寺尾康先生による公開公演

心理言語学への言い間違いの貢献、これまでとこれから

「故意にではない発話意図からの逸脱」と定義される言い間違いは、突発的で稀な言語現象でありながら、そこに観察される規則性は意識による統制が及ばない発話処理作業の規則性の齟齬を反映したものとして注目されてきました。

講演前半では、言い間違いの分析の基本要素を解説したあと、これまでその分析結果が言語単位の実在性の検証と言語産出モデルの構築にいかに用いられてきたのかをまとめます。後半は「うならい(←うらない)」、「ちばなをひらす (← 火花を散らす)」のような音韻的交換と呼ばれる言い間違いを詳細に分析した結果を報告したうえで、この誤りには音声面、音韻面の諸要因が絡み合っており、それらを解きほぐそうとする努力は言語産出モデルの音韻部門解明に向けての糸口になることを示します。とりわけ、音節とモーラという単位をモデルのどこにどう配置するのかという問題について良い示唆を与えてくれるようにみえる点を取り上げたいと思っています。最後に、まだ準備の段階ですが、吃音研究からの成果も引用しながら言い間違いにまつわる諸要因の整理は最適性理論をはじめとする音韻理論にも貢献できるのではないかという可能性についてもふれたいと思います。

本格的に注目されてから120年、言い間違いというデータはまだまだ「掘り尽くされた金脈」ではないという展望が伝われば幸いです。

講師紹介

静岡県立大学国際関係学部国際言語文化学科、同大学院関係 学研究科比較文化専攻教授。 ご専門は心理言語学、音韻論、認知科学。言語産出メカニズム (とくに言い間違い)、言語獲得過程の解明の研究、言葉への気 づきを活用した言語教育。 『言い間違いはどうして起こる?』(2002年、岩波書店)、Speech errors (The Handbook of East Asian Psycholinguistics, 2006, CUP) 等著書・論文多数。

2018.10.29 Prof Yasushi Terao.pdf

日時:201810月2日(水)10〜16:0日本時間

使用言語:日本語

場所:東北大学川内キャンパス文学研究科棟701教室

お問い合わせ:

国際文化研究科

木山幸子Sachiko Kiyama

メールアドレス: skiyama(at)tohoku.ac.jp

Posted on 2022.3.22