推薦者:李聖一(り せいいち)(上智学院カトリック・イエズス会センター)
教会と共生(教会と教育)
G.R.Kearney (2008). More than a dream: the Cristo Rey Story: how one school's vision is changing the world. Loyola Press.
シカゴの郊外にピールセンという町がある。名前が示す通り、かつてのチェコ・スロバキアからの移民たちが住み着いたところである。その町に、次第にメキシコからの移民が住むようになった。その町に先住していた人々は、より豊かな生活を求めて、さらに郊外へと移っていったため、メキシコ移民がその町に住みつくようになったのである。日本人には想像しがたいことだが、メキシコ人が一番たくさん住んでいる都市は、首都のメキシコ・シティー。では二番目は?それは、シカゴである。
彼らは、当然、家族とともにやってきた。アメリカは、ある意味、寛大な国で、彼らの生活をある程度は保障し、子どもの教育についても、アメリカの学校で勉強することができるようにしてくれる。ところが、英語も十分に理解できない子どもたちが勉強についていくことはできず、結局はドロップ・アウトしてしまい、昼日中から街をうろつき、することといえば、悪さしかないような状況を生み出してしまう。街は荒れ果て、治安は悪化し、貧しさから脱却することのできない家族は崩壊する。移民の歴史によって成り立ってきた国はこの波を何度も繰り返してきた。
そんな状況を見て、イエズス会員は動いた。メキシコ人の大多数はカトリックである。イエズス会員は教会に彼らを呼び集め、司牧活動を始めた。そして、気付いた。若者たちを変えていくためには学校が必要であることに。勉強し、学ぶ力を身につけ、将来を見据えて生きる可能性が見えるようにしていくことに。イエズス会は、教育の力があることを知っている。そのようにして、イエズス会のミッションは動き始めた。
本書は、その次第を詳しく語る。そして、そこで学んだ若者たちの声を記録する。学校運営の方法もユニークである。授業料を支払うために取り入れられた“work-study program”は、地元の有力企業と提携して、生徒たちに仕事を与え、それで得た給与を授業料に充てるシステムである。このシステムを導入し、実施するための苦労話、アメリカ社会の寄付マインド、そのプログラムを通して変化する生徒たち。この本は、そうしたエピソードに満ちている。そして、人が変わり、家族が変わり、街が変わっていくことも。
この本を読むと、学校教育にどれほどの力があるか、思い知される。ゆえに、イエズス会が450年にわたって学校教育をミッションとしてきた理由も理解できる。“Insitutio Puerilis est Renovatio Mundi”(若者の教育は世界の変革である)という信念である。
もしそうであるなら、私たちが生きる今の日本において、何が必要か、そして何が可能か。そうしたことも考えさせるのである。