糸状菌に特徴的な両親媒性分泌タンパク質ハイドロフォビンの生物学的機能解析

Analyses of biological functions of hydrophobins, amphiphilic secretory protein characteristic of filamentous fungi

はじめに

ハイドロフォビンとは、糸状菌に特徴的な両親媒性の低分子量分泌タンパク質です。糸状菌の胞子や菌糸表面に局在し、気中菌糸の形成や胞子の空気中への分散性に関与することが知られています。また、固体高分子表面を被覆することにより菌の固体表面への接着を補助する役割があり、糸状菌の固体侵襲において重要な機能を持つと考えられています。さらに、固体高分子を分解する際、酵素による基質分解を促進するという働きがあるものも報告されています。一方、植物病原菌や木材腐朽菌におけるハイドロフォビンの役割については、不明な点が数多く残されているのが現状です。

トウモロコシごま葉枯病菌におけるハイドロフォビン遺伝子の機能解析

私たちは、植物病原菌におけるハイドロフォビンの役割を理解するため、まずトウモロコシごま葉枯病菌の4つのハイドロフォビン遺伝子について機能解析を進めています。今のところ、いずれの遺伝子を単独で欠失しても菌糸表面の疎水性には影響しないことが明らかになっています。

また、有性生殖に関わる子嚢果や病原性に関わる付着器の形成能、トウモロコシ葉に対する病原性についても、野生株とハイドロフォビン遺伝子欠損株の間に顕著な違いは見出されませんでした。

今後は麹菌や木材腐朽菌のハイドロフォビン変異株との表現型比較を通して、トウモロコシごま葉枯病菌におけるハイドロフォビンの役割について探っていく予定です。最終的には、様々な菌類においてハイドロフォビンの機能を明らかにし、糸状菌におけるその機能の普遍性と多様性に迫りたいと考えています。

関連文献:Tanaka et al., 2022

関連発表:吉田ら,令和2年度日本植物病理学会関西部会,2020;寺内ら,日本菌学会第66回大会,2022年 ほか