研究内容
研究内容の紹介
次世代型二次電池の開発(新規セラミックス電解質・電極材料・電池デザイン)
(1) ナトリウムイオン電池の特長
本研究室では、JST革新的GX技術創出事業(2023-2028)蓄電池分野「資源制約フリーなナトリウムイオン電池の開発」支援をうけて、酸化物系全固体ナトリウムイオン二次電池の実現に向けた研究開発を行っています。
ナトリウムイオン電池、ここでは有機電解液を用いる一般型のナトリウムイオン電池の特徴は以下の通りです。
主に、正極に層状酸化物、負極に難黒鉛化炭素の電極活物質が想定されている。これらはリチウムイオン電池で該当する物質と性質や実用性において完全に対応する訳ではない。
Li, Coのように資源偏在などの問題を抱えるもの以外の元素を用いることが出来る。
負極にCuの代わりにAl集電体を用いることができるなど、各要素部材により安価なものを用いることで、低コスト化が期待できる。
低粘度で高イオン伝導の電解液の特徴から、リチウムイオン電池に比べて優れた低温特性や高いレート特性が期待できる。
本研究では、上記の特徴や要素材料を部分的に受け継ぎつつ酸化物系セラミックスからなるナトリウムイオン電池の実証を目指します。
(2) 酸化物系全固体電池の構造と構成材料
酸化物系の全固体リチウムイオン二次電池は、主に我が国のセラミック電子部品メーカー各社から実用化が進んでいます。酸化物系全固体電池の特長には以下が挙げられます。
積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)の製造に類似した、テープキャスト積層膜一体焼成によって製造される、モノリスチップ様の小型素子。
小型電子機器向けの用途が想定されている。絶対的な出力や容量および、エネルギー・出力密度は現在のところ限定的。例として、電圧1.6 V , 出力20 µW@1/5C。設計次第では、単一の電池素子内での直列接続で電圧を自在に上げることが可能。
完全に安全で、耐熱性と耐候性に優れる。リフローはんだ付け(~260°C)による電子回路基板実装が可能であるように設計されている。低温特性にも優れる。
要素材料は、各社それぞれ異なるものの、例として、電解質にナシコン型 Li2+xAl2−xTix(PO4)3 (LATP)、電極活物質にナシコン型 Li3V2(PO4)3 (LVP)が用いられている。
この様な特徴を受け継ぎつつ、リチウム系に比較して、ナトリウム系要素材料における全般に高いイオン伝導性や電気化学反応に対する特性の安定性に着目して、リチウム系を上回る電池性能を引き出すことを狙います。
本研究室でも、テープキャスト積層による全固体電池形成の取り組みを行ってきました。この検討過程で、問題点を洗い出し対処方針について固めてきました。改めて本プロジェクトで、安定して優れた特性を持つ積層型電池を作成するための道筋を得ることを目指します。
(3) ナトリウムイオン伝導性固体電解質の開発
酸化物系全固体電池は、一般的なセラミック製品の製造と同様に焼結を経て作成されます。積層セラミックコンデンサーの製造では、酸化物系誘電体と金属系電極材料の共焼成が課題でしたが、全固体電池の場合は、電解質、電極活物質、導電助剤などより多数の要素材料の共焼成が必要であり、焼結に要求される条件は非常に厳しくなります。どのような焼結手法をとるにせよ、要素材料間の無用な反応を抑止するためには、焼結温度の低減が必須です。
ナトリウム系の有力な固体電解質にNa3Zr2(SiO4)2(PO4) (NZSP) 材料があり、室温で1 x 10-3 S cm-1程度の高いナトリウムイオン伝導度が得られる事から有望視されています。NZSP基材料では、近年の多くの種類の元素置換や作成条件の検討により、室温での伝導率が3-5 x 10-3 S cm-1程度が標準値となるくらいに高められており、リチウム系電池を上回る高出力化への寄与が期待されています。しかし焼結に1250°C前後の高温を要することが問題です。焼結助剤添加による焼結温度の低減も検討されてきましたが、全般に焼結温度が下がるほど室温でのイオン伝導度も減少する傾向があります。この全般的傾向には、900°C程度の比較的低温で焼結できることを特徴とするリチウム系のLATP基材料も含まれます。本研究では、この傾向を打破して、低温で焼結できつつも、室温での高いナトリウムイオン伝導を有する電解質材料を開発します。この様な電解質により、多様な要素材料との共焼結や接合、複合化を可能として、優れた特性を有する電池の構築につなげます。
(4) 低温焼結のための材料とプロセス開発
低温焼結の為の別の手法として、ガラス前駆体粉末の熱処理による緻密結晶化、すなわちガラスセラミック法についての検討を行います。この手法では、ガラス転移温度~軟化温度よりもやや高い温度域で、過冷却液体状態となっている粒子の粘性流動により緻密化させ、その後結晶化させることで、比較的低温で副反応を抑制して対象物を得ます。
ナシコン型結晶の化学組成はしばしば、ガラス形成を可能とします。例として、ナシコン型Na3Ti2(PO4)3 (NTP)厚膜をNZSPセラミック電解質基板上に、ガラスセラミック法を用いて形成した例を示しています。負極に金属ナトリウムを用いた半電池は室温で動作するほか、低温においても一般的なリチウムイオン電池で見られるような極端な性能低下がみられず、全固体系の特徴が見出されます。
(5) ナトリウムイオン電池構築
酸化物系の電解質は、熱力学的に安定に自身を維持できる電圧範囲である電位窓が硫化物系材料よりも広い事を特徴としています。電位窓の外でも分解速度が遅く許容できる場合があることや、電極活物質表面での不働態形成や表面コーティングにより電位の分布をを分担することで分解を抑止するエンジニアリングが施されます。ただし本質的に電極活物質とのマッチングの素性が良いことが重要であると考えられます。
本研究では、酸化物系ナトリウムイオン伝導体の特徴を生かしつつ、高出力化と高エネルギー化を図った酸化物系全固体電池を構築する事を目指します。さらに将来的には、より大型化に適した電池を開発することで、より大きな移動体向けや定置型電池への展開にむけて取り組みます。
(2024/5/1)
新しい機構に基づいた新規圧電体・強誘電体・反強誘電体の創製
現在実用化されている圧電体や強誘電体の多くにおいて、その特性はPbやTiイオンなどの特殊な電子構造を起源としています。そういった化学的制約を打破すべく、アニオン配位多面体の回転や歪みを巧みに利用した、従来型とは全く異なる圧電・強誘電体設計指針の構築を、理論計算と実験的手法を組み合わせることにより目指します。
活性アニオンが起源の機能を持つセラミックス
12CaO・7Al2O3(C12A7)やその派生型の結晶は、陰イオンを取り込むナノサイズの空隙をもつ特異な構造を持っています。この空隙には通常の環境では存在し難い活性な化学種を取り込みます。
例えば水素化物(H-)イオンを取り込んだものは、紫外線照射によって絶縁体から電子導電体に変化する機能性を持ちます。また電子自体を取り込んだC12A7「エレクトライド」は電子の放出・注入のための優れたカソード材料になります。この様な、水素化物イオンや電子などに起因する機能性に着目した新物質を探索しています。
酸化物を基本に、異なる陰イオンを複合化させる事で、既存の酸化物の範疇を超えた広い物質の可能性が広がります。研究プロジェクト「新学術領域 複合アニオン化合物の創成と新機能(2018-2022)」でも研究を実施しました。