの作品シリーズは、成長・変化していく過程で、物事が積み重なって行く様子を表現してきました。一方今回は、視線を一度「過去」へと向け、そこで得た気づきをもとに新しい造形を生み出していきます。
過去を取り入れ、新たな「現在」として蘇らせる試みです。
2026年2月21日(土)~3月3日(火)
休廊:2月24日(火)~26日(木)
営業時間:13:00~18:00
【開催日詳細】
2月21日(土)、22日(日)、23日(月祝)、
27日(金)、28日(土)、3月01日(日)、02日(月)、03日(火)
【作家在廊予定日時】
全日を予定
【キュレーターご挨拶】
このたび、韓国出身の金属造形作家 パク・ビョンイクの個展「옛; yet(イェッ)展 -the past, not past-」を開催いたします。
パクは、抽象的な概念を、金属ならではの質感と洗練されたフォルムで表現する、今注目すべき若手作家のひとりです。「現在とは過去の積み重ねであり、刻一刻と変化していくもの」という作品に通底する思想のもと、目には見えない「現在までの累積」をいかに形象化するか、その探求を続けてきました。
本展示で発表される新作は、韓国美術において最も評価の高い古典の一つ《タル・ハンアリ(月壺)》をモチーフとしています。興味深いのは、彼がこれを一つの「完璧な造形」の象徴として捉え、制作における「過去の記憶を辿る」ための媒体としている点でしょう。
たとえばこの「完璧な造形」が、現在の形状や評価に至るまでに積み重ねてきた、歴史や文化、技術、そして人々の想いといった膨大な記憶を、彼はあえてその形状を徐々に解体・再構成することで紐解いていきます。作品全体を覆うシルバーの輝きや、三日月のように光を放つゴールドの接合の痕跡は、それら多くの功績を表しているかのようです。
本作品のコンセプトは、この記憶を辿る行為によって得たさまざまな要素を作品に取り入れることによって、過去を新たな現在として蘇らせようとする試みにあります。
本展の会場は、築百年を超える古民家を改装した空間で、現代作家の作品を紹介する「まめでんきゅう画廊」です。古き良き遺産を、新たなものとして生みなおそうとする画廊の姿勢は、本展の精神と共鳴します。またオーナー夫妻のあたたかな生活空間と展示スペースが心地よく溶け合うこの場所は、「家庭の幸福」を招くとされる《タル・ハンアリ》を迎え入れるための、このうえなくふさわしい舞台と言えるでしょう。
本展が開催される二月末から三月上旬、韓国では旧暦で新年最初の満月の日に、幸福を願う伝統行事が開催されます。この機会になぞらえ、本展が夜空の満月をゆっくりと眺めるひとときのように、これまでの歩みを穏やかに振り返り、新たな未来を思い描く機会となれば幸いです 。
キュレーター:たちばな みつや