呼吸器や消化器などの粘膜組織は、外界との広大な接触面を有する臓器であり、ガスや水分、栄養素などの生命維持に必須の物質を取り込む窓口であると同時に、病原体やアレルゲンの主要な進入路でもあります。そのため、粘膜バリアの維持は、感染症やアレルギー疾患など、寿命や生活の質に直結する疾患を予防するうえで極めて重要です。
一方、腸管には1000種にも及ぶ腸内細菌が共存しており、宿主免疫系の成熟や代謝重要な役割を果たすことが知られています。したがって、炎症性腸疾患や食物アレルギーなどの免疫疾患、さらには肥満、糖尿病といった代謝疾患の理解には、宿主細胞と共生微生物の機能を統合的に捉える必要があります。
本分野では、研究所内外の研究機関と連携し、腸管組織を構成する細胞とその機能を網羅的に解析することで、腸管免疫系の統合的理解を目指しています。
腸管粘膜固有層は上皮を裏打ちする領域であり、免疫細胞や神経細胞が複雑なネットワークを形成しています。上皮は、粘膜固有層に局在する細胞群から発せられるシグナルを受容し、機能的な修飾を受けています。しかしながら、粘膜固有層には機能が未知の細胞群が多数存在しており、粘膜上皮バリア機構の全容解明に向けたへ大きな障壁となっています。
これまで我々は、世界に先駆けて、3型自然リンパ球(ILC3)と呼ばれる粘膜組織常在型のリンパ球の同定に成功してきました。さらに、腸管の免疫組織であるパイエル板において、管腔側からの抗原取り込みに特化した上皮細胞(M細胞)の分化に必須の間葉系細胞や、腸管マクロファージの生存を支える微小環境の同定に成功しています。
本研究分野では以下の3つの研究主題について研究を進めています。
① 自然リンパ球
はじめに
2010年前後に相次いで発見された抗原受容体を持たない新規リンパ球群は、2013年までには細胞障害活性を有するNK細胞とは異なる細胞群として再整理され、「自然リンパ球(Innate Lymphoid Cells = ILCs)」という総称のもとに再定義された(Spits et al., 2013)。現在ではILC1、ILC2およびILC3として定義される各ILC サブセットは、特に粘膜組織における1型、2型、3型の初期免疫応答を担う細胞として位置付けられ、ヘルパーT(Th)細胞の自然免疫型カウンターパートとしての概念が確立されている(Vivier et al., 2018)。
すなわち、ILC1はTh1細胞と同様に転写因子T-bet依存的に分化し、マクロファージ活性化を介した細胞内寄生細菌に対する1型免疫応答を担う。ILC2 はTh2細胞と同様にGATA3に依存して分化し、好酸球性活性化を介して寄生虫に対する2型免疫応答を担う。さらにILC3はTh17細胞と同様にRORγtに依存して分化し、好中球の動員を介して細胞外細菌や真菌に対する3型免疫応答を担う。このように、各ILCサブセットとTh細胞サブセットの対応関係は、ILC研究の根幹をなす概念として広く受け入れられている。
発見から15年以上経た現在、ILC研究は発生・分化機構や機能制御、さらには感染防御における役割といった古典的な研究領域を超え、自己免疫疾患、アレルギー疾患、組織修復、代謝制御、さらにはがん免疫に至るまで、その病態生理的・臨床的意義を問う段階へと発展している。
1. ILCの分化・発生
ILCが発見される10年以上前から、リンパ節やパイエル板などの二次リンパ組織形成に必須の役割を担う、抗原受容体を持たないリンパ球の存在が知られており、Lymphoid Tissue inducer (LTi) 細胞と命名されていた(Mebius et al., 1997)。LTi 細胞は転写因子RORγtをマスター制御因子として分化・成熟し(Eberl et al., 2004)、強力なリンパ組織形成能に加えてILC3と一部重複する遺伝子群を発現する(Sawa et al., 2010; Sawa et al., 2011)。そのため、LTi細胞はしばしばILC3の一つのサブセットと看做され、混同される。しかしながら、近年の研究ではLTi細胞とILC3が全く異なる前駆細胞に由来することが示唆されている。そこで、本項ではILC分化に関する研究の歴史を振り返りつつ、LTi細胞とILC3の分化経路を概説する。
【生物進化とILC】
RAG依存的なV(D)J遺伝子組換えを特徴とする獲得免疫系リンパ球は、サメなどの軟骨魚類を含むjawed vertebrates(有顎脊椎動物)の出現とともに進化したと考えられる。一方で、NK細胞やILC2に類似したリンパ球は、ヤツメウナギなどのjawless vertebrates(無顎脊椎動物)にも存在することが報告されている(Hirano et al., 2013; Vivier et al., 2016)。興味深いことに、これらの無顎類 のリンパ球には、Id2, Gata3, Nfil3, Tcf7 (TCF1), Zbtb16 (PLZF)など、T細胞およびILCの分化に重要な役割を担う転写因子をコードする遺伝子群が発現している。すなわち、ILCは獲得免疫の出現に先立って進化した、より原始的なリンパ球系譜であると考えられる。
一方、免疫組織構築という観点から見ると、LTi細胞は他のILCとは異なる進化的背景を有する可能性がある。LTi 細胞はリンパ節やパイエル板などの二次リンパ組織形成に必須の細胞であるが、これら高度に組織化された免疫器官は魚類には存在せず、主として鳥類の一部および哺乳類に認められる(Boehm et al., 2012)。魚類にも腸管関連リンパ組織様の免疫細胞集簇は存在するものの、リンパ節のような明確な区画構造や胚中心形成能は認められない。
リンパ節は、抗原、抗原提示細胞、リンパ球を効率的に集積させることで、抗原特異的リンパ球の選択的増殖と高親和性抗体産生を可能にする極めて高度な免疫システムである。したがって、LTi細胞は単なる自然免疫細胞ではなく、獲得免疫系を効率的に機能させるための「免疫組織プログラム」を担う細胞として進化した可能性がある。実際、LTi細胞は発生期の限られた時間窓に出現し、生涯にわたって機能する免疫組織の鋳型を形成するという、他のILC サブセットにはみられない特徴を有している。このことは、LTi細胞が感染防御そのものよりも、むしろ獲得免疫システムを支える組織基盤の構築を主要な役割として進化してきた可能性を示唆している。
【CHILP修正モデルの提唱】
転写因子E2Aの強力な抑制因子であるId2を欠損したマウスでは、T細胞およびB細胞の分化はほぼ正常であるものの、NK細胞やLTi細胞、およびILC2の分化が細胞内在的機序により著しく障害される(Boos et al., 2007) (Moro et al., 2010)。このことから、Id2は自然免疫系リンパ球分化に必須の分子であるとともに、これら自然免疫系リンパ球に共通するId2依存的分化制御機構またはId2依存的に分化する共通前駆細胞の存在が想定されるようになった。
そのような中、Albert BendelacらのグループはLin−IL-7Rα+α4β7+KitloFLT3− 分画(αLP)中に存在するId2+PLZF+ 細胞をinnate lymphoid cell precursor(ILCP )と定義し、この細胞がLTi 細胞を除く全てのILC1–3サブセットへ分化可能であることをクローンレベルで証明した(Constantinides et al., 2014) 。その後、共通リンパ球前駆細胞(CLP)からILCPへの分化過程を制御する転写因子群の解析が進められ、現在では「LTi細胞とILC1-3は異なる前駆細胞に由来する」というモデル(図1)が広く受け入れられている(Das et al., 2026; Kasal and Bendelac, 2021)。
一方、同時期にAndreas Diefenbachらのグループが提唱したCommon Helper Innate Lymphoid Cell Precursors (CHILPs) モデルでは、LTi細胞前駆細胞とILC前駆細胞をPLZF発現で区別できていなかった(Klose et al., 2014)。そのため近年では、CHILPという概念をそのまま用いるよりも、LTi細胞系譜とILCP系譜を区別した修正版の分化モデル(図1)が用いられることが多くなっている。
【CLPからEILP・ILCPへの分化に必要な転写因子】
ILC系列細胞が共通リンパ球前駆細胞(CLP)からILCPへと分化する分子機構については、現在も精力的な研究が進められている。NFIL3欠損マウスでは、骨髄由来のほぼ全てのILCサブセットが著しく減少する一方で、一定数のLTi細胞は残存することが報告されている(Geiger et al., 2014; Léger et al., 2025; Seillet et al., 2014; Xu et al., 2015; Yu et al., 2014) 。これらの結果もILC 3とLTi細胞が異なる前駆細胞に由来するというモデルを強く支持する。では、CLPからILCPへの分化過程においてNFIL3 はどのような役割を果たすのであろうか?
近年、その分子機構が徐々に明らかになってきた。CLP を含む前駆細胞分画にNFIL3を強制発現させると、ILC分化に重要な転写因子をコードするTox, Id2, Gata3, Tcf7, Zbtb16などの発現が誘導され、ILC分化が促進される(Léger et al., 2025)。さらにTOXは、NFIL3を発現する リンパ球系前駆細胞(NLP)において TCF-1およびZBTB16 (PLZF)の発現を誘導し、early ILC progenitor (EILPs)への分化を促進する(Harly et al., 2018)。TCF-1はEILPsからILCPへの分化に必須の転写因子であることから(Léger et al., 2025)、NFIL3はTOXおよびTCF-1を中心とした転写因子カスケードの最上流に位置し、CLPをILC系列へと運命決定するうえで極めて重要な役割を担うことが明らかとなった。では、EILPからILCPへの文化はどのように制御されるのであろうか?
EILPは単一の前駆細胞集団ではなく、ミエロイド系細胞への分化能を保持する細胞を含むヘテロな集団である。GATA3はILC2のみならずILC3を含む全てのILCサブセットの分化および維持に重要な役割を担う転写因子であり(Serafini et al., 2014; Yagi et al., 2014)、EILPからILCPへの分化過程においても高レベルのGATA3発現が必要とされることが知られている(Zhong et al., 2020)。では、ILCP以前の分化段階においてGATA3はどのような役割を果たすのであろうか?
Zhaoらの研究グループはクロマチンアクセス性という観点からこの問いに答えた。EILPはILC特異的なエンハンサー領域にアクセス可能な細胞群とMyeloidエンハンサー領域が開いた細胞群から構成されるヘテロな細胞集団である一方、ILCPではクロマチン状態がILC型エピゲノムへと収斂することを見出した。さらに、彼らはTCF-1とGATA3がILC型クロマチンアクセス性の確立に重要であり、PU.1とIRF8はミエロイド型のクロマチンアクセス性の形成に重要であることを明らかにした。現在では、TCF-1とGATA3はEILPにおいて互いのゲノム結合能を維持し合うポジティブフィードバック回路を形成し、ILC特異的エピゲノムを安定化することで、EILPをILC系列へとコミットさせると考えられている(Ren et al., 2022)。
以上より、CLPからILCPへの分化過程では、NFIL3 による転写カスケードの活性化と、TCG-1/GATA3によるエピゲノムの形成が連続的に思考することで、ILC系列への運命決定が達成されると考えられている。
しかし、これらの研究は主としてCLPからILCPに至る上流の分化機構を明らかにしたものであり、ILCP以降の各ILC系列においてマスター制御因子がどのように誘導されるかについては依然として不明な点が多い。
【ILCおよびLTi細胞におけるLineage specification】
ILCPから各ILCサブセットへの分化過程において、マスター制御因子がどのように誘導され、細胞運命が決定されるかという問いは、現在のILC生物学の中核をなす重要課題である。しかし、ILCPは極めて稀少であり、しかも各ILC系列への文化は短時間のうちに進行する。そのため、この過程を解析するには、複数の転写因子レポーターマウスラインを組み合わせた実験系が必要であり、技術的ハードルが極めて高い。そのため、本研究領域を牽引している研究グループは世界的にも限られている。
【CRISPRスクリーニングによるILC2分化制御因子の探索】
イギリスのAndrew N. J. Mackenzieらの研究グループは、Rorc, Id2, Gata3, Rora, Bcl11bの5種類の転写因子レポーターマウスを組み合わせた「5x-polychromILC」マウスを樹立し、ILCPからILC2 precursor (ILC2P) への分化過程をリアルタイムで追跡可能な実験系を確立した(Walker et al., 2019)。
さらに彼らは、成熟ILC2で発現するIL-13レポーターを組み合わせることで、ILC2分化を指標としたCRISPRスクリーニング系を構築し、ILC2分化に必要な転写因子群の網羅的探索を行った。その結果、ILC2分化を促進する分子としてMEF2Dを同定した。(図2)
MEF2DはA/TリッチなDNA配列に結合する転写因子であり、カルシウムシグナル依存的な細胞分化プログラムに関与することが知られている。ILC2分化過程において、MEF2DはIl1rl1(ST2)および Gata3 mRNAの分解を促進するRNA分解因子Regnase の発現を抑制する。そのため、MEF2D 欠損下ではRegnase活性が亢進し、GATA3および ST2発現が低下する結果、IL-33依存的なILC2分化および2型免疫応答が障害される(Szeto et al., 2024)。
現在も同グループはCRISPRスクリーニングで得られた候補分子群の解析を継続しており、学会レベルではZfp871をはじめとする複数の候補分子について機能解析結果が報告されている。今後、ILC2のみならず、ILC1・ILC3分化についても同様のアプローチが期待される。
【ILC3およびLTi細胞におけるLineage specification】
ILCとは異なる前駆細胞に由来するLTi細胞は、どのような分子機構によって転写因子RORγtを発現し、その運命を決定するのであろうか?この問いに対し、Albert BendelacらのグループはTcf7, Rorc, Gata3, Zbtb16, Id2の5つの転写因子のモニタリグが可能な多重レポーターマウスを作製し、ILC系列とLTi系列の分岐点の探索を行った。その結果、胎仔肝臓中のLin−IL-7Rα+α4β7+KitloFLT3− 分画(αLP)において、TCF-1陰性で一過性にRorcを発現する細胞集団(Rorc+αLP)を同定し、この細胞がLTi系列への最も早期の前駆細胞である可能性を示した。(Kasal and Bendelac, 2021)。
一方、筆者らはこれらとは異なるアプローチとして、RORγt発現に先立つエピゲノム変化に着目した。高感度RORγt-EGFPレポーターマウスを用いて、GFPレポーターが開始される直前の胎児肝臓内αLPを単離し、ATAC-seq footprint解析によってRorc遺伝子座に結合する転写因子候補を探索した。その結果、RORγt発現に先立ちRunx3発現が増加するとともに、Rorc遺伝子内の保存性非コード領域CNS11へのRunx結合が予測された。
そこで、CNS11内のRunx結合配列に変異を導入したノックインマウス(CNS11mut)を作成したところ、CNS11mut/mutマウスではRorc+αLPが完全に欠失し、LTi細胞も欠損した。以上から、現在知られている最も初期のLTi前駆細胞であるRorc+ αLPへの運命決定には、CNS11へのRunx結合が必須であることが明らかになった(Fukui et al., 2026)。(図2)
さらに、CNS11mut/mutマウスは成熟ILC3も完全に欠損したことから、CNS11へのRunx結合はLTi細胞のみならず、ILCPからILC3への分化過程においてRORγt発現を誘導する共通の分子基盤として機能することが示唆された。
一方で、CNS11領域はRORγt発現前の胎仔肝臓αLPだけでなく、骨髄αLPにおいても既にクロマチンアクセス可能な状態にある。このことは、CNS11の開放のみではLTi細胞ILC3への運命決定を説明できないことを示している。すなわちCNS11は「RORγt発現を許容するクロマチンプラットフォーム」として機能すると考えられるが、何が最終的にLTi 細胞あるいはILC3への運命決定を引き起こすのかという問いは未解決のままである。
RORγtはILC3やLTi細胞で代表される自然免疫系のリンパ球のみならず、免疫寛容誘導性のRORγt陽性樹状細胞、Th17細胞や胸腺細胞など複数系統の免疫細胞が発現する。興味深いことに、Rorcエンハンサーは細胞系譜特異的、分化段階特異的に使い分けられており、複数の研究グループがその制御機構の解明に挑んでいる。Rorc遺伝子座では細胞系譜ごとに異なるエンハンサー群が利用されることが明らかとなりつつあり、その全体像の解明は今後の重要な研究課題であるが、本稿では誌面の都合上詳細は割愛する。
2. ILCの可塑性
ILC はマスター制御因子の違いに基づいてILC1、ILC2、ILC3の3つのサブセットに分類されてきた。しかし、その後の研究により、ILCは固定的な細胞集団ではなく、炎症をはじめとする組織局所の環境刺激に応答して他のサブセットの性質を獲得する「可塑性(plasticity)」を有することが明らかになってきた。ILC3とそれ以外のILCサブセット間における可塑性に関し、これまでに以下の報告がある(図3)。
【ILC1とILC3の可塑性】
マウス腸管のILC3のうち、CCR6-NKp46-サブセットはIL-12およびIL-15刺激依存的にT-bet発現増加とともにRORγt発現を失いIFNγ産生性のILC1 へと性質を変容させることが知られていた(Klose et al., 2013; Vonarbourg et al., 2010)。また、ヒトのIL-22産生性ILC3はIL-12存在下でILC1 様の性質を獲得し、IFNγ産生性ILC1はIL-23存在下でILC3様の性質を獲得することから、ILC1 とILC3は組織局所のサイトカイン環境に応じて互いに性質を変容させることも明らかになった(Bernink et al., 2015)。
腸管ILC3は中枢神経支配による概日リズムの影響を受けて増減することが明らかになっているが(Godinho-Silva et al., 2019)(Wang et al., 2019) (Teng et al., 2019)、概日リズムがどのようにしてRORγt発現を調節するかは明らかになっていなかった。ごく最近、Marco Colonnaらのグループは転写因子NFIL3がRorc -2kbのシス制御領域に結合し、RORγt発現を抑制することでT-bet+ ILC1への可塑性を促進することを見出した。さらに、概日リズムタンパク質REV-ERBα, β欠損あるいはREV-ERBα, βに対する阻害剤の投与はNFIL3発現を誘導し、RORγt発現を抑制することでILC3からILC1への可塑性を高めることを明らかにした(Bhattarai et al., 2025)。これらの結果は、概日リズムという生理的刺激依存に応答してILC3とILC1が双方向性に変容する可塑性を有することを初めて証明したものである。
【ILC2とILC3の可塑性】
一方、ILC2とILC3の間においても可塑性が存在することが知られている。マウスの肺から採取したILC2をTh17誘導条件下において培養するとIL17Aを産生し(Huang et al., 2015)、マウスの皮膚にIL-23を投与すると、ILC3様細胞が出現することが報告されている(Bielecki et al., 2021)。さらに興味深いことに、ヒトにおいてもc-kit高発現ILC2はRORγtを発現するとともにIL-17産生性ILC3様細胞に変容(Hochdörfer et al., 2019)後、皮膚で乾癬の病態形成に寄与する可能性が報告されている(Bernink et al., 2019)。これらの報告は、ILC2が3型炎症の環境下においてはヒト、マウスともILC3へと性質を変容する可塑性を有していることを示唆する。実際、ILC各サブセットでは、自らの代表的サイトカイン遺伝子座だけでなく、他サブセットに特徴的なサイトカイン遺伝子座も比較的アクセス可能な状態に維持されている(Shih et al., 2016)。 しかしながら、ILC2からILC3への可塑性において、RORγtがどのような転写・エピゲノム制御機構によって再誘導されるのかは依然として不明であり、その分子基盤の解明は今後の重要課題である。
3. ILCと代謝
ILC2は腸間膜などの脂肪組織に比較的豊富に存在している(Moro et al., 2010)。一方、白色脂肪組織内には好酸球が存在し、M2マクロファージの活性化を介してインスリン感受性の維持に寄与することが知られていた(Wu et al., 2011)。その後、ILC2はIL-5産生を介して好酸球を維持し、白色脂肪組織の恒常性維持に重要な役割を果たすことが明らかになった(Molofsky et al., 2013)。さらに、ILC2および好酸球由来の2型サイトカインが脂肪前駆細胞のベージュ細胞への分化を促進し、熱産生およびエネルギー消費を増加させることが示された(Lee et al., 2015) (Brestoff et al., 2015)。これらの知見から、ILC2はエネルギー代謝を促進し、肥満を抑制する免疫細胞として注目されるようになった。
一方、ILC3は腸管に最も豊富に存在するILCサブセットであり、近年、その機能が食事由来脂質により大きく影響を受けることが明らかになっている。また、腸管ILC3は他の組織中のILC3と比較して解糖系の律速酵素であるHexokinase2 (HK2)を高発現している。転写因子TOX2を欠損したILC3ではHK2のmRNAおよびタンパク質発現が低下し、その結果、タンパク質合成を支える解糖系代謝が障害される。そのため腸管ILC3は腸間膜リンパ節など他組織のILC3よりもTOX2欠損の影響を強く受け、Tox2 欠損マウスでは腸管ILC3が選択的に減少する(Das et al., 2024)。
高脂肪食に多く含まれる飽和長鎖脂肪酸(long-chain fatty acids; LCFA)はILC3においてCPT1A依存的なミトコンドリアβ酸化を亢進させ、IL-22産生を抑制する。また、高脂肪食摂取後には脂肪を過剰に取り込んだILC3が脂質毒性(lipotoxicity)を受け、細胞数が急速に減少する。その結果、高脂肪食摂取数日のうちに短鎖脂肪酸産生菌を含む腸内細菌叢の変化が生じ、腸管透過性の亢進 や上皮における抗菌ペプチド産生の低下が観察される。しかしながら、高脂肪食を通常食に戻すとILC3数およびIL-22産生能は速やかに回復し、それに伴って上皮バリア機能も改善する。興味深いことに、高脂肪食によるILC3機能の低下は抗生剤投与マウス(Xiong et al., 2025)や無菌マウス(Torrico et al., 2026) では認められないことから、腸内細菌叢の変化がこの現象に必須であると考えられる。しかし、食事由来脂質、腸内細菌叢、ILC3代謝制御の相互作用を結びつける分子機構については、依然として不明な点が多く、今後の重要な研究課題である。これらの知見は、ILCが単なる免疫細胞ではなく、組織代謝や栄養状態を感知して組織恒常性を維持する代謝センサーとして機能することを示している。(図4)
4. 神経ILCクロストーク
組織常在性リンパ球であるILCは、神経伝達物質や神経ペプチドの受容体を発現している。ILCは神経由来シグナルを受容して末梢組織の環境変化を迅速に感知し、エフェクターサイトカインの産生を正負に制御することで、生体防御や組織恒常性の維持に寄与することが近年明らかになってきた。本項では、ILC2およびILC3機能を調節することが報告された神経伝達物質や神経ペプチドを概説する。(図4)
【GDNFによるILC機能制御】
腸管ILC3はGlial-derived neurotrophic factor (GDNF)受容体であるRETを高発現している。腸管では、ILC3がGFAP陽性グリア細胞の突起に近接して局在しており、細菌由来シグナルによって活性化されたグリア細胞はMyd88経路依存的にRETリガンドを産生する。これらRETリガンドはILC3に作用し、p38 MAPK、ERK-AKT およびSTAT3経路を活性化することでIL-22産生を誘導し、上皮バリア機能の維持に寄与することが報告されている(Ibiza et al., 2016)。
一方、脂肪組織では交感神経刺激を受けた間葉系細胞がGDNFを産生する。GDNFは脂肪組織中のILC2が発現するRET受容体を介してILC2を活性化し、IL-5およびIL-13産生を促進する。その結果、好酸球やM2マクロファージを介した脂肪組織の恒常性維持やエネルギー消費の促進に寄与する。実際、RET欠損マウスでは脂肪組織ILC2の機能が低下し、エネルギー消費の減少、インスリン感受性の低下、および肥満傾向が認められる(Cardoso et al., 2021)。一方、RET活性型変異マウスでは高脂肪食負荷による体重増加が抑制され、インスリン感受性も改善することが報告されている。
このように、GDNFファミリー分子は神経系と免疫系を結びつける重要なメディエーターとして機能し、ILC3による腸管バリア機能維持やILC2による脂肪組織代謝制御など、組織特異的なILC機能を調節することで、多様な生理機能の維持に寄与している。
【ノルエピネフリンはILC2機能を抑制する】
腸管ILC2はβ2アドレナリン受容体(β2AR)を高発現しており、腸管ではアドレナリン作動性神経と近接して局在している。アドレナリン作動性腸管神経はノルエピネフリン(Norepinephrine)を産生し、 β2ARを介してILC2機能を抑制する(Klose et al., 2017)。β 2AR欠損によりILC2活性は増加し、腸管と肺における2型免疫応答が過剰となる(Moriyama et al., 2018)。β2アドレナリン受容体作動薬であるサルブタモールは気管支喘息発作の有効な治療薬の一つであり、その作用機序の一部としてILC2を介した2型免疫の抑制が関与している可能性が考えられている。
【ドーパミンはILC2機能を抑制する】
ILC2におけるドーパミン受容体欠損は2型サイトカイン産生を亢進させ、気管支喘息の病態を悪化させることが報告されている(Cao et al., 2023)。ドーパミン刺激はILC2のミトコンドリア機能を低下させ、細胞内ATP産生を抑制することでILC2機能を制御すると考えられている。ドーパミンシグナルを標的とした新規喘息治療への応用が期待される。
【CGRPはILC2機能を抑制する】
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は主に侵害受容神経やコリン作動性神経、肺神経内分泌細胞から産生される神経ペプチドであり、ILC2自身も産生することが知られている。ILC2はCGRP受容体を発現しており、CGRPはILC2からの2型免疫サイトカイン産生を抑制する(Nagashima et al., 2019) (Wallrapp et al., 2019) (Xu et al., 2019)。
一方、IL-13受容体α1陽性(IL13Rα1+)腸管神経もβ-CGRPを産生する。つまり、ILC2由来IL-13はこれらの神経に作用し、β-CGRP 産生を誘導することでILC2機能を抑制するというネガティブフィードバック回路を形成することが報告されている(Wang et al., 2025)。
さらに、CGRPは条件によってはILC2からのIL-5産生を促進することも報告されている。このようにCGRPは、細胞内在性および細胞非内在性の機構を介してILC2機能を複雑に制御している。
【NMUはILC2機能を亢進する】
Neuromedin U (NMU)はコリン作動性腸管神経から分泌される神経ペプチドである。ILC2はNMUの受容体であるNMUR1を発現する。Nippostrongylus brasiliensis 感染時には腸管神経におけるNMU発現が著しく増加し、ILC2に作用することでcalcineurin-NFAT-ERK1/2 経路を活性化し、IL-5およびIL-13産生を促進する。その結果、寄生虫感染防御に寄与するとともに、肺では2型炎症を増悪させることが知られている(Cardoso et al., 2017; Klose et al., 2017; Wallrapp et al., 2017)。
一方、Neuromedin B (NMB)はNippostrongylus brasiliensis感染時に好塩基球依存的に肺のILC2機能を抑制することが報告されている(Inclan-Rico et al., 2020)。
【アセチルコリンによるILC2機能制御】
アセチルコリン(ACh)は主としてコリン作動性神経から産生される神経伝達物質である。ILC2はα7-nicotinic acetylcholine receptor (α7nAChR)をはじめとする複数種のアセチルコリン受容体を発現している。ILC2 におけるα7nAChRシグナルは2型サイトカイン産生を抑制することが報告されている(Galle-Treger et al., 2016)。一方で、ACh はα7nAChR 以外の受容体を介してILC2の増殖および2型サイトカイン産生を促進し、寄生虫感染防御に重要な役割を果たすことも報告されている(Chu et al., 2021; Roberts et al., 2021)。このように、AChは2型炎症に対して促進的・抑制的の両面の作用を有している。
【VIPはILC機能を制御する】
グルカゴンスーパーファミリーに属する血管作動性腸管ペプチド(Vasoactive intestinal peptide =VIP)は腸管のnitric oxidase synthetase 1 (Nos1)陽性神経や肺のNav1.8陽性侵害受容神経から分泌される神経ペプチドである。腸管ではVIPは食事摂取に伴って分泌される。VIPはVIPR1および VIPR2を介して水分、電解質分泌を促進するとともに、膵臓外分泌や腸管蠕動運動を制御(Uvnäs-Moberg, 1983)する。
腸管ILC2はVIPR2を発現しており、VIP刺激を受けたILC2はIL-5産生を介して好酸球を動員し、2型炎症を増悪する(Nussbaum et al., 2013)。また、VIPはCD4陽性T細胞やILC2に作用し、喘息病態を悪化させるほか(Talbot et al., 2015)、寄生虫Trichuris murisに対する抵抗性を亢進する ことが報告されている(Pascal et al., 2022)。
腸管のCCR6陽性ILC3もVIPR2を発現しており、VIPはILC3のIL-22産生を促進することで病原性細菌であるCitrobacter rodentiumに対する抵抗性を高める(Yu et al., 2021)。また、ILC3の概日リズムはVIPによって間接的に制御されることも知られている(Seillet et al., 2020; Talbot et al., 2020)。一方で、VIPによるILC3制御については報告間で差異も存在し、その作用機序についてはさらなる検討が必要である。
VIP受容体は腸管上皮にも発現している。VIPはLgr5陽性腸幹細胞に作用し、tuft細胞への分化を抑制することで、tuft細胞-IL-25-ILC2回路の形成を抑制する(Jakob et al., 2025)。一方、上皮細胞特異的なVIP受容体欠損は1型免疫応答を低下させ、2型免疫応答を促進することが報告されている。さらに、上皮に対するVIPシグナルは細菌感染に対する抵抗性を高める一方で、寄生虫感染防御を減弱させる(Pirzgalska et al., 2025)。したがって、VIPによるILC2活性化は、上皮におけるVIP作用を補完する役割を担っている可能性がある。
このように、VIPはILC2およびILC3 機能を制御することで、 食事とともに腸管に侵入する病原体に対する防御機構の調節に関与していると考えられる。
【中枢神経とILC】
腸管ILC3は中枢神経によって制御される概日リズムの影響を受けていることが知られている(Godinho-Silva et al., 2019),(Wang et al., 2019),(Teng et al., 2019)。また、腸管ではグリア細胞由来RETリガンドがILC3に作用し、IL-22産生を誘導する(Ibiza et al., 2016)。さらに、腸管VIPシグナルもILC3の概日リズム制御に関与することが報告されている(Seillet et al., 2020; Talbot et al., 2020)。中枢神経と末梢神経よるILC3機能制御がどのように統合されているかは、今後の重要な研究課題である。
一方、マウス髄膜にはILC2が存在し、脊髄損傷時にはIL-33依存的に活性化されることで神経修復に寄与することが報告されている(Gadani et al., 2017)。また、加齢マウスの脈絡叢にもILC2が存在し、その活性化が加齢に伴う認知機能低下を緩和する可能性が示唆されている(Fung et al., 2020)。
このように、神経系によるILC制御は、従来のサイトカイン依存的な免疫制御とは異なり、神経活動の変化を迅速に免疫応答へ変換する機構として機能していると考えられる。特にILC2は交感神経、感覚神経、コリン作動性神経など複数の神経回路から入力を受け、寄生虫感染、アレルギー、代謝恒常性を統合的に制御する。一方、ILC3は腸管グリア細胞やVIPシグナルを介して上皮バリア機能や概日リズムと連携することが明らかになってきた。神経-ILCネットワークは組織恒常性維持の重要な制御機構として注目されており、今後は中枢神経系から末梢組織に至る統合的理解が期待される。
5. ILCと腫瘍
組織常在性の免疫細胞であるILCは、様々ながん組織の中にも浸潤していることが知られている。正常組織においてILCは免疫組織形成、炎症応答、組織修復、線維化、代謝制御など、多様な機能を担うことから、腫瘍組織においても腫瘍微小環境を構成する重要な細胞群の一つとして注目されている。実際に、ILCはサイトカイン産生や細胞間相互作用を介して、腫瘍の増殖、血管新生、転移、抗腫瘍免疫応答などに関与することが報告されている(図4)。
一方で、ILCの機能は腫瘍種や組織環境によって大きく異なる。例えば、ILC1やNK細胞様の性質を持つ細胞群は抗腫瘍作用を示す一方、ILC2やILC3は状況に応じて抗腫瘍的あるいは腫瘍促進的に働くことが報告されている。そのため、ILCが腫瘍形成において保護的に働くのか、あるいは病態を増悪させるのかについては、いまだ統一した見解は得られていない。
こうした背景のもと、欧州ではILCの生理的・病理的機能を包括的に理解することを目的として、国際共同研究プロジェクト「ILCquest」(https://www.ilcquest.org)が立ち上げられた。ILCquestでは、ヒト疾患におけるILCの役割を体系的に解析し、将来的な診断・治療標的としての可能性を検証することを目指している。腫瘍免疫学の分野においても、ILCを標的とした新たながん治療戦略の開発につながることが期待されている。
6. 今後の展望
ILC研究は発見から15年余りで、細胞分類、発生機構、エフェクター機能の理解を大きく進展させた。一方で、近年は組織ニッチ、代謝、神経、概日時計など、多様な局所環境がILCの性質を制御することが明らかとなり、「組織生物学」の視点からILCを理解する時代へと移行しつつある。今後は、単一細胞解析や空間トランスクリプトーム解析、エピゲノム解析を統合することで、組織内におけるILCの動態や可塑性を分子レベルで理解することが重要となるであろう。さらに、ヒト組織におけるILCの多様性や病態への関与を明らかにすることで、ILC研究は免疫学のみならず再生医学、神経科学、代謝学、腫瘍学を融合する新たな研究領域へ発展していくことが期待される。
今後のILC研究は、「どのサイトカインを産生するか」という細胞内在的な理解から、「どのように組織を構築し、維持し、再構成するか」という組織レベルの理解が加速していくものと考えられる。そして最終的には、ヒトの組織恒常性維持機構とその破綻による疾患発症機序の理解を通じて、新たな予防・診断・治療戦略の創出へとつながることが期待される。
② 粘膜組織の線維芽細胞
③ マクロファージ