推薦者:島薗進(しまぞの すすむ)(上智大学実践宗教学研究科)
教会と戦争
上智学院カトリック・イエズス会センター、島薗進編(2020)『核廃絶 諸宗教と文明の対話』岩波書店
核兵器禁止条約が発効するが、なぜ核廃絶が求められるのか、キリスト教、仏教、新宗教等、異なる背景をもつ宗教者と研究者らが論じ合っている。被爆者の経験、宗教者の経験と学術的な議論がかみあい、日本の市民社会へのわかりやすいアピールの書となっている。フランシスコ教皇の来日に先立って上智大学で行われた平和のためのシンポジウムがもとになっている。
教会と共生(宗教と公共圏)
ハーバーマス, ユルゲン、チャールズ・テイラー、ジュディス・バトラー、コーネル・ウェスト、クレイグ・カルフーン (2014)『公共圏に挑戦する宗教 ポスト世俗化時代における共棲のために』(エドゥアルド・メンディエッタ、ジョナサン・ヴァンアントワーペン編、箱田徹、金城美幸訳)岩波書店
政治的な関与を重んじつつ、現代哲学の先端領域を切り開いてきたフランクフルト学派のハーバーマスとカトリックの背景を持つテイラーが、ユダヤ人女性として宗教的な次元を含んだ問題提起をしてきたバトラー、黒人の抵抗の宗教学者として知られるウェストとともに、現代社会の公共圏における宗教のあり方について、また多元的な立場の共存と対話の可能性について論じている。
カサノヴァ, ホセ(1997)『近代世界の公共宗教』玉川大学出版部
特定の宗教教団が正統的な地位をもって、精神文化を支配し、政治的な影響力を独占的に行使していた時代から、立憲主義の時代となり、多元的な世界観を容認し、共存する時代となった。だが、それは公共空間に宗教が影響力をもたないということではない。キリスト教世界では、公共空間においてこそ宗教的なビジョンが提示されるという新たな局面に入っている。なお、近日中に筑摩書房から文庫本として再刊予定。
ベラー, ロバート・N他(1991)『心の習慣 アメリカ個人主義のゆくえ』みすず書房
キリスト教という宗教伝統を背景にもったアメリカの個人主義だが、共同性を見失うと人々の公共心も衰えていき、無関心と連帯の欠如がゆきわたることになってしまう。かつてフランスの政治学者トクヴィルがアメリカに特別豊かに見られると捉えた公共的参与の「心の習慣」が、20世紀末にどのような方向に展開しようとしているのか。インタビュー調査から探っている。
教会と共生(ともに生きるためのヒント)
島薗進(2019)『ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化』朝日新聞出版
宗教は「悲しみの器」としての働きをもっている。とりわけ死をめぐる悲嘆に対する慰めは宗教的文化によって提供されてきた。しかし、近代化による個人化と世界観の多元化が進むにしたがって、悲嘆が個々人の胸の内にしまい込まれるようになる。こうした孤独な心を開いて、「ともに悲嘆を生きる」ことを学ぼうとするのがグリーフケアだ。日本の近代精神史をたどりながら、そう論じられている。